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第1章>牝鹿の伝言[ハイスクール・マーダー]
Log.13 懐しむ
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そこに居たのは、入学式の日コンビニで働いていた薪原さんだった。ただ、その時の上品な印象とはだいぶ違っていた。
伸びた前髪で半分程隠れた顔。小麦色の肌に、半袖セーラー。上に来ていたと思われるセーターは腰回りで巻かれて結ばれていた。そして腕を組んで戸の脇の壁に寄りかかり、こちらを眺めるそんな姿……それは若干不良を彷彿とさせてもおかしくなかった。そこにまだ何処となく既視感があるが……。
三川が振り返って説明し始める。
「彼女は薪原麻尋さんだ。身長164センチ体重55キログラム。バストは……」
「ちょちょちょちょ、え?なになに、ミカちんプライバシーは?!なんでウチのことそんな知ってるんさ」
ペラペラと聞いてもないことまで喋り出す三川に、薪原が慌てる。すると三川はまた得意げになって、
「元新聞部員の私の情報網をなめ……」
「言わせねーよ?!」
ーー今の時刻は15時40分頃。まだ廊下の方はたまに生徒達が通る声がする。三川は床にきちんと正座させられて、反省している格好を見せている。俺たちはその横で、話しやすいように椅子を並べて座っている。つい先ほどお互いの自己紹介を軽く済ませたところだ。
「それで……なんでまたこんな変な部活に……」
「おい」
「……なんでこの部活に来たの?薪原さん」
本人からは親しくしてねと言われつつ、敬語になってしまう千夜。薪原の表情が少し変わった。
「いやぁ……ウチは別にどこでもよかったんだけどね。一週間前くらいからかな。お母さん達が推理問答部に入りなさいって言い始めたのは」
美頼がとっさに口を開く。膝の上にキイノを乗せながら。
「え??なんで??」
「ウチもわかんないんさ。まあでもそんなわけでここに入部するってこと」
言いながらポニテをいじる薪原。近いうちにご両親を伺う時が来るかもしれない。隣で千夜が口を開く。
「へぇー、なんか裏がありそうだね」
「ありまくりじゃないの」
美頼はそう言ってキイノの髪を縛っている。キイノの方はくすぐったそうに顔をしかめていた。薪原が特に何の変哲も無いコンピューター室を見回す。
「てかさ、ここってどーゆうことしてるん?」
「いやぁーまだそんなハッキリとした活動はできてないんだよね。僕はさっきまでアキとダイイングメッセージについて話し合ってたけど」
すると今まで黙っていた三川が反応した。
「それはあれか?佐藤の話か?」
「え、あ、うん。そうだけど……どうしたの三川……さん」
「……呼び捨てでいいんだが。いや、実は知り合いに詳しい奴がいてな。私にとって馴染みのある話なのだ。しかし今時現実でダイイングメッセージなど……私だったらカタカナだろうなあ」
ーーなんだいきなり。フラグか?
「え、なんでカタカナ?」
「ひらがなよりも曲線が少なく書きやすいだろう?」
「あ、確かに!!!」
キイノを膝の上で寝かせながら話に参加しだす美頼。みんなで何となくミステリーチックな意見を出し合う。なんだか部活っぽい。
ふと俺は薪原を見る。さっきから薪原への既視感を、同じ学校だったからという理由だけで済ませてはいけない気がするのはなぜだろう。
「どうしたん秋山。さっきからウチに見惚れちゃって」
一瞬反応が遅れて、苦笑した。薪原はあだ名をつけるのが好きなようだが、実は俺のあだ名は秋山になってしまったのだ。少し足掻いてみたのだが、もう諦めた。
「あぁ、なんか、薪原って誰かに似てるよなって思ってさ」
「あ、それ私もー。コンビニの時から思ってたけど、やっぱどっかで見たことあるよ」
美頼が声を上げた。お前もか。
「ほえーなんでだろ」
不思議そうに首を傾げながら、薪原は両手を思い切りあげて伸びをする。それを見てどこか懐かしい、暖かい気持ちになった。
「あ、そうだ」
「ん、どした」
横に座る千夜が振り向いた。俺が言葉を選ぶ少しの間、沈黙と共にキイノの寝息が微かに聞こえてくる。
「……迷ったけどみんなにも言おうと思う。えっと……俺の父さんの死について一緒に推理し合わないか?」
えっ、という顔になったのは、父さんの死を知らない薪原と三川だけだ。俺は続ける。
「11年前の火事のことを、詳しく思い出さないといけない気がするんだ」
できるだけ、早く。人格交代が起こってから俺はそんな風に感じていた。美頼と千夜は少し心配そうに俺の顔を伺っている。薪原と三川もなにか言いたげだ。キイノはぐっすりと眠っているようだ。
