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第7話「まさかの展開」

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 橋川さんは親睦会の日、2人で駅まで一緒に歩いて帰った後から、何故か今までの私に対する態度が急変して、私にあたりがキツクなくなり、冷たくもなくなった。
 また、職場の他の人へも前より穏やかな感じで接するようになった。
 私はどうして橋川さんがそんな風に変わったのか全く解らなかった。
 そして、さらにもっと驚くことが私に起こった。
 それは金曜日の午前中、本当に偶然に職場の事務所で私と橋川さんが2人きりになった時だった。
「戸田、今日、帰り空いてる? 空いてたら一緒に飯食いに行かない?」
 と橋川さんに誘われた。
「えっ?」
 私は橋川さんが私のことを誘ってくるはずない、聞き間違いだろうと思い、そう返した。
 だけど、橋川さんは、
「空いてないとか、俺からの誘いが嫌とかならいいけど」
 確かにそう言った。
 だから、私は慌てて、
「ううん、今日、夜は空いてるし、橋川さんからの誘いが嫌でもないよ」
 そう言った。
 すると橋川さんは、
「じゃあ、定時後、駅の近くの島沢書店で待ち合わせしよう。先に着いた方がそこで相手が来るまで待ってるってことで」
 そう言った。
「うん、解った」
「じゃあ、定時後な」
 橋川さんはそう言い、橋川さんも事務所から出て行った。
 橋川さんが出て行き、1人になったこの事務所の自分の席で、一体、どうして、橋川さんは私を食事に誘ったんだろう?
 と事務所に人が戻ってくるまで考えていた。

 定時後、会社の最寄り駅から歩いて5分程の場所にある島沢書店に行くと橋川さんの姿が見えた。
 ちなみにこの間の親睦会の日、帰りの駅で、橋川さんは自分のことを呼び捨てにしてもいいと言ったけど、橋川さんも他に誰かいる時は私のことを戸田さんと呼んでいるので、私も橋川さんと今でも呼んでいた。
「橋川さん」
 私が橋川さんの所まで行くと橋川さんが立っている前にはビジネス書がずらっと並んでいる本棚があった。
「ああ、来たか」
「うん、ところでこの本棚、ビジネス書ばかりだけど、こういう本読むの?」
 私が何となく聞くと、
「まあ、たまにな。それより、行こうか。俺が知ってる店でいいよな?」
 とあまり本のことには触れたくなさそうだったので、私もそれ以上のことは聞かなかった。
 そして、私達は島沢書店から出た。

 島沢書店から10分程歩いたところで、橋川さんはメイン通りから、脇道に入った。
 だから、私も勿論、そこについていくと、その場所には小さなお店が幾つか並んでいた。
「ここ」
 橋川さんが立ち止まったのは小さいけど外観が少しお洒落な感じの小料理屋さんだった。
「和食大丈夫だよな?」
「うん、あまり好き嫌いない」
「じゃあ、入ろう」
 そして、中に入ると外観同様、和風な感じだけど、何処かお洒落な感じの雰囲気がする店内だった。
 私達は店員さんに一番奥の2人掛けのテーブル席に通された。
 だから、私と橋川さんは向かい合って座った。
「ここ入社してから、偶然見つけて、料理が上手いから、たまに1人で来るんだ」
 席に座った途端、テーブルに置いてあったメニューを手に取りながら、橋川さんが言った。
「そうなんだ」
「ああ、ところで、何飲む? 料理は俺のお薦めでいい?」
「あ、じゃあ、青リンゴ酎ハイで、料理は橋川さんのお薦めで」
 私がそう言うと橋川さんは店員さんをすぐに呼び、パッパッと注文していった。
 そんな橋川さんを見ながら、やっぱり、前と変わらずしっかり者なんだろうなと思った。
 そう。私が知っていた山岸くんも、とてもしっかり者だったから。
 お坊ちゃまとは思えないくらいに。
 そこで私は、はっとした。
 今まで橋川さんが私の高校時代の恋人だった山岸くんということばかりに気を取られていたけど、橋川さんは山岸だった姓の時はお父さんが凄く大きい会社の経営者で、凄くお金持ちで、ゆくゆくは1人息子だった山岸くんがお父さんの経営している会社を継ぐことになっていた。
 でも、今は橋川という、恐らく、お母さんの方の姓を名乗っている。
 ということは橋川さんは山岸家とはもう縁を切ったということなんだろうか?
 私がそう思い、自然に橋川さんの顔をじっと見てしまっていると、
「何? 俺の顔じっと見て、どうかした?」
 と橋川さんが言ったので、私は、はっとして、橋川さんに何か言葉を返そうとした。
 だけど、その前に橋川さんが、
「ああ、もしかして、俺と山岸の家とは今、どうなってるんだろうとか思ってた?」
 と私の気のせいなのかもしれないけど、ほんの少しだけ、意地悪を含んだような口調でそう言った。
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