「2人の運命」

愛理

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第36話「自分で手離した運命の人」

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「正直、浅川を抱いた時からそうじゃないかと思ってた」
  俺は瀬戸の目を真っ直ぐに見ながら言った。
  そんな俺に瀬戸は大きな溜息を吐いた後、
「俺、お前から浅川とのことを聞いた後、駄目もとで浅川が暴力を振るわれているところを目撃した人を川辺近くで捜してみたんだよ」
「え? 瀬戸、お前そんなことまでしてくれたの?」
「だって、同じ遠距離恋愛してた同士、何かほっとけなくてさ」
「瀬戸」
  俺は瀬戸がこんなにも俺のことを思ってくれてるのに瀬戸の忠告もちゃんと聞かずにまたこんなことになってしまったことをこの瞬間、もの凄く後悔した。
  瀬戸はずっと遠距離恋愛の彼女と順調に愛を育んでいるのに。
「で、浅川が暴力を振るわれたところは見た人はいなかったんだけど、川辺の近くをいつも通学路として通るという女子高生2人組に話を聞くことができて、その2人が偶然、川辺近くに立っている大きな木のところで女性と男性が2人でいて、女性の方が男性にお金を渡してたのを見たって言ったんだ」
「まさか」
「そう。そのまさかだよ。俺は大学に入りたての頃、同じ学科の何人かで食事に行ったんだけど、その時に浅川もいて、店の人にその時のメンバー全員での写真をスマホで撮ってもらって、スマホの持ち主がその時のメンバー全員にその画像をスマホで送ってくれたのがあったから、それを見せて、浅川のこと指さして、もしかして、女性はこんな感じの人? って聞いたら、あ、まさにこの人だって2人とも言ったんだよ」
「…………」
「で、本当に偶然なんだけど、男性の方を今日も見たって2人が言って、その男性が奇跡的にまた俺達の方に歩いてきていて、2人があの人ですって言うから、俺、その男性捕まえて聞いたんだ。大学生の女性に暴力振るったのはあなたですねって。その男性は20代後半から30代前半に見えた。するとその男性は慌てて、あれはお金を渡すんで暴力を私に振るってくれませんかと言われたからやったって男性が言ってさ。で、俺はああ、また浅川がやっぱり仕組んだことなんだなと思った。ちなみに性的暴力なんて一切してないって言ってた」
「…………」
「本田、前に俺、言ったよな。何が一番大切か誰を一番に信じるかって。お前は騙された挙句、一番大切な美香ちゃんを傷つけて失ったんだよ。俺はお前の運命の人は美香ちゃんだって思ってたけど、お前はその運命の人を自分で手離したんだ」
  俺は瀬戸からそう言われ何も言い返すことができない。
  だって、本当にその通りだから。
  美香が運命の人ならいいのにって思っておきながら、俺はまた最低なことで美香を傷つけて、本当に自分で美香を手離してしまったんだから。
 俺がそう思った後すぐに、
「だけど、本田、このままじゃ良くないよな?」
  瀬戸にそう言われて、俺は黙ってただ頷いた。
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