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第17話「様々な愛」
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悟がオフの日、しずくと会った。
しずくは丁度、足を完治したところだった。
二人は今、以前、二人がまだ恋人同士ではなかった頃、偶然に出会った場所の海を見に来ていた。
思えば、しずくと出会ってから、まだ長いと言える程の月日が経ってはいないのに、随分と色んなことが変化したように悟は思う。
それは多分、自分の心の持ち方が変わったからだということを悟は心の何処かで感じていた。
二人は砂浜に並んで座っていた。
ズボンやスカートが汚れるのも気にしないで。
悟は今、以前とは違って、この海を穏やかな気持ちで見ていた。
そして、悟は思う。
悟が海を好きなのは、何もかもを吸い込んでくれるからではなく、悟自身を包み込んでくれるからなのだと。
そう。しずくのように。
「しずく」
暫く黙って海を眺めていたけれど、悟は突然、思い付いたようにしずくの名前を呼んだ。
「ん?」
しずくは悟の方を向いた。優しい笑みを浮かべながら。
「……しずくの言っていた、しずくの大切だった人ってさ、生きてる間にはどんなこと教えてくれたの?」
「ん? それは色々だったよ。本当に愛情深い人だったから。でも、一番印象に残ってるのは、私ね、父親から暴力を受けていたでしょ。その父親を赦してあげるんだよと言われたことかな」
「………………」
「勿論、決して暴力は赦されるべきことではないけれど、君のお父さんも心に傷を負っていたんだろうからって。最初はね、例え、あの人に言われたことでも、何言ってるのよ。あんなに酷い目に合わされてきたのに、赦せるわけないじゃないって思った。だから、そう思うまでにはかなり時間がかかった。だけどね、彼の言うとおりだったの」
「………………」
「……その後で知ったことなんだけどね、私のお父さんも子供の頃、ずっと父親から酷い目に合わされていたの。そして、自分も父親になって、同じように私に暴力を振るいながら、そんな自分がどうしようもなく嫌で、本当は一度死のうかとも思ったことがあったんだって。私がそのことを知ったのはね、私が家を出てから、彼に連れられて実家に初めて帰った時にお父さんが直接、私に告白したことだったの。お母さんも私を護れなかったことを酷く後悔してた。泣きながら、ごめんね。ごめんね。って何度も謝ってきたの。その時、解ったの。ああ。私はあんな環境の中にいたけど、確かに二人から愛されてはいたんだって。そして、今も愛されているんだって」
「………………」
「……それから、彼はこんなことも言ってた。愛には様々な形があることと、その愛を上手に伝えられる人とそうでない人もいる。だから、表面だけでその人を見てはいけないよってね。例えば愛情を注がれていないと感じる家庭に育ったとしても、本人が健康でちゃんと大きく育ったなら、そこには愛が必ずあるんだからって」
しずくの今の話を聞いて、悟は自分の両親のことを思い浮かべた。
そういえば、悟はずっとマイナスの面ばかり両親に見ていた気がする。
母親が父親と別れなかったのは、自分の為だったかもしれなかったのに。
「……しずく」
「ん?」
「―俺、久し振りに実家に帰ろうかな」
そう。悟はもうここ何年も実家に帰っていなかった。
というより、デビューしてから、一度も実家に帰っていない。
何故なら、悟にとっては、実家は狭い鳥篭のようなところでしかなかったから。
そして、更にその鳥篭の中にまで罠を仕掛けられている感じのような所でしかなかったから。
たまに母親から電話が来るが母親のことを快く思っていなかった悟は用がないのならと、さっさっと切ってしまっていた。
「素敵ね。きっとご両親喜ぶわ」
そう言いしずくは満面の笑みを浮かべた。
しずくは丁度、足を完治したところだった。
二人は今、以前、二人がまだ恋人同士ではなかった頃、偶然に出会った場所の海を見に来ていた。
思えば、しずくと出会ってから、まだ長いと言える程の月日が経ってはいないのに、随分と色んなことが変化したように悟は思う。
それは多分、自分の心の持ち方が変わったからだということを悟は心の何処かで感じていた。
二人は砂浜に並んで座っていた。
ズボンやスカートが汚れるのも気にしないで。
悟は今、以前とは違って、この海を穏やかな気持ちで見ていた。
そして、悟は思う。
悟が海を好きなのは、何もかもを吸い込んでくれるからではなく、悟自身を包み込んでくれるからなのだと。
そう。しずくのように。
「しずく」
暫く黙って海を眺めていたけれど、悟は突然、思い付いたようにしずくの名前を呼んだ。
「ん?」
しずくは悟の方を向いた。優しい笑みを浮かべながら。
「……しずくの言っていた、しずくの大切だった人ってさ、生きてる間にはどんなこと教えてくれたの?」
「ん? それは色々だったよ。本当に愛情深い人だったから。でも、一番印象に残ってるのは、私ね、父親から暴力を受けていたでしょ。その父親を赦してあげるんだよと言われたことかな」
「………………」
「勿論、決して暴力は赦されるべきことではないけれど、君のお父さんも心に傷を負っていたんだろうからって。最初はね、例え、あの人に言われたことでも、何言ってるのよ。あんなに酷い目に合わされてきたのに、赦せるわけないじゃないって思った。だから、そう思うまでにはかなり時間がかかった。だけどね、彼の言うとおりだったの」
「………………」
「……その後で知ったことなんだけどね、私のお父さんも子供の頃、ずっと父親から酷い目に合わされていたの。そして、自分も父親になって、同じように私に暴力を振るいながら、そんな自分がどうしようもなく嫌で、本当は一度死のうかとも思ったことがあったんだって。私がそのことを知ったのはね、私が家を出てから、彼に連れられて実家に初めて帰った時にお父さんが直接、私に告白したことだったの。お母さんも私を護れなかったことを酷く後悔してた。泣きながら、ごめんね。ごめんね。って何度も謝ってきたの。その時、解ったの。ああ。私はあんな環境の中にいたけど、確かに二人から愛されてはいたんだって。そして、今も愛されているんだって」
「………………」
「……それから、彼はこんなことも言ってた。愛には様々な形があることと、その愛を上手に伝えられる人とそうでない人もいる。だから、表面だけでその人を見てはいけないよってね。例えば愛情を注がれていないと感じる家庭に育ったとしても、本人が健康でちゃんと大きく育ったなら、そこには愛が必ずあるんだからって」
しずくの今の話を聞いて、悟は自分の両親のことを思い浮かべた。
そういえば、悟はずっとマイナスの面ばかり両親に見ていた気がする。
母親が父親と別れなかったのは、自分の為だったかもしれなかったのに。
「……しずく」
「ん?」
「―俺、久し振りに実家に帰ろうかな」
そう。悟はもうここ何年も実家に帰っていなかった。
というより、デビューしてから、一度も実家に帰っていない。
何故なら、悟にとっては、実家は狭い鳥篭のようなところでしかなかったから。
そして、更にその鳥篭の中にまで罠を仕掛けられている感じのような所でしかなかったから。
たまに母親から電話が来るが母親のことを快く思っていなかった悟は用がないのならと、さっさっと切ってしまっていた。
「素敵ね。きっとご両親喜ぶわ」
そう言いしずくは満面の笑みを浮かべた。
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