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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.37 shadow betrayer

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 揺れる木々が窓を叩いている。街の真ん中のはずなのに、森の中にいるようだ。

 六成さんが言うことには、電話で麻尋の細かい育て方を指示されていたらしい。麻尋が羊嶺高校に通うようになったのも、最近いきなり推理問答部に入るよう言われ始めたのも、つまりそういうわけだったのだ。命を奪うぞなどと脅されては、警察にも相談できない事情である以上、なんとしてでも麻尋に言う事を聞かせるしかなかっただろう。

 電話の主の目的はなんなのか、謎は深まるばかりだ。

 話が一旦区切られる。お茶を飲んで、一息をつく。さっきまでの話にも出てきた使用人は、今もここで仕事している。この屋敷に来た時にすれ違ったメイドだ。このお茶も、彼女がいれてくれたものだった。

 「そういえば紹介しそびれていたね。彼女はこの長い間ずっと働いてくれている、蓑畑雪穂みのはたせつほさんだ。雇った時は25歳だったかな?」

 つまり今は38歳というわけか。軽くお辞儀をしている彼女は、嘘だろ……という程若い。シワもなく、暗い瞳には生気が見当たらない。作り物の人形みたいだ。

 かと思えば次の瞬間、彼女が目を見開きニッコリと微笑んだ。その人工的な笑顔に、悪寒が走った。


 そして事態は急転する。


 「まあ、偽名ですけれどもね」

 「おい……」

 蓑畑さんの言葉に、六成さんが間髪入れず反応する。

 「ん?」

 俺は無意識にそんな声を発していた。周りを見るが、話についていけなくなっているのは美頼も麻尋も同じようだった。

 なぜか使用人の蓑畑さんが紹介された名前を偽名であると言った。そして六成さんの様子が豹変した。さらに彼は怒っているようだった。話は続けられる。

 「どういうつもりだ蓑畑くん……それは秘密にするんじゃ……」

 「うふふふふ」

 今までの優しい空気は感じられない。久枝さんと六成さんは、何かまだ俺たちに伝えていない事実を知っている。

 六成さんは蓑畑さんをしばらく睨みつけていたが、真剣な顔でこちらに向き直る。俺の顔は少し強ばった。

 「すまない。皆には嘘をついていた。実は……あがっっ」

 「ふふふふ。ワタクシが監視役としてこの家に仕えさせていただいておりました。名前のないアンドロイドでございますよ。ふふ」

 一瞬、何が起こったのかよくわからなかった。

 六成さんが、蓑畑さんに指でつつかれて……倒れた。

 よく見ると、蓑畑さんの指先から電気が放電しているのだ。

 そして初めて、自分たちが置かれている状況に気がついた。

 『──あなた達を監視していますよ』先程の電話の主が話していた。つまりそれはこの状況を説明できるセリフだ。

 最悪だった。

 「嘘でしょ……?雪穂さん、嘘ですよね??」

 麻尋が信じられないというようにフラフラと謎のアンドロイドに近づいていく。

 「薪原、よせ!!」

 だが次の瞬間、アンドロイドは床に何かを投げつけ、ものすごい勢いでガスが溢れてきた。避ける暇もなく巻き込まれてしまう。

 それは催眠ガスだった。

 「大丈夫です。ふふふ命は奪いませんよ。ただ、ご主人様から招待するよう命じられているので」

 意識が薄れていく中、アンドロイドの声が聞こえる。

 ご主人様って誰だ?麻尋をこの家に送り込んだやつのことか?

 そんなことを考えていると、美頼が横でゆっくりと倒れた。

 そしてついに俺も足に力が入らなくなり、膝をついて床に倒れ込んだ。アンドロイドの不自然な笑い声だけが、いつまでも頭の中に響いていた。
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