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第1章>牝鹿の伝言[ハイスクール・マーダー]

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『新設!推理問答部部員募集中!!
 この新しい部活で、少し頭を使ってみませんか?活動内容はクイズの制作や解読、又は探偵のように依頼を受け持ってみたり……活動日は平日の5日間。宿題がある時はいつでも部員と自習できちゃったりします!
 興味を持った方は是非、本入部申込日までいつでも部室の第二コンピューター室へ。

 S.M.クラブ副部長

 土岐下千夜』



「おい」

 目の前にいる混じり気のない茶色い髪に対してガッと牙をむくのは、寝癖だらけの青黒い髪。俺だ。

「うんうん。一見まともな募集ポスターなのよね。でも私からもちょこっと文句があるんだけど」

 ちょこっとだけね?とさっぱりした笑顔で拳を固める物騒な赤髪は、もちろん美頼。

「わかるよ、言いたいことはよーくわかる。だから、二人ともそんな興奮しなくていいんだよ。落ち着いて……ね?」

「絶対わかってねぇ!」

「絶対わかってない!」

 時刻は入学式から2日過ぎた放課後である。

 俺は病院で検査や問診を受けた後、1日で退院した。

 驚いたことに、姉さんはすでに俺の病気を知っていた。5歳の頃、俺の父さんが死んだ日、発症していたというのだ。

 その時の病院からのアドバイスは次のようなものだった。

 『父親の顔を連続して目視する、又は思い出そうとすると人格交代が発現するようになっていると思われる。症状の抑制には、父親関連の品を秋君から遠ざけるしかない』

 つまり俺がいくら探しても父親の写真が見当たらなかったのは、そういう訳だったのだ。

 ただ、美頼に見せられた父親の写真が黒くぼやけ見えなかったのは未だに謎のまま。担当の医師もそんな症例は聞いたことないらしく、仮説としては、あまりのショックで父親の顔自体がトラウマになってしまって、脳が受け付けていないのではというものが挙げられた。

 あの悪夢の正体だってまだ良くわかっていない。どちらもフード男と、綺麗な蝶が出てきていた。そしてちょうど5歳くらいの幼い自分。11年前、人格が作られた時にそんなにもトラウマチックな出来事があったのだろうか。

 時間を戻そう。
 今いる場所は先程も出てきた第二コンピューター室だ。機械独特の匂いは、おそらく人によって好き嫌いが分かれるだろう。ふかふかでクッション付きのオフィスチェアを三つ、机の前で半円状に並べて3人で話している。机の上には千夜が持ってきた張り紙――周りに簡単な絵が少々描かれていて、例の文面のもの――が置いてあった。昨日の放課後三人で話し合って、結局やる気満々の千夜に募集ポスターを任せることにした結果がこれだ。

 「最大の疑問だけどな、一体どうゆうつもりだこの略称!」

 「……ボクセンスアルデショ?」

 ──ブチッ

 千夜がふざけた口調で返すと、笑顔の美頼から何かが切れる音がした。その音に気付き、千夜が慌てる。

 「いや違うんだって!あのさ、ただでさえ部活多くて部員競争の激しいこの学校社会の中、この地味な部活にはインパクトが必要だと思ったわけなのですよ!」

 「お前……最初からそれを考えて推理問答部とかいう変な名前つけたのかよ」

 よくよく考えれば、部活の名前は探偵部なり、推理研究部なり、他にメジャーなものがあったはずだ。千夜がそこまで言うと、美頼も少し納得したのか、固めていた拳を下ろし、ジト目になった。

 「千夜だから仕方ないけどもっと他にアイデアなかったわけ??下手したらシャレになんないわよ」

 「今さりげなくけなされた気がするんだけど……!」

 さりげなくはないと思いながら、俺は考える。

 この羊嶺高校は、部活の方針が少し変わっている。勉強への集中と、能力の向上を意図してか、3年間の中で、1年生で入った部活を退部することはできない。つまり、1度入ればそれっきり転部もできないということだ。ただし全校生徒が部活動への参加を義務付けられていて、大体どの部活にも幽霊部員が存在するような有様だ。

 そしてただでさえ30を超える多くの部活動の数。毎年部員不足になり無くなる部活もあるため、その補いとして部活動提案が行われているわけだ。だがしかしその部活は1年生しか入れない。また、需要としては既存の部活達の方があるのは当たり前だろう。なぜなら部員が減った部活の代わりが新しい部活なのだから。


 つまり、高一しか入部しないのに、できたばかりで認知度と需要が低い部活ということ。


 そうしたハンデの上で、この宣伝の仕方……どうなることやら。

 「どっちにしろこんなんで部員が集まるわけ――」

 そこまで言って、俺の目は1人の女の子を捉えた。うん。確かに『女の子』だった。


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