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第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]

Log.77 ボウソウハート

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 「そういえばこれ、ゲームだったわね」

 どこまでも能天気な野郎だ。

 「麻尋。このゲームのルールはなんだった?」

 「うーんと、あれでしょ。11年前に人殺した人がウチらの中にいて、そいつを殺せばいいんでしょ?」

 「そうだ。この屋敷から脱出することが目的じゃないんだぞ?」

 「あそっか」

 麻尋は小難しそうな顔になる。口を結んで眉間にシワを寄せ、あーだこーだと呟いている。

 「ウチから見て人殺しは秋山かモモちーのどっちかだけど?ウチは十一年前、両親に拾われただけなんだし」

 「まあそうだ。そして俺目線で怪しいのは……」

 辻堂桃羽。あいつだけとなる。果たして本当にあいつを殺せばこのゲームは終わるのだろうか。いや、たとえそうだとしても別の道を探さなければならない。ここで俺が人殺しになってどうする。

 「モモちーが怪しいんでしょーね。でもウチからしたら秋山だって同じくらい怪しいのよ?だって二重人格なんでしょう?もう一つの人格がやってないとは限らないじゃない。それとも二人分の記憶があるの?」

 「いや……それはないが……」

 否めない。もちろん俺の交代人格、シロが過去に人を殺している可能性だってある。いや、待てよ。やっぱりクロって……。

 「自分がやったかどうかすらわからないなんて……くそっ」

 そんな俺の様子をマネキン片手に眺めていた麻尋が言った。

 「悩んでても仕方ないし、とりあえずモモちーと合流しましょ」

 「あ、ああ。っていつの間にマネキン取ってきたんだ!?」

 麻尋のペースに飲まれながら俺はまたツッコミ側に回る。彼女に手を引かれ階段を下りながら、俺は尋ねる。

 「麻尋はどうするつもりなんだ……この状況をどうやって切り抜けるつもりなんだよ」

 「うーん……」

 少し首を傾けながら考えた挙句、躊躇いもなく彼女は言う。

 「まあ、殺すしかないんじゃない?」

 「……え?」

 俺は少し、いやかなり違和感を覚え始める。麻尋らしくない。いや、こんな考え方がこいつの本性なのか?非常事態に陥った時こそ人は本性を表すと言うが、これが麻尋なのか?

 「ま、待ってくれ。考え直せ。まだ他に手段があるはず……」

 「へえー。どんな手段があるの?教えてよ」

 麻尋が悪戯っぽく笑いながら俺の方を振り向く。その表情に背筋が凍る。すると麻尋は俺の心情を察したのか、ため息をついた。

 「どーせないんでしょ。だったらモモちーを先に、それで終わんなかったら秋山って感じね」

 「お前、自分が何言ってるかわかってんのか!!!」

 「なによ。戻ってこないからと少し心配していたけれど、ずいぶんと元気じゃない」

 「あ、モモちー!ちょっと話があるんだけど」

 「なにかしら」

 麻尋が陽気に辻堂に駆け寄る。それを見ながら俺は少し考えてしまう。

 ここで二人とも突き落とせば……。

 だめだなにを考えてるんだ俺は。早く麻尋を止めないと。そうこうしているうちにも麻尋はマネキンを頭上に高く掲げた。それを見ている俺は、なぜか足がすくんでしまって動けない。これでゲームが終わらなければ、俺が殺人犯だったことがわかってしまう。

 「薪原さん?なにをしているの?仲山君!早く助けて!!」

 「ごめんねモモちー!」

 そしてマネキンを振り下ろした麻尋の手が止まる。

 「え?」

 「なにやってんだよ、仲間割れとか。ばっかじゃねーの」

 「あっ、ああ秋山あっ……!?」

 慌てふためく麻尋が顔を真っ赤にしている。俺の腕の中で。つまりこれはいわゆるお姫様抱っこというやつだ。そして俺は動けない。

 「な、なにやってるの仲山君……いえ、助けてくれてありがとうなんだけど……ええと……」

 「見ててわかんねーのか?俺がおかしいって」

 離せだの降ろせだのギャーギャー喚く麻尋をしっかりと抱えながら、俺は言う。辻堂はなにかに気づいたようだった。

 「まさかあなた……!」

 「どーも。お待ちかねの交代人格だぜ」

 そう口にしたあたりから、俺の意識はゆっくりと内側へ消えていった。そして視界はまた、真っ暗となった。
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