「忘れられない人」

第５３話「フォーカス」

  それから、次の土曜日に私はまた陸人と会うことができた。
  陸人は仕事があったから、そんなに長い時間ではなかったけど、それでも私は凄く幸せだった。
  私達は陸人が新しく借りたというマンションで会った。
  ２人で入ると怪しまれるので、とりあえずマンションの中へは別々に入った。
「うわー、何か高そうなお部屋だね。まあ、このマンションの外観も高そうなところだなって思ったけど」
  私は部屋に入るなりそう言った。
  すると陸人はくすっと笑って、私を抱きしめて、
「亜美がそういう一般的な反応してくれるのが嬉しいよ」
  そう言った。
「何それ。どーせ私は凡人ですよ」
「違うよ。純粋で素直で嬉しいって意味で言ったんだよ」
  陸人はそう言い私を更に強く抱きしめた。
「陸人？」
「俺と別れて家に帰った後、平気だった？　まあ、２度くらい電話で話したけど」
「うん、大丈夫だよ。普通に会話もしてるから。ただ、やっぱり、前よりはちょっとぎごちなくなっちゃったけど」
「ごめんな」
「ううん、私が陸人と一緒にいたいんだから。陸人は気にしなくていいよ」
「亜美」
  私達は見つめ合った後、キスをして、その後は陸人の部屋で２人でのんびりと過ごした。
  この時も私はやっぱり凄く幸せだった。
  そして、やっぱり、陸人と一緒にいることが私の一番の幸せなんだとも思っていた。

  だけど、それから２週間後のことだった。
  この日もまた土曜日で私は仕事は休みで、誰とも会う約束をしていなかったので、私は昨日、残業で遅い時間に帰宅したこともあって、１０時過ぎまで寝てしまっていた。
  そして、私が目覚めたのは知咲からのＬＩＮＥのメッセージを知らせる着信音だった。
  よく知咲からのＬＩＮＥで目が覚めるなと思いながら私は枕元に置いてあったスマートフォンを手に取って、ベッドで仰向けになりながらメッセージを見た。
  すると、そこには、
“亜美、大変だよ。どうしてか解らないけど……今更なのに陸人くんが雅人くんを車で轢いたことが雑誌でフォーカスされてるよ”
  そう書かれてあった。
  だから、私は一気に目が覚めて、慌てて、着替えたり、朝食を食べたり、顔を洗ったりした後、知咲に教えてもらった陸人が雅人を車で轢いたことがフォーカスされているという雑誌を買いに家から一番近い場所にあるコンビニに自転車で向かった。
  そして、コンビニに着いて、私は真っ先に教えてもらった雑誌が置いてある場所へ向かった。
  知咲に教えてもらった雑誌は“有名人の秘密”という雑誌で、年に４回だけ出る雑誌らしかった。
  とりあえず私はその雑誌を手に取った。
  すると表紙はたまにテレビで見かけるなという感じの若いグラビアアイドルが飾っていた。
  だけど、その表紙の部分に赤字で大きく、
“今、旬のモデル、佐山陸人の大きな秘密。まさかあの佐山陸人が？”
  と載っていて、私は慌てて陸人のことが載っているページをめくった。
  するとそこには知咲が言っていたとおり、本当に、
“佐山陸人は人を車で轢いていた！”
  そんな大きな見出しから始まる、雅人の事件の時のことが詳しく載っていた。