「気になる人」

愛理

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第66話「止められないこの想い」

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 倉崎さんと梅田で偶然、会って、お好み焼き屋さんで一緒に食事をしてから、私の心の奥底にあった倉崎さんへの想いが急速に込み上げてきてしまった。
 だから、私は前よりもっと会社で倉崎さんのことを私といる時以外でも目で追うようになってしまった。
 今、私は水野さんとつきあっていて、倉崎さんだって、もしかすると大切な誰かがいるかもしれないのに。
 また、あれだけ倉崎さんの取った行動に傷ついたのに。
 だから、私から別れを告げて、もう倉崎さんと会うことがないように会社にまた異動願いを申し出たのに。
 だけど、神様は意地悪なのか私と倉崎さんをまた出会わせた。
“―さん、さん”
「野中さんっ!」
 いきなり大きな声が降ってきて、私は身体をびくつかせた。
 すると職場で一緒の私と年齢が近くて、2つ年上の大山さんという女性が目の前に立っていた。
「あ、大山さん」
「どうしたの。さっきから、何度も呼んでるのに意識がどっかいっちゃって」
 今、私は職場にいて、さっき、午前中と午後と15分間ずつ仕事の合間に取れる、午前の休憩から、事務所に戻ってきたところだった。
 そして、事務所に入った途端に倉崎さんの姿が目に入り、つい倉崎さんのことを考えてしまい、自分の世界に入り込んでしまったようだった。
「すいません、ちょっと考え事をしてしまって」
「名前何度も呼んでも気づかない程の考え事って何だろう? 気になるな。まあ、そんなことよりも、明日の夜、空いてるかな?」
 大山さんはサバサバした性格で、気になるなと言ったりしても、それ以上、こっちが話すまで聞いてこない。
 それでいて、思いやりもあり、女性だけど、かなり男前の性格をしているから、私も好きだけど、同性から、かなり人気が高い。
「明日の夜ですか? 大丈夫ですけど」
「良かった。明日、金曜日の夜だから、色々と忙しくて、先延ばしになっていた、倉崎さんの歓迎会することになったから、野中さん、倉崎さんの仕事のパートナーだし、来てほしくてね」
 倉崎さんの歓迎会。
 私はそのワードにドキッとした。
 だから、本当は正直、お酒も入るような場だし、今の私の気持ち的には倉崎さんとこれ以上、職場以外で会わない方がいいと思ったけれど、仕事のパートナーとしては断ることもできず、
「解りました。参加させていただきます」
 そう、大山さんに答えるしかなかった。
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