75 / 92
第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]
Log.69 サイナンロード
しおりを挟む──「ウチさ、実は閉所恐怖症で……」
麻尋が倒れてから次の駅で俺たちは降りた。そこでなんとかベンチに座らせると、彼女は目を覚ました。その説明に、みんな納得だった。
「動けなくなると怖くてパニクっちゃって。直したいんだけどね」
「生まれつき?」
美頼が水を渡しながら聞いた。
「ううん、小学生の時にね。誘拐されたことあんのよ。ほら、ウチってお金持ちの家じゃんか。そこで閉じこめられたのが残ってて」
美頼は気まずそうな顔をした。そんなことがあったのかと、つい場の空気が重くなってしまう。それを感じたのか、水を口にした麻尋は慌てて続けた。
「いや、みんなは気にしなくていいよ!?ただウチがトラウマが克服できてないってだけで……言いそびれてて倒れちゃったウチが悪いし」
「でも辛かったよね、ごめんね」
美頼がみんなの意見を代弁してくれる。背を向けて無言だった辻堂は、スマホをタップして言った。
「ここからでも歩けなくはないわ。歩く?」
「ちょっと、お願いしちゃおうかな……」
あはは、と麻尋は力ない笑顔を浮かべた。誰も反対するわけがなかった。……そんなこんなで今は山道を歩いている。
柵はロープが引かれてるだけの獣道。茶色くなった桜の花びらが石畳に散らばっているから、ここら辺の木は桜だろう。緑がまばらな木々の下、俺ら部員はゆっくりと歩いていた。
「辻堂さん、あと何分くらいで着く?」
千夜が尋ねる。
「15分、てところかしら」
辻堂は素っ気なく答えた。みんな汗だくだ。夏が近づいたからか、外気の温度も上がってきた気がする。一応パーカーに八分丈のズボンという軽装できたから徒歩には向いているが、道をはみ出た草木が時たま足に切りかかってくる。山道には向いてなかったなと、少し後悔した。
その時、先頭にいた辻堂が立ち止まった。すぐ後に続いていた美頼が止まりきれずにぶつかる。
「ぶわぁっ」
既視感。
「誰……?」
辻堂の声だ。その目線を追うと、狭い山道のど真ん中に大きな影が見えた。それは人影だが、明らかに大きさがおかしかった。2メートルはある。そんな何かが、立ちはだかっているのだ。
「ジュウイチネンマエ……」
わずかに機械的な男の声だ。
「……逃げるわよ」
「え?」
振り返った辻堂は小声でそう言った。やけに焦っているその声に、千夜が反応する。一番後ろだった俺は、あまり前が見えなかった。ただ、緊迫感だけは伝わってきた。
「や、やばいよこれ!」
美頼が何を見たのか落ち着かない声を上げる。気が動転しているのかその声は裏返りまくっている。その後ろの麻尋はこちらを向いて逃げようとする。そのまま古戸霧は相変わらずよくわかってない顔でぶつかられる。
俺もとりあえず踵を返して走り出すが、目の前に例の人影が降りてきた。逃げ場はなくなる。
「な、嘘だろ……」
振り返ったが先程の場所にはもう人影はない。宙を飛んできたようだ。
そしてそこから、俺の記憶はない。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる