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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.52 pedestrian subway

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 ほんの数時間、一緒に行動しただけなのに。なぜこんなにも胸が締め付けられるのだろう。

 優衣さんの身体はなるべく楽な姿勢に寝かせてあげた。拳銃の弾も貰おうか悩んだが、死者の持ち物を盗むようでどこか気が引けたので、止めておいた。

 あまりにも呆気ない別れに、優衣さんの死に、俺達は無言でトンネルの中を歩き始めていた。

 いったい俺の父親は何を考えていたのか。何を行っていたのか。記憶媒体、クローン技術、人格。全てあの人の死亡記事に書かれていた単語だが、いまいち意味がよく分からない。今回の件で、さらには人工知能まで作っていたことになる。

 「アキのお父さんって、一体何者なの?」

 うん、俺もちょうど考えてた。あと俺もよく分からない。

 「……全然記憶はねぇけど。新聞に載ってた研究所とか、まだあるんかな」

 何気なく携帯を取り出して待受を見る。通知は特に来ていない。時間は……ここで目が覚めてから2時間は経過していた。

 「そっか、その研究所に行ってみればいいじゃん」

 「このゲームから出られたらな」

 もうひとつのわからない点だ。一体なぜ俺達はこのゲームに放り込まれたのだろう。あの蓑畑ってアンドロイドが催眠ガスを投げた後、薪原の家から……

 「あれ?そういえば薪原は……!?」

 自分のことで精一杯ですっかり忘れていた。美頼も今気づいたような顔をする。
 
 「なんでだろう。私も今まで考える暇がなくて……ていうか、優衣さんがマヒロンにそっくり過ぎるんだよ。雰囲気も見た目も」

 「美頼は会った時なんとも思わなかったのか?」

 「うーん。でも、会った瞬間コミュ症発動しちゃったから別人かなって」

 なんだその便利な見分け方。俺も欲しい。

 白く明るいトンネルの道は、曲がりくねってこそいたがずっと一本道だった。だが、それも今ここで終わった。

 「扉があるね」

 「ああ」

 「マヒロンこの先にいたりして」

 「かもな」

 いかにもな電子ドアだ。鍵穴はどこにもなく、横に何かを認証する装置のようなものがある。

 俺はすかさず携帯を確認した。そこにはこう表示される。

 [扉の先に生体反応あり。危険度レベル0]

 「誰かいるみたいだ」

 先に行って扉の開け方を探っていた美頼が、俺の方を振り向く。俺の顔がとても怯えていた。きもちわる。

 その時だった。どこからか声が聞こえてきたのは。

 「はっ……待ちくたびれたよぉ。もーう1人の女はどこ行ったんだぁい?」

 美頼が扉から離れて少し後ずさりする。俺は身構えた。

 すると、勝手に、独りでに扉が開いた。

 薄暗い部屋に、いくつものモニター。白く浮かび上がった白衣が、コツコツと足音を立てて近づいてくる。

 「まぁ入って入ってぇ。この時を子供の頃からずぅーっと夢見てたんだぁ」

 ネトネトとした陰気臭い喋り方だ。顔はまだ影になっていて見えない。

 「誰……?」

 美頼がそう尋ねる。男の顔が露わになった。

 「はっ……そうだなぁ。このゲームの製作者にしてぇゲームマスター。天才プログラマーの蒲通咲夜がまどおりさくやたぁ、俺のことよ」

 それは今までに見たことのない、中年眼鏡のブ男だった。確かに優衣さんからその名前は聞いたが……

 「誰だよ……」

 俺はぼそりと呟いた。
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