そして詳しく話そうとした時だった。
ーー俺は自分がひどい頭痛にしかめっ面をしていることに気づいた。
伸びた前髪で半分程隠れた顔。小麦色の肌に、半袖セーラー。上に来ていたと思われるセーターは腰回りで巻かれて結ばれていた。そして腕を組んで戸の脇の壁に寄りかかり、こちらを眺めるそんな姿……それは若干不良を彷彿とさせてもおかしくなかった。そこにまだ何処となく既視感があるが……。
三川が振り返って説明し始める。
「彼女は薪原麻尋さんだ。身長164センチ体重55キログラム。バストは……」
「ちょちょちょちょ、え?なになに、ミカちんプライバシーは?!なんでウチのことそんな知ってるんさ」
ペラペラと聞いてもないことまで喋り出す三川に、薪原が慌てる。すると三川はまた得意げになって、
「元新聞部員の私の情報網をなめ……」
「言わせねーよ?!」
ーー今の時刻は15時40分頃。まだ廊下の方はたまに生徒達が通る声がする。三川は床にきちんと正座させられて、反省している格好を見せている。俺たちはその横で、話しやすいように椅子を並べて座っている。つい先ほどお互いの自己紹介を軽く済ませたところだ。
「それで……なんでまたこんな変な部活に……」
「おい」
「……なんでこの部活に来たの?薪原さん」
本人からは親しくしてねと言われつつ、敬語になってしまう千夜。薪原の表情が少し変わった。
「いやぁ……ウチは別にどこでもよかったんだけどね。一週間前くらいからかな。お母さん達が推理問答部に入りなさいって言い始めたのは」
美頼がとっさに口を開く。膝の上にキイノを乗せながら。
「え??なんで??」
「ウチもわかんないんさ。まあでもそんなわけでここに入部するってこと」
言いながらポニテをいじる薪原。近いうちにご両親を伺う時が来るかもしれない。隣で千夜が口を開く。
「へぇー、なんか裏がありそうだね」
「ありまくりじゃないの」
美頼はそう言ってキイノの髪を縛っている。キイノの方はくすぐったそうに顔をしかめていた。薪原が特に何の変哲も無いコンピューター室を見回す。
「てかさ、ここってどーゆうことしてるん?」
「いやぁーまだそんなハッキリとした活動はできてないんだよね。僕はさっきまでアキとダイイングメッセージについて話し合ってたけど」
すると今まで黙っていた三川が反応した。
「それはあれか?佐藤の話か?」
「え、あ、うん。そうだけど……どうしたの三川……さん」
「……呼び捨てでいいんだが。いや、実は知り合いに詳しい奴がいてな。私にとって馴染みのある話なのだ。しかし今時現実でダイイングメッセージなど……私だったらカタカナだろうなあ」
ーーなんだいきなり。フラグか?
「え、なんでカタカナ?」
「ひらがなよりも曲線が少なく書きやすいだろう?」
「あ、確かに!!!」
キイノを膝の上で寝かせながら話に参加しだす美頼。みんなで何となくミステリーチックな意見を出し合う。なんだか部活っぽい。
ふと俺は薪原を見る。さっきから薪原への既視感を、同じ学校だったからという理由だけで済ませてはいけない気がするのはなぜだろう。
「どうしたん秋山。さっきからウチに見惚れちゃって」
一瞬反応が遅れて、苦笑した。薪原はあだ名をつけるのが好きなようだが、実は俺のあだ名は秋山になってしまったのだ。少し足掻いてみたのだが、もう諦めた。
「あぁ、なんか、薪原って誰かに似てるよなって思ってさ」
「あ、それ私もー。コンビニの時から思ってたけど、やっぱどっかで見たことあるよ」
美頼が声を上げた。お前もか。
「ほえーなんでだろ」
不思議そうに首を傾げながら、薪原は両手を思い切りあげて伸びをする。それを見てどこか懐かしい、暖かい気持ちになった。
「あ、そうだ」
「ん、どした」
横に座る千夜が振り向いた。俺が言葉を選ぶ少しの間、沈黙と共にキイノの寝息が微かに聞こえてくる。
「……迷ったけどみんなにも言おうと思う。えっと……俺の父さんの死について一緒に推理し合わないか?」
えっ、という顔になったのは、父さんの死を知らない薪原と三川だけだ。俺は続ける。
「11年前の火事のことを、詳しく思い出さないといけない気がするんだ」
できるだけ、早く。人格交代が起こってから俺はそんな風に感じていた。美頼と千夜は少し心配そうに俺の顔を伺っている。薪原と三川もなにか言いたげだ。キイノはぐっすりと眠っているようだ。
そして詳しく話そうとした時だった。
ーー俺は自分がひどい頭痛にしかめっ面をしていることに気づいた。
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