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第1章>牝鹿の伝言[ハイスクール・マーダー]

Log.14 崩れる

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 俺にしては結構悩んだ方だ。みんなに俺の父親の死について調べてもらうのは、少しばかりか、かなり抵抗があった。記憶には無いにしろ自分の実の父親。調べたら何か都合の悪い事件の裏が見えてくるかもしれないし……そんな中で、俺が皆の力を借りることに決めたのには理由があった。

 姉さんはまだショックなのか自室に引きこもってしまっているし、この1週間、朝ごはんはトーストかシリアルで毎日済ませている。いつも豪華で食べる気が引けていた姉の朝食も、こうなると恋しくなってくるものだ。

 要するに、だ。姉さんのショックの受けようといい、あの悪夢に人格障害の病気といい、俺がまだ幼かった11年前にとんでもない何かがあったに違いないのだ。と、俺は思う。

 ちなみに俺は父親に関する情報を何も知らなかった。今まで気がつかなかったのだが、驚くことに名前までも聞かされていないのだ。

 姉に聞いたところ、父親の名前は仲山愁なかやまうれいとだけ答え、あとは無言だった。

 そこで俺が使うことに決めたのはインターネットである。そうして日付けのよくわからない11年前の羊嶺町内で起きた事件。家の場所も美頼の家の隣で特定して検索したのだが、何故か1ミリも情報が出てこなかった。

 おかしい。

 あそこで火事が起きたのは確実なのだ。それなのに、『羊嶺町 火事 11年前』のキーワードでの検索結果には『羊燃やした男(38) 動物愛護法違反で逮捕 全部で11匹』とかいうふざけた記事がトップに出てきやがる。

 次に俺は仲山愁の方で検索をかけた。するとこちらは当たりだった。大量の検索結果が表示され、俺は驚くこととなる。

 鳥井大学大学院の、理学部で生物に関する研究を専門とする教授。それも人の記憶をデータ化するという発明の第一人者、天才と呼ばれる高知脳の持ち主。それが俺の父親だった。

 そして頭に思い出されるのが例の写真だ。俺は無意識にその光景を思い浮かべていた。

 生い茂る草木。雲のない爽快な空。2色のテント。串に刺さった肉と野菜を焼きながら汗をふく美頼の父。小さい俺と、ロングヘアーをなびかせながら走る美頼。そして薪を運ぶ黒く眩まされた俺の父親……仲山しゅ……う…………う?

 始めはグラッと頭を揺さぶる、鋭く強い頭痛だった。それで皆に心配そうな顔で見られていたというわけだ。そしてすぐに激しい目眩に襲われ、吐き気すら覚え自分のシャツの胸元を鷲掴みにする。

 「アキ?!こ、今度は一体何なの?!!」

 「これってまさか……?!またこの前みたいな感じだよね……ヒーちゃん……」

 「この前ってなんだトッキー!?」

 「トッキーって僕のこと?!」

 あの時は下を向いてて見えなかったが、美頼と千夜は先週もこんな顔をしていたのだろうか……。歯を食いしばりながら思うが、前より症状が悪化している気がする。

 それが思い過ごしであることを願いながら他の二人とは反対側にいた薪原と三川を見ると、先程までとは違う真剣な表情になっていた。ただそんなことより……

 ーーい、今のも……ダメだったってか……!

 そう思ったが最後、歪んだ視界で椅子から転げ落ちる。すぐそばにいた美頼に受け止められながら、俺の意識は完全に暗い闇へと落ちていった。
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