短い恋のお話

愛理

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「素直になってゆく」

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    近すぎて今までは素直になれなかったけど、今日だけは。

 2月14日。
 日本ではバレンタインデー。
 女性から男性にチョコレートをあげて告白する日だ。
 まあ、今は友チョコをあげるというのが凄く流行っているらしいけど。後、自分に自分でチョコレートをあげるというのも。
 でも、私は本来の女性から男性にチョコレートをあげて告白するということをしようと思っていた。
 幼馴染の涼也に。
 私の家と涼也の家は隣同士で私と涼也は一緒の歳で生まれた時からずっと一緒に育ってきた。
 幼稚園、小学校、中学校、そして、高校までもが一緒だった。
 でも、今の高校を卒業したら私達は初めて違う進路を進むことになっていた。
 私は都内の短期大学に進学して、涼也は都内ではなく大阪にある大学に進学することになっていた。
 私達は2人とも推薦でもう学校に合格しているから。
 涼也は行きたい学科がある大学が大阪にしかないと言っていた。
 私は涼也が大阪に行ってしまうと知った時、ショックだった。
 だって、例え進む学校などは違ったとしても家が隣同士でお互いに住んでいたら会えるけど、大阪に行ってしまったら中々会えなくなるだろうから。
 私は涼也を幼い頃からずっと好きだから。
 だけど、生れた時からずっと一緒にいて、距離が近すぎるから、お互いに遠慮なしに何でも言い合っているから、今更好きだなんて言えなくて。
 だけど、このままじゃ高校を卒業して本当に会えなくなってしまいそうだから。
 だから、好きだって、おもいきって告白しようと決めた。
 このバレンタインデーという特別な日に乗っかって。
 はっきり言って全然うまくいく自信なんてないけど。
 だって、涼也はいつの間にか周りの女子達から“カッコイイ”と言われるような男子になって、今の高校の女子達からもかなり人気があるから。
 実際に私も何回か高校の女子から涼也が告白されているところを目撃した。
 ただ、1度も女子が告白してOKされたという話は聞いたことはない。
 だから、もしかして好きな人でもいるのかなとは思っているけど、でも、それでも私は告白しようと決めた。
 だって、大阪に行ってしまったら言わなかったことをきっと後悔してしまうから。
 そして、駄目でも、これで涼也への気持ちをふっきることができると思っているから。
「よし!」
 私はチョコレートを入れた手下げの髪袋を持って学校へと出かけた。

