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私
しおりを挟む平日、仕事終わりにカフェに寄る
オフィスからすぐ近くのビル、その1階に入っているカフェ
ホットのラテを買って窓際の席に座った
大きな駅周辺であるこの場所はいつも人で溢れている
特に夕方と夜の境のこの時間は、帰宅する人と遊びに出る人で賑やかだ
陽が落ちて空が暗くなってもここら辺一帯は朝まで明るい
私は 柏木 慶 女性、今年27歳になる会社員、独身だ
会社は駅前のオフィスビルに入っていて毎朝バスで通勤している
デスクワークを9:00~17:00まで、土日祝日は完全休みという職場
事務員で入力作業や電話の取次ぎがメインだが仕事は嫌いじゃない
数少ない友人とたまにデートする以外はこれといって休日に予定もない
「趣味」といえるものは、映画や読書が好きなのと
写真を撮るのが好きでお気に入りの一眼レフを持っていること
ダーツは友人と一緒になんとなくやり始めてから続けている
この夕方のカフェで珈琲を飲む時間も好きだ
会社の一社員として従事する自分からただの自分に戻る瞬間
大きな窓から街を眺め、時間を気にせず好きなだけここに居る
ほかにお気に入りの場所と言えば、素敵なマスターが居るバーか
癒しの空間であるネイルサロンくらいだろうか…
…先日の、一緒にホテルに行ったあの彼は、そのお気に入りのバーの常連で
少し前から店で会えば話すようになったというだけの関係だ
これまで顔は知っていても話すことは無かったのだが、
たまたまお互いに一人の時があり映画のことでお喋りをした
それ以来向こうも声をかけてくるし
なんとなく常連同士だしね~、みたいな感覚で付き合っている
名前は理人くんという
…あの日は金曜だったこともあり、早い時間からバーが混雑していた
私が日を改めようと店を出るところに彼が入ってきたのだ
「あれ、慶さんもうあがりなの?」
いや…座るとこ無いから見てみな、と私は店を出たのだが
「ねぇ~ちょっと待って、慶さんどっかで飲もうよ~!」
と、追いかけてきた彼に飲みに誘われたのである
私は楽しくお喋りをするだけの「飲み友」みたいな人間を相手している暇は無い
「女」として人生を焦っている、20代がもう終わろうとしているのだ
この週末は新規の出会いを求めて有効に動こうと決めていた…
出会いを求めて…って…
…理人も一応「男」じゃね?
私の中の「ズルい女」が囁く
どうせ関係性の薄い人間なんだから、釣るだけ釣ってダメならバイバイでいいんじゃない?と…
確かに男女の関係なんて些細なことで始まって些細なことで終わるものだ
「あ~ごめん、私…これからセックスできる人を捕まえに行きたいから…」
と、追いかけて来た理人に耳を疑うようなチープな撒き餌を投げた
突然こんなことを言い出す女なんて普通であれば恐怖の対象だろうが
もし相手がセックスにだけでも興味があれば、それを共有する時間でその人間を知ることが出来る
それに理人のことは、人間的に好きではある
彼は少々間をおいてから
「…じゃあ10分だけ待っててよ」
と、目の前のカフェを指さした…
…私の話をちゃんと理解して貰えたのだろうか?
すぐ戻るから、と言い残しビルの奥へ行ってしまった
これは理解していない?…それとも理解したものとして待つべきか…
ちょっと迷ったがカフェに入り待つことにした
どうしたもんかと考えながら珈琲を飲んでいると彼が戻ってきた
「へ~…、どした?お洒落しちゃって」
さっきまでTシャツにジャージでいた彼が、綺麗なセットアップを着て現れたのだ
いいからほら行くよ!と私を席から立たせると
「だって、慶さんの隣を歩くなら…ね、はい!」
と言いながら腕を組み、私をエスコートして駅の方へ歩き始めた
彼が案内した先は駅前にあるシティホテルだった
フロントへ寄りそのまま上の階のラウンジへと向かう
ラウンジのスタッフに通されたのは、窓際の景色を一望できる席だった
ライトアップされたタワーと周囲のビル群という夜景を独占できる
天下を取ったような景色を眺めていると、すぐにワインのボトルが用意された
グラスにワインを注いでもらい受け取ると
「じゃあ、今日慶さんが探してた勇者は俺、ってことで乾杯ね!」
私は黙ってグラスを合わせた
…そうして結局、顔見知りの彼とセックスをしてしまった
そう長くない時間だったが、近くで見た理人はあまりに天真爛漫で…
自分の中のしょーもない焦りで手を出した事実を後悔した
自分が恥ずかしく思えて逃げるように帰ってしまった
その後はどうも罪悪感やら自己嫌悪やらで消化不良のような、スッキリしない気持ちでいる…
というのが現状だ
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