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第1章>牝鹿の伝言[ハイスクール・マーダー]
Log.15 訝しむ
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「……ひゃいっ?!」
「何今のミヨっち可愛い」
「ふ、ふざけてる場合かぁ!」
薪原さんにからかわれて、間髪入れずにツッコミを返す私。
「それより早くこいつどけてよ!」
「そんなのヒーちゃんのいつもの怪力でちょちょいのちょ……」
「あ゛?いやいやこんな真正面から覆われたらうまく動けないし力も入んないし手もなんか挟まってるしっ……!」
そう。私はさっきまでアキを心配して正面から顔色を覗こうとしていた。そしたらアキが倒れてきて、私はわけのわからないまま仰向けに……その上にちょうど力の抜けたアキの体がのしかかっている。なんだかんだいって体重はアキの方が断然重い。手足もうまい具合に固定されてしまっては、こんな状況でどうこうできるわけがない……それにしても制服越しに体温が伝わってくるこそばゆさ……うう。
斜め上から、小さな女の子の呻く声がする。キイちゃんが目を覚ましたようだった。うっすら目を開けてこちらを見ている。
「あ……」
目線の先には床の上に折り重なる私とアキ。顔を赤くするキイノ。そして、
「お、おじゃましちゃいましたぁーっ!!」
そう叫ぶと、スタコラと教室を出て行ってしまった。苦笑いした文ちゃんが追いかけようと立ち上がる。
「あとで詳しく聞くからな」
そう言い残すと、彼女も廊下へと姿を消した。寝ぼけたキイちゃんに誤解された……。
再び静まる教室。そんな時だった。
「ってて……く……また俺は……。病院には行きたくないな……」
「?!」
青みがかった黒い毛髪が私の頬をかすって、そして目の前から遠ざかっていく。アキが床に手をついて起き上がったのだとわかる、と同時に、一瞬目が合った。
「ご、ごめん……」
そう言ったのはアキだ。私も立とうとしたけれども、すぐにペタンと座り込んでしまう。アキの方はすぐそこで椅子に座り直して俯きながら目をそらす。とりあえず、さっきから……アキが起き上がった時から頭の中で反芻している違和感。同じなのに違う声。同じなのに違う顔。同じなのに、やはり何かが違った。
「また……この前と同じなの?」
私が聞く。その声を聞くと何かを探すようにアキは辺りを見回し、薪原さんを確認してあっと小さく声を上げた。ここぞとばかりに彼女は思ってることを吐き出す。
「ミヨっち……?てかトッキーまでそんな顔して!この前と同じってなんのこと?ウチさっぱり理解出来てないんだけど、な、何が起こっちゃってんのさ。あきやまー?」
「えっと……ね、薪原さん。これは……」
「いや、俺から話すよ。美頼」
そう言って穏やかな口調と表情で私を制すと、アキは薪原さんの方を向いた。千夜の方はと見てみると、柄に合わない真面目な表情で一部始終を見てる。
「薪原さんなら大丈夫だと信じてる。えっとね……」
まさか……そう思う私の目の前で、アキは続けた。
「実は俺、仲山秋は、人格障害を持ってるんだ」
「お前急に何言ってんの秋山」
即答だ。薪原さん即答しちゃったよ。
「あ、アキの言ってることは本当だよ!僕とヒーちゃんだって先週知ったんだから。信じてくれ薪原さんっ」
そしてまたここぞとばかりに千夜がいつもより増して大きい声でそう言った。薪原さんは少したじろぎ私の方を見てくる。その瞳からは、「え、これまじなの」とでも言いたげな困惑した気持ちが伝わってきた。そんな彼女を見てると、背後からはアキがはぁとため息をつく音が聞こえてくる。
「まあ後は二人が説明してくれて構わないからさ。とにかく俺は保健室に行くよ。なんかもう眠たくなってきたし……こんなとこ早く出たいんだ」
最後に何かつぶやいて、そのままそそくさと歩き出すアキ。その後ろ姿を見ながら、さっきまでの会話を思い出す。なんとなくではあるけども、アキと私たちとの間に少なからずある見えない壁を感じた。
ーーもうひとりのアキの背中は、とても弱々しく、気だるげで、まるで生気を奪われたかのような。それは人格交代の影響なのか、もしくは人格そのものが……。そんなことを考えてるうちに、いつの間にか当の本人は教室の扉の向こうへと消えていった。
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