 気合いを入れてチョコレートを学校に持ってはいったものの学校では涼也の周りには常に傍に人がいて、結局、私は涼也にチョコレートを渡すことはできなかった。
 何人かの女子達が涼也にチョコレートを渡していたけど、私はその中に入る勇気がなかった。
 私と涼也はクラスも同じだから、そんな光景が目によく入った。
 そして、私は涼也にチョコレートを渡すことも告白することもできずにとぼとぼと歩いて家に帰った。
 私と涼也の家は今の学校から徒歩7分くらいのところにあって、私達は自転車通学のできない距離だった。
 最初の頃、それについて涼也はぶーぶー言っていたなと今はどうでもいいことがふと頭によぎった。
 そんなことが頭によぎっている間に家の近くまで着いて、家の前を見たら涼也が私の家の前に立っていた。
「あ……」
 何? 何で?
 確か涼也は授業が終わるとクラスの男子達、何人かですぐに学校から帰っていったはずなのに。
 だから、何処かに遊びに行ったんだと思ってたのに。
「よっ!」
 私が本当に家の前まで行くと涼也が片手を挙げて笑顔でそう言った。
 もう片方の手は鞄を持っていて、パンパンに膨れあがっている。
 多分、貰ったチョコレートが入っているんだろうなとそれを見て思った。
「何してんの? すぐに友達と帰ったからどっかに遊びに行ったんだと思ってた」
「んー? 友達は行ったけどさ。俺はチョコも重いしさ」
 そう言って涼也は今度は鞄を両手で抱えた。
「何? 自慢したいからここにいたとか?」
 私の口からは自然とそんな言葉がでた。
 でも、私は心の中で、ああ、やだな。本当はこれはせっかくのチャンスだって解ってるのにこんな皮肉めいたこと言って。
 そんな風に思っていた。
「うーん、自慢したいけど、今までに俺、1度も本命からチョコ貰ったことないしな。それって、どんなに沢山チョコ貰っても、自慢はできないかも。まあ、勿論、くれた子達の気持ちは凄く嬉しいけどさ」
 だけど、涼也は私の言葉にムッとした様子もなくそう言った。
 そして、私は今の言葉で涼也にはやっぱり好きな子がいるんだと思った。
 そう思った後、私の胸はきゅっと締めつけられる感じがした。
「そ、そうなんだ」
 誰だろう。その好きな人。
 可愛い子なのかな。涼也の好きなアイドルのタイプとかは全部可愛い子だし。
 私がそんなことを思っていると、
「ところでさ」
 涼也が急に真剣な表情をしてそう言った。
「え? な、何?」
 あまりこんな真剣な表情の涼也は見たことがないので私は少し戸惑った。
「俺、お前から1度もチョコ貰ったことないんだけど」
 だけど、そう言われて私は目を丸くした。
「は? 何でそんなこと言うわけ? 別に隣同士だからってチョコ渡さなきゃならない義務なんて……」
 私はそう言いながら、また、心の中で、私のバカ。渡すなら今でしょ。
 そう思っていた。
 すると、
「ああ、やっぱり、今年も本命チョコは貰えないか」
 涼也がそう言ったので私は少しの間、固まった。
「え? 何? 本命チョコって……」
 今の言い方ってまるで……。
「あ? 俺、お前が本命なんだけど」
 涼也はまるで今日はいいお天気ですねと近所同士の人達が挨拶代わりに会話するみたいにさらっと言った。
「う、嘘……」
「何で俺がこんなことで嘘つくんだよ。俺、お前以外好きになったことねえんだけど。でも、お前はさ多分、違う奴が好きなんだよな。俺に冷たいし」
「そ、そんなこと……」
「まあ、俺、もうすぐ大阪に行くしさ駄目でも告白しようとは思ってたんだ。で、ここでお前待ってた」
「だって、今日は女の子から告白する日だよ」
「別にいいじゃん。どっちだって。アメリカとかは逆なんだしさ。ああ、でも、俺、失恋決定だな。まあ、これで大阪で新しい恋でも……」
 涼也がそう言っている間に私は涼也の目の前に持っていたチョコレートを入れた手下げの紙袋を差し出した。
「え?」
「……私だってずっとずっと好きだったの。涼也は大阪に行ってしまうから今日、本当はバレンタインデーに乗っかって告白するつもりだったの。でも、やっぱり、全然、勇気でなくて……学校では涼也の周りにはいつも人がいるし……色んな女子からチョコレート貰ってたし……」
 私はそう言いながら何時の間にか目から涙が零れていた。
「お、おい、泣くなよ。何か俺が悪いみたいじゃん」
「違うよ。やっと言えたって思って……」
 私がそう言うと涼也は私を片手で抱きしめた。
「りょ、涼也?」
「ばーか。そこは普通、両思いって解ったからって言うだろ」
 涼也の声はとても優しかった。
「でも、良かった。じゃあ、俺達、両思いだよな。じゃあ、今からは恋人同士だ」
「恋人同士……」
「そうだろ?」
「う、うん」
“恋人同士”って言葉が何だか凄くくすぐったかった。
 だけど、勿論、凄く嬉しくて。
「だけど、本当に良かった。私、いつも涼也に皮肉めいたことばっかり言ってたから。でも、これからはなるべく素直になるから。本当はずっとずっと大好きだったから」
「ああ、そうしてくれよな。でも、お前、いつから俺のこと好きだったの?」
「ん? 幼稚園の頃から?」
「嘘~。俺もだよ」
 涼也はそう言った後、ちっ、それならもっと早く告白しときゃ良かった。そうしたら修学旅行とかも彼女もちとして楽しめたのにとか笑えるようなことを言った。
 そして、私達はこの日、凄く長かった片思いだった恋をお互いに成就した。

 そして、大阪に行く日に新幹線のホームまで見送りに行った私に涼也は、
「遠距離だけど、寂しい想いなんてさせないから。そして、俺はもっといい男になってまた東京に戻ってくるから、お前も、もっといい女になるんだぞ」
 と偉そうなことを言って新幹線に乗って大阪へと旅立って行った。
 その後、すぐに涼也から1ヵ月後の休みの日に私に会いに来るとLINEにメッセージが来た。
 私はそのメッセージを見て思わず微笑んでしまった。

 ねぇ、涼也、私、これからは本当に素直になるからね。
 だって、涼也の恋人になることができたんだから。
                                                      END
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