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第10話「しずくの過去」
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悟としずくは、相変らず、ほのぼのとした幸せな日々を送っていた。
悟はしずくと付き合い始めてから、まるで乾いていた心に水が流れこんで潤った感じがしていた。
「……でも、不思議だな。しずくって」
悟が言った。
ここはしずくのマンション。
悟は今日はオフで昨日の夜からここに泊まっていた。
「何が?」
今、2人はリビングルームのソファーに座っていた。
「両親の愛情、あまり受けてこなかったのに何でそんなに真っ直ぐなのかなって。君が尊敬する作家の先生がそんなに良かったの?」
しずくは悟のその言葉に首を横に振った。
「……確かに先生は私の中では偉大よ。でも、私に本当の愛を教えてくれたのは、私と一緒の時期に先生の弟子になった人なの」
しずくはそう言うと少し苦し気な表情をした。
悟はそんなしずくを何も言わずに静かに見つめる。
「……とても暖かい人だった。先生の所に来たばかりの頃、やっぱり私の心は何処か荒んでいて、そんな私の心を彼は見抜いてくれたの。そして、中々、心を開かなかった私に気長に色んな大切なことを教えてくれたのよ」
「……………………」
「……人を愛するってどういうことなのかもね」
「……だったら、しずくはその人のことを今も愛してるんじゃないの?」
それは今の悟にとっては、とても心苦しいことだけれど、しずくの表情を見て、そう言わずにはいられなかった。
「うん。愛してるわ。でもね、今の悟とは違う意味で愛しているわ」
「……もしかして、その人への想いを遂げられないから俺といるの?」
「そうじゃないの。その人ね私を庇って死んだのよ」
「!」
「……その人と私は、知り合って1年経った頃に恋人同士になったわ。だけど、ある日デートしている時に私、車に跳ねられそうになったの。飲酒運転だったんだけど、その時に彼が私を庇ってくれたの」
「……………………」
「それから、彼、重体に陥って、そして、最期だけ目を開けて小さな声で言ったの。君を守れて良かった。君は幸せになってって」
「……………………」
「―そして、私はどれだけ彼が愛を深く持っている人かを知ったわ。多分、彼はあの時、車に跳ねられそうになったのが私じゃなくても庇ったわ。そういう人だったの。彼を失って、凄く辛かった。だけど、私は彼の守ってくれたこの命を大切にして、彼に恥じないように生きていこう。そう決めた。そして、そんな時、あなたを見つけたの。あなたはとてつもなく寂しそうな表情をしていた。そして、思ったの。ああ、この人はきっと以前の私と同じで真実の愛を知りたがってるんだって」
「……………………」
「そして、あの本のお話の映画化の話が来たのよ。そして、すぐにあなたに演じて欲しいってそう思ったの」
「……冗談じゃない」
「悟?」
「結局、君はその彼が忘れられないんだろ? 君を運命の相手だと思った俺が馬鹿だったよ。そんなものやっぱりこの世に存在するわけがないんだ。帰るよ」
そう言い悟はしずくのマンションから出て行った。
悟はしずくと付き合い始めてから、まるで乾いていた心に水が流れこんで潤った感じがしていた。
「……でも、不思議だな。しずくって」
悟が言った。
ここはしずくのマンション。
悟は今日はオフで昨日の夜からここに泊まっていた。
「何が?」
今、2人はリビングルームのソファーに座っていた。
「両親の愛情、あまり受けてこなかったのに何でそんなに真っ直ぐなのかなって。君が尊敬する作家の先生がそんなに良かったの?」
しずくは悟のその言葉に首を横に振った。
「……確かに先生は私の中では偉大よ。でも、私に本当の愛を教えてくれたのは、私と一緒の時期に先生の弟子になった人なの」
しずくはそう言うと少し苦し気な表情をした。
悟はそんなしずくを何も言わずに静かに見つめる。
「……とても暖かい人だった。先生の所に来たばかりの頃、やっぱり私の心は何処か荒んでいて、そんな私の心を彼は見抜いてくれたの。そして、中々、心を開かなかった私に気長に色んな大切なことを教えてくれたのよ」
「……………………」
「……人を愛するってどういうことなのかもね」
「……だったら、しずくはその人のことを今も愛してるんじゃないの?」
それは今の悟にとっては、とても心苦しいことだけれど、しずくの表情を見て、そう言わずにはいられなかった。
「うん。愛してるわ。でもね、今の悟とは違う意味で愛しているわ」
「……もしかして、その人への想いを遂げられないから俺といるの?」
「そうじゃないの。その人ね私を庇って死んだのよ」
「!」
「……その人と私は、知り合って1年経った頃に恋人同士になったわ。だけど、ある日デートしている時に私、車に跳ねられそうになったの。飲酒運転だったんだけど、その時に彼が私を庇ってくれたの」
「……………………」
「それから、彼、重体に陥って、そして、最期だけ目を開けて小さな声で言ったの。君を守れて良かった。君は幸せになってって」
「……………………」
「―そして、私はどれだけ彼が愛を深く持っている人かを知ったわ。多分、彼はあの時、車に跳ねられそうになったのが私じゃなくても庇ったわ。そういう人だったの。彼を失って、凄く辛かった。だけど、私は彼の守ってくれたこの命を大切にして、彼に恥じないように生きていこう。そう決めた。そして、そんな時、あなたを見つけたの。あなたはとてつもなく寂しそうな表情をしていた。そして、思ったの。ああ、この人はきっと以前の私と同じで真実の愛を知りたがってるんだって」
「……………………」
「そして、あの本のお話の映画化の話が来たのよ。そして、すぐにあなたに演じて欲しいってそう思ったの」
「……冗談じゃない」
「悟?」
「結局、君はその彼が忘れられないんだろ? 君を運命の相手だと思った俺が馬鹿だったよ。そんなものやっぱりこの世に存在するわけがないんだ。帰るよ」
そう言い悟はしずくのマンションから出て行った。
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