41 / 92
第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]
Log.37 shadow betrayer
しおりを挟む揺れる木々が窓を叩いている。街の真ん中のはずなのに、森の中にいるようだ。
六成さんが言うことには、電話で麻尋の細かい育て方を指示されていたらしい。麻尋が羊嶺高校に通うようになったのも、最近いきなり推理問答部に入るよう言われ始めたのも、つまりそういうわけだったのだ。命を奪うぞなどと脅されては、警察にも相談できない事情である以上、なんとしてでも麻尋に言う事を聞かせるしかなかっただろう。
電話の主の目的はなんなのか、謎は深まるばかりだ。
話が一旦区切られる。お茶を飲んで、一息をつく。さっきまでの話にも出てきた使用人は、今もここで仕事している。この屋敷に来た時にすれ違ったメイドだ。このお茶も、彼女がいれてくれたものだった。
「そういえば紹介しそびれていたね。彼女はこの長い間ずっと働いてくれている、蓑畑雪穂さんだ。雇った時は25歳だったかな?」
つまり今は38歳というわけか。軽くお辞儀をしている彼女は、嘘だろ……という程若い。シワもなく、暗い瞳には生気が見当たらない。作り物の人形みたいだ。
かと思えば次の瞬間、彼女が目を見開きニッコリと微笑んだ。その人工的な笑顔に、悪寒が走った。
そして事態は急転する。
「まあ、偽名ですけれどもね」
「おい……」
蓑畑さんの言葉に、六成さんが間髪入れず反応する。
「ん?」
俺は無意識にそんな声を発していた。周りを見るが、話についていけなくなっているのは美頼も麻尋も同じようだった。
なぜか使用人の蓑畑さんが紹介された名前を偽名であると言った。そして六成さんの様子が豹変した。さらに彼は怒っているようだった。話は続けられる。
「どういうつもりだ蓑畑くん……それは秘密にするんじゃ……」
「うふふふふ」
今までの優しい空気は感じられない。久枝さんと六成さんは、何かまだ俺たちに伝えていない事実を知っている。
六成さんは蓑畑さんをしばらく睨みつけていたが、真剣な顔でこちらに向き直る。俺の顔は少し強ばった。
「すまない。皆には嘘をついていた。実は……あがっっ」
「ふふふふ。ワタクシが監視役としてこの家に仕えさせていただいておりました。名前のないアンドロイドでございますよ。ふふ」
一瞬、何が起こったのかよくわからなかった。
六成さんが、蓑畑さんに指でつつかれて……倒れた。
よく見ると、蓑畑さんの指先から電気が放電しているのだ。
そして初めて、自分たちが置かれている状況に気がついた。
『──いつでもあなた達を監視していますよ』先程の電話の主が話していた。つまりそれはこの状況を説明できるセリフだ。
最悪だった。
「嘘でしょ……?雪穂さん、嘘ですよね??」
麻尋が信じられないというようにフラフラと謎のアンドロイドに近づいていく。
「薪原、よせ!!」
だが次の瞬間、アンドロイドは床に何かを投げつけ、ものすごい勢いでガスが溢れてきた。避ける暇もなく巻き込まれてしまう。
それは催眠ガスだった。
「大丈夫です。ふふふ命は奪いませんよ。ただ、ご主人様から招待するよう命じられているので」
意識が薄れていく中、アンドロイドの声が聞こえる。
ご主人様って誰だ?麻尋をこの家に送り込んだやつのことか?
そんなことを考えていると、美頼が横でゆっくりと倒れた。
そしてついに俺も足に力が入らなくなり、膝をついて床に倒れ込んだ。アンドロイドの不自然な笑い声だけが、いつまでも頭の中に響いていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる