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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]
Log.58 another sister
しおりを挟む──俺の……妹?
薪原が?
「さぞ混乱することだろうよ。仕方あるまい。でも彼女は、君のお母さんとお父さんから産まれた、もう1人の子供だ」
咲夜は淡々と続ける。俺は頭の中でいくつもの考察をしてみたが、全然納得いくはずが無かった。
「そんなの、姉ちゃんからも聞いたことがない。信じられるかよ!」
「君のお姉さんが知っているわけがないさ。仲山愁がずっと隠していたんだから。君と麻尋ちゃんが産まれてすぐに、君たちの母親は死んだんだ」
そこまで言って、咲夜はモニター前の椅子に腰を下ろした。
「……君のお父さんが、記憶をデータ化する研究をしていたのはもう知っているね」
「知ってる。新聞で見たくらいで、詳しくは知らないけど……」
「それ、半分は俺の作品だったんだ。それを……それをあいつは盗みやがった!全て自分の手柄にしやがったんだ!!」
感情的になる咲夜。演技だとしたら素晴らしい演技だ。それくらい、疑いの余地のない、憎悪の表情が見て取れた。
俺の父親が咲夜との発明を自分1人のモノにした。要するに咲夜はゴーストだったということか。
「俺は11年前、勢い余って地下室であいつを殺した。だがそこにはもう1人いたんだ。ぐっすり気持ちよさそうに寝息を立てる、小さな少女が。慌てたよ。息子の君の話しか聞いたことがなかったからね」
「今、なんて言った……?」
「あぁ、そうさ。君の父親を殺したのは俺だよ。火をつけたのもね」
「は……?」
話に頭が追いつかない。
「憎かったから愁は殺した。だが娘には罪はないからね。裕福な家庭で幸せに育ってくれるよう色々指示させてもらったよ」
なんで中途半端に優しいんだ。いや、問題はそこじゃない。11年前の真相だ。犯人は蒲通咲夜だったということか?それについて色々確かめたかったが、何を聞けばいいのかもわからない。
そんな中、咲夜はまた話し出す。
「そうだな、あとはこのゲームに招待した理由か」
奴は長いため息をついた。
「要するに、試したかったのさ。VRMMO制作の第一人者としてね。そのついでにデスゲームなんていう子供の頃からの夢を叶えたんだ。ただそれだけだよ」
「……それだけ?」
「あぁ」
高慢な態度をとる彼に、俺は激怒して、掴みかかる。
「お前、人の心を散々弄んで……!」
「おかげで色々と助かった。礼を言うよ」
なんとか一矢報いてやりたかったが、思いとどまった。今は情報を洗いざらい提供してもらう方が優先だ。俺は掴んでいた白衣の襟を離す。
他に聞いてないこと……。
「……白夜叉優衣」
「ん?」
「白夜叉優衣が何者か、知ってるか?なんでさっきお前が現れた時、突然に消えたんだ?」
あぁ、と短く相槌を打って、咲夜は足を組み直した。
「はっきり言うと、知らない。なぜ消えたのかもわからない。なぜ現れたのかもわからない。謎の女だ。あいつは」
俺はその答えに納得がいかなかった。優衣さんのことだけ全く知らないなんて。優衣さんが本当に俺の父さんが送り込んだ救世主なら、確かに知らなくてもおかしくないが……。
だが咲夜は、全て話し終えたかのように立ち上がる。
「もう話すことは無いよ。そして二度と会うこともないだろう。さよならだ」
昨夜はそんな台詞を捨てるように吐いた。白衣を纏った男が、ゆっくりと消えていく。
ちょうど咲夜の姿が消えた頃。目の前になにかホログラムのようなものが表示された。
何かを祝うようなリボンの装飾とともに、『Congratulations!!』と書いてある。
──ゲームを終わりますか?
▷はい いいえ
「……終わるに決まってんだろ」
随分と長い間、この世界にいた気がする。現実と仮想現実の区別がつかなくなる前に、俺は帰らないといけない。
例のタンクの方を振り返ると、麻尋の姿も消えていた。おそらくもう、解放されたのだろう。
俺は『はい』の方を、一思いに押した。
清々しい気持ちの中に、釈然としない気持ちを隠して。
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