上 下
56 / 92
第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.52 pedestrian subway

しおりを挟む
 ほんの数時間、一緒に行動しただけなのに。なぜこんなにも胸が締め付けられるのだろう。

 優衣さんの身体はなるべく楽な姿勢に寝かせてあげた。拳銃の弾も貰おうか悩んだが、死者の持ち物を盗むようでどこか気が引けたので、止めておいた。

 あまりにも呆気ない別れに、優衣さんの死に、俺達は無言でトンネルの中を歩き始めていた。

 いったい俺の父親は何を考えていたのか。何を行っていたのか。記憶媒体、クローン技術、人格。全てあの人の死亡記事に書かれていた単語だが、いまいち意味がよく分からない。今回の件で、さらには人工知能まで作っていたことになる。

 「アキのお父さんって、一体何者なの?」

 うん、俺もちょうど考えてた。あと俺もよく分からない。

 「……全然記憶はねぇけど。新聞に載ってた研究所とか、まだあるんかな」

 何気なく携帯を取り出して待受を見る。通知は特に来ていない。時間は……ここで目が覚めてから2時間は経過していた。

 「そっか、その研究所に行ってみればいいじゃん」

 「このゲームから出られたらな」

 もうひとつのわからない点だ。一体なぜ俺達はこのゲームに放り込まれたのだろう。あの蓑畑ってアンドロイドが催眠ガスを投げた後、薪原の家から……

 「あれ?そういえば薪原は……!?」

 自分のことで精一杯ですっかり忘れていた。美頼も今気づいたような顔をする。
 
 「なんでだろう。私も今まで考える暇がなくて……ていうか、優衣さんがマヒロンにそっくり過ぎるんだよ。雰囲気も見た目も」

 「美頼は会った時なんとも思わなかったのか?」

 「うーん。でも、会った瞬間コミュ症発動しちゃったから別人かなって」

 なんだその便利な見分け方。俺も欲しい。

 白く明るいトンネルの道は、曲がりくねってこそいたがずっと一本道だった。だが、それも今ここで終わった。

 「扉があるね」

 「ああ」

 「マヒロンこの先にいたりして」

 「かもな」

 いかにもな電子ドアだ。鍵穴はどこにもなく、横に何かを認証する装置のようなものがある。

 俺はすかさず携帯を確認した。そこにはこう表示される。

 [扉の先に生体反応あり。危険度レベル0]

 「誰かいるみたいだ」

 先に行って扉の開け方を探っていた美頼が、俺の方を振り向く。俺の顔がとても怯えていた。きもちわる。

 その時だった。どこからか声が聞こえてきたのは。

 「はっ……待ちくたびれたよぉ。もーう1人の女はどこ行ったんだぁい?」

 美頼が扉から離れて少し後ずさりする。俺は身構えた。

 すると、勝手に、独りでに扉が開いた。

 薄暗い部屋に、いくつものモニター。白く浮かび上がった白衣が、コツコツと足音を立てて近づいてくる。

 「まぁ入って入ってぇ。この時を子供の頃からずぅーっと夢見てたんだぁ」

 ネトネトとした陰気臭い喋り方だ。顔はまだ影になっていて見えない。

 「誰……?」

 美頼がそう尋ねる。男の顔が露わになった。

 「はっ……そうだなぁ。このゲームの製作者にしてぇゲームマスター。天才プログラマーの蒲通咲夜がまどおりさくやたぁ、俺のことよ」

 それは今までに見たことのない、中年眼鏡のブ男だった。確かに優衣さんからその名前は聞いたが……

 「誰だよ……」

 俺はぼそりと呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺のタマゴ

さつきのいろどり
ミステリー
朝起きると正体不明の大きなタマゴがあった!主人公、二岾改(ふたやま かい)は、そのタマゴを温めてみる事にしたが、そのタマゴの正体は?!平凡だった改の日常に、タマゴの中身が波乱を呼ぶ!! ※確認してから公開していますが、誤字脱字等、あるかも知れません。発見してもフルスルーでお願いします(汗)

少年の嵐!

かざぐるま
ミステリー
小6になった春に父を失った内気な少年、信夫(のぶお)の物語りです。イラスト小説の挿絵で物語を進めていきます。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」

百門一新
ミステリー
 雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。  彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!? 日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。 『蒼緋蔵家の番犬』 彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

広くて狭いQの上で

白川ちさと
ミステリー
ーーあなたに私の学園の全てを遺贈します。   私立慈従学園 坂東和泉  若狭透は大家族の長男で、毎日のように家事に追われている。  そんな中、向井巧という強面の青年が訪れて来た。彼は坂東理事長の遺言を透に届けに来たのだ。手紙には学園長と縁もゆかりもない透に学園を相続させると書かれていた――。  四人の学生が理事長の遺した謎を解いていく、謎解き青春ミステリー。

7月は男子校の探偵少女

金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。 性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。 顔の塗りつぶされた肖像画。 完成しない彫刻作品。 ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。 19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。 (タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...