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それは突然に1
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深い夜空を背にノアは思わず感嘆の声を上げた。
「す……ごい……っ」
ごうごうと轟く風の音も気にならないほど、目下に広がる宝石を散りばめたような風景は今まで見たどんなものよりも綺麗でいて神秘的なものだった。
「空からみる景色ってこんなに綺麗なんですね」
「ほとんどの者は寝静まっているが、もう少し時間が早ければもっと綺麗だ」
「そうそう、もっとキラキラがいっぱいあるよ」
キアーラも横でノアに笑い掛ける。ノアは来る時と同じようにルークに抱えられた状態だが「わたしがノアちゃん抱っこしたかったっ」とひと悶着があったのはもう忘れてしまったのかご機嫌でふわふわと浮いている。
「ウーラノス国の人たちってみんな飛べるんですか?」
「そうでないものもいるな」
「みんな飛べたら便利なんだけどね」
ノアが自分が何処に連れてこられているのかを知らないのは良くないとキアーラがルークを責めた結果、三人は夜空の散歩にでていた。
「あそこに小さな光があるでしょ。そこから南に下りていくと迷いの森だよ」
キアーラが指を指して他国の人間がこちらに紛れ込まないようになってるんだよと教えてくれる。
「あの森に名前なんてあったんですね」
「ノアちゃんたちはなんて呼んでるの?」
「森は森です」
「まあ必要ないかっ」
それからあそこがわたしたちが居た場所だと指差したところは暗闇でもわかるほど大きくて、いわゆる城と呼ばれるような建物に見えた。
「え……あそこって……」
「どうした?」
ルークが言い淀むノアの顔を覗き込んでくるのにノアも顔を上げた。相変わらずルークは無表情で何を考えているのかわかり難い。
「いえ、あの……その……」
「思ったより小さいか?」
「ち、ちがっ!! 逆、その逆ですっ!!」
お城みたいでびっくりしてっ!! と慌てているとルークは「一応城ではあるな」と言ってからゆっくりと城の方へと飛んでいく。
「あまり身体を冷やすのもよくない」
もどるぞとキアーラに声を掛け、キアーラもそのままルークの後をついて飛んで行った。
もと居た部屋に戻ってノアは改めてくるりと部屋を見渡した。広い室内のところどころによくわからないが高価そうな装飾品が飾られており、テーブルの上のカップたちは改めてみても細かい細工が施されている。
「……あの……」
今さらですが……とノアは恐る恐るルークを見上げた。
「ルーク……さん……て……え、えらい人……なんです、か……?」
お城に棲んでいるなんできっとえらい人に違いない。
「……ふむ。偉いか偉くないかと言えば偉いほうだろう」
「えらいほう……」
確認するように呟くノアにルークは頷きながら席に着くように促して、キアーラに目配せをする。キアーラはノアのカップにミルクを注ぐとふう、とまた息を吹き掛けた。
「帰る前に冷えたからだを温めていくといい」
「はい、どーぞ」
「あ、ありがとうございます……」
受け取ったカップはほんのり温かく、隣に座ったキアーラも同じようにカップを持って飲んでいる。それを見てからノアも一口頂いた。
「ノアちゃん眠たい?」
「あ、えっと……」
眠たくないと言えば嘘になってしまうが、こんなにもよくしてくれているのに眠いというのは失礼な気がして笑って誤魔化す。
「その、温かい飲み物ってほっとしますよね」
「わかるー。疲れた時は甘いものと温かい飲み物だよね」
にこにこと帰りはわたしが送って上げるというキアーラにノアは慌てた。
「えっ!? いや、その、女性にそんな……っ!!」
ぶんぶんと首を横に振って断る。
「女性だってっ!」
「そうか」
ノアの反応に嬉しそうにするキアーラにルークは特に気にする様子もなく、そろそろ戻るかというと同時、扉の奥が何やら騒々しくなった。
「……なんだ?」
「だぁれ、騒いでいるやつ」
ルークは相変わらずの無表情で、キアーラは面倒くさそうにしながら扉へと視線を向けた。ノアも既視感を感じながらも連られるようにして扉に視線を向けると勢いよくと扉が開いた。
「お待ちください……ッ」
「うるさいなあっ! 俺がいつルークに報告に行こうといいだろ」
するとそこにはノアがずっと会いたいと思っていたディランがいた。苛ついた様子で後ろから追ってきたヒューゴに苛つきを隠すこともない。
「なんだ騒々しい」
客人の前だぞというルークの声にディランがこちらを向く。
「終わり次第報告しろって言ったのはそっちだ……ろ……」
「そうか」
騒がしかったディランがぴたりと動きを止めた。それに対してノアも言葉を失う。
「な、なんで……」
ディランは驚きを隠せない様子でノアとルークを交互に見た。
「なんでノアがここに……?」
「俺が呼んだ」
「は?」
何でもないように言うルークにディランが睨みつけた。
「客人がいる間は部屋に入れるなと言ったはずだが」
「も、申し訳ありません」
ディランの後ろにいるヒューゴが頭を下げている。
「いやいや、どういうことだよ」
ディランの困惑しながらも怒りを滲ませた声にノアは自分が責められているのだと思い俯いてしまう。
会いたいと思っていた。だけどあまりにも突然過ぎてノアはどうしていいのかわからなかった。ただ、会えた嬉しさよりも自分がここにいることはディランにとって迷惑なのだろうということが、ディランの声で十分に伝わってノアはただディランを困らせてしまった自分が申し訳なくて仕方無くて、無意識に「ごめんなさい……」という言葉が口からこぼれ落ちた。
「す……ごい……っ」
ごうごうと轟く風の音も気にならないほど、目下に広がる宝石を散りばめたような風景は今まで見たどんなものよりも綺麗でいて神秘的なものだった。
「空からみる景色ってこんなに綺麗なんですね」
「ほとんどの者は寝静まっているが、もう少し時間が早ければもっと綺麗だ」
「そうそう、もっとキラキラがいっぱいあるよ」
キアーラも横でノアに笑い掛ける。ノアは来る時と同じようにルークに抱えられた状態だが「わたしがノアちゃん抱っこしたかったっ」とひと悶着があったのはもう忘れてしまったのかご機嫌でふわふわと浮いている。
「ウーラノス国の人たちってみんな飛べるんですか?」
「そうでないものもいるな」
「みんな飛べたら便利なんだけどね」
ノアが自分が何処に連れてこられているのかを知らないのは良くないとキアーラがルークを責めた結果、三人は夜空の散歩にでていた。
「あそこに小さな光があるでしょ。そこから南に下りていくと迷いの森だよ」
キアーラが指を指して他国の人間がこちらに紛れ込まないようになってるんだよと教えてくれる。
「あの森に名前なんてあったんですね」
「ノアちゃんたちはなんて呼んでるの?」
「森は森です」
「まあ必要ないかっ」
それからあそこがわたしたちが居た場所だと指差したところは暗闇でもわかるほど大きくて、いわゆる城と呼ばれるような建物に見えた。
「え……あそこって……」
「どうした?」
ルークが言い淀むノアの顔を覗き込んでくるのにノアも顔を上げた。相変わらずルークは無表情で何を考えているのかわかり難い。
「いえ、あの……その……」
「思ったより小さいか?」
「ち、ちがっ!! 逆、その逆ですっ!!」
お城みたいでびっくりしてっ!! と慌てているとルークは「一応城ではあるな」と言ってからゆっくりと城の方へと飛んでいく。
「あまり身体を冷やすのもよくない」
もどるぞとキアーラに声を掛け、キアーラもそのままルークの後をついて飛んで行った。
もと居た部屋に戻ってノアは改めてくるりと部屋を見渡した。広い室内のところどころによくわからないが高価そうな装飾品が飾られており、テーブルの上のカップたちは改めてみても細かい細工が施されている。
「……あの……」
今さらですが……とノアは恐る恐るルークを見上げた。
「ルーク……さん……て……え、えらい人……なんです、か……?」
お城に棲んでいるなんできっとえらい人に違いない。
「……ふむ。偉いか偉くないかと言えば偉いほうだろう」
「えらいほう……」
確認するように呟くノアにルークは頷きながら席に着くように促して、キアーラに目配せをする。キアーラはノアのカップにミルクを注ぐとふう、とまた息を吹き掛けた。
「帰る前に冷えたからだを温めていくといい」
「はい、どーぞ」
「あ、ありがとうございます……」
受け取ったカップはほんのり温かく、隣に座ったキアーラも同じようにカップを持って飲んでいる。それを見てからノアも一口頂いた。
「ノアちゃん眠たい?」
「あ、えっと……」
眠たくないと言えば嘘になってしまうが、こんなにもよくしてくれているのに眠いというのは失礼な気がして笑って誤魔化す。
「その、温かい飲み物ってほっとしますよね」
「わかるー。疲れた時は甘いものと温かい飲み物だよね」
にこにこと帰りはわたしが送って上げるというキアーラにノアは慌てた。
「えっ!? いや、その、女性にそんな……っ!!」
ぶんぶんと首を横に振って断る。
「女性だってっ!」
「そうか」
ノアの反応に嬉しそうにするキアーラにルークは特に気にする様子もなく、そろそろ戻るかというと同時、扉の奥が何やら騒々しくなった。
「……なんだ?」
「だぁれ、騒いでいるやつ」
ルークは相変わらずの無表情で、キアーラは面倒くさそうにしながら扉へと視線を向けた。ノアも既視感を感じながらも連られるようにして扉に視線を向けると勢いよくと扉が開いた。
「お待ちください……ッ」
「うるさいなあっ! 俺がいつルークに報告に行こうといいだろ」
するとそこにはノアがずっと会いたいと思っていたディランがいた。苛ついた様子で後ろから追ってきたヒューゴに苛つきを隠すこともない。
「なんだ騒々しい」
客人の前だぞというルークの声にディランがこちらを向く。
「終わり次第報告しろって言ったのはそっちだ……ろ……」
「そうか」
騒がしかったディランがぴたりと動きを止めた。それに対してノアも言葉を失う。
「な、なんで……」
ディランは驚きを隠せない様子でノアとルークを交互に見た。
「なんでノアがここに……?」
「俺が呼んだ」
「は?」
何でもないように言うルークにディランが睨みつけた。
「客人がいる間は部屋に入れるなと言ったはずだが」
「も、申し訳ありません」
ディランの後ろにいるヒューゴが頭を下げている。
「いやいや、どういうことだよ」
ディランの困惑しながらも怒りを滲ませた声にノアは自分が責められているのだと思い俯いてしまう。
会いたいと思っていた。だけどあまりにも突然過ぎてノアはどうしていいのかわからなかった。ただ、会えた嬉しさよりも自分がここにいることはディランにとって迷惑なのだろうということが、ディランの声で十分に伝わってノアはただディランを困らせてしまった自分が申し訳なくて仕方無くて、無意識に「ごめんなさい……」という言葉が口からこぼれ落ちた。
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