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八語目 『バーチャル・アイディアリティ』
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(前略)
「うぉおおおおおお!!!!」
(後略)
以上。今回の俺のセリフ以上。
白いモヤに包まれながら、余韻に浸るもクソもないほど短かった出番に苛立ちを隠せない。
もしかすると今までで一番短いモブだったかもしれない。
なにしろほんの1秒だけ、敵の軍団が主人公達に押し寄せるシーンに映りこんだ後、ほんの1秒だけ、瞬殺された死に様が映されただけだったのだ。
『Asanotoon』敵A、シーン間約2秒。よくもまあこんな役にセリフをつけてくれたものだ。
「よくもまあこんな役にセリフをつけてくれたよね」
すぐ真横で思っていたことと同じセリフが吐かれる。ミヨリだと思われる敵Bが座っているのだ。ちなみに俺らは、また宿に戻ってきていた。
ミヨリはつるっぱげの渋いオッサンだ。いかつすぎる。
「まあ仕方ないな。俺らモブだもんな……」
そう呟きながら、俺はつい先程の声を思い出す。
──主人公に抗え
確かにそう聞こえた気がしたのだ。これはまた主人公特有の現象なのだろうか。だとするとこのモブの世界の話を書いてる作者をぶん殴ってやりたい。
「どうしたの?アキ」
渋すぎる。声が渋すぎるよミヨリさん。
「いや、さっきAsanotoonの世界に行く直前に、誰か喋ってなかったか?主人公がなんとかって」
「うーん、ウチは気づかなかったけど……でもすごくないそれ!!なんか主人公っぽいやつじゃん!!」
目を輝かせるミヨリ。いや、目を輝かせて内股で嬉しそうにする三十代後半のガタイのいいオッサン。
今は図書館らしきところにいる。ここには歴代のアニメやマンガの資料が保管してあって、いい暇つぶしにもなるのだ。
ふと思い立って適当に山積みされた一番上の本を手に取り、見てみる。ハードカバーで目を引くデザインの表紙には、『バーチャル・アイディアリティ』と書いてある。
これは俺も知っている120分程の映画だ。近未来が舞台なのだが、リアリティを超越した衝撃的なストーリーは、人間界で大ヒットしたものである。
『リアリティ』の対義語である、『アイディアリティ』。意味は理想的、観念的、完全無欠。
VR技術が発達して、ゲームだけではなく映画や企業、私生活にもそのリアリティが浸透した社会。専用のゴーグルを付けて人類は充実した毎日を送っていた。
主人公の音羽咲もその集団の中の1人。そのはずだった。
ある日不具合でゴーグルを外した咲は、驚愕の光景を目の当たりにするのだ。ゴーグルを付けると見ることも触れることもできるはずの人間が全て、外すと消えているのだ。
つまりその世界に咲は一人きり。
現実とバーチャルが混ざり合う中、親友の東雲桃八と真相を追い求める。
そして彼らは、とうとう自分たちが生きていたのはアイディアリティの世界だったことに気づくのだ。はたして地球上で起こっていた異変とはなんなのか。
ラスト15分は次々と回収される伏線に鳥肌が止まらないらしい。
「あっそれ!ウチも出たよ。新人類の役なのにモブだったのよね……」
あっさりとネタバレしやがった。この……オッサン許さねえ。
「やっぱりモブなんだな……ははは」
そうして俺が力ない笑顔を作った時だった。本の隙間から何かが落ちたのだ。
「なにこれ?メモ?」
ミヨリが拾い上げる。
『俺はモブをやめて主人公になることにした。その方法がやっとわかったんだ。あとからこれを見る人がもしいるなら、もし俺が主人公になった後もこれが残っているなら、ぜひ役に立ってほしい。ただ、モブをやめるということはそれなりにリスクが必要だがな……』
俺は目を見開いた。
「これってまさか……!アキ!すごいよこれ!」
「まさかの俺主人公確定じゃないですか……」
主人公になるのが夢だったが、もう既に俺はこのモブの物語の主人公のようだ。
でないとこんなに都合よく適当に拾った本にメモが挟まってるものか。
俺はそのメモを読み進めた。
「うぉおおおおおお!!!!」
(後略)
以上。今回の俺のセリフ以上。
白いモヤに包まれながら、余韻に浸るもクソもないほど短かった出番に苛立ちを隠せない。
もしかすると今までで一番短いモブだったかもしれない。
なにしろほんの1秒だけ、敵の軍団が主人公達に押し寄せるシーンに映りこんだ後、ほんの1秒だけ、瞬殺された死に様が映されただけだったのだ。
『Asanotoon』敵A、シーン間約2秒。よくもまあこんな役にセリフをつけてくれたものだ。
「よくもまあこんな役にセリフをつけてくれたよね」
すぐ真横で思っていたことと同じセリフが吐かれる。ミヨリだと思われる敵Bが座っているのだ。ちなみに俺らは、また宿に戻ってきていた。
ミヨリはつるっぱげの渋いオッサンだ。いかつすぎる。
「まあ仕方ないな。俺らモブだもんな……」
そう呟きながら、俺はつい先程の声を思い出す。
──主人公に抗え
確かにそう聞こえた気がしたのだ。これはまた主人公特有の現象なのだろうか。だとするとこのモブの世界の話を書いてる作者をぶん殴ってやりたい。
「どうしたの?アキ」
渋すぎる。声が渋すぎるよミヨリさん。
「いや、さっきAsanotoonの世界に行く直前に、誰か喋ってなかったか?主人公がなんとかって」
「うーん、ウチは気づかなかったけど……でもすごくないそれ!!なんか主人公っぽいやつじゃん!!」
目を輝かせるミヨリ。いや、目を輝かせて内股で嬉しそうにする三十代後半のガタイのいいオッサン。
今は図書館らしきところにいる。ここには歴代のアニメやマンガの資料が保管してあって、いい暇つぶしにもなるのだ。
ふと思い立って適当に山積みされた一番上の本を手に取り、見てみる。ハードカバーで目を引くデザインの表紙には、『バーチャル・アイディアリティ』と書いてある。
これは俺も知っている120分程の映画だ。近未来が舞台なのだが、リアリティを超越した衝撃的なストーリーは、人間界で大ヒットしたものである。
『リアリティ』の対義語である、『アイディアリティ』。意味は理想的、観念的、完全無欠。
VR技術が発達して、ゲームだけではなく映画や企業、私生活にもそのリアリティが浸透した社会。専用のゴーグルを付けて人類は充実した毎日を送っていた。
主人公の音羽咲もその集団の中の1人。そのはずだった。
ある日不具合でゴーグルを外した咲は、驚愕の光景を目の当たりにするのだ。ゴーグルを付けると見ることも触れることもできるはずの人間が全て、外すと消えているのだ。
つまりその世界に咲は一人きり。
現実とバーチャルが混ざり合う中、親友の東雲桃八と真相を追い求める。
そして彼らは、とうとう自分たちが生きていたのはアイディアリティの世界だったことに気づくのだ。はたして地球上で起こっていた異変とはなんなのか。
ラスト15分は次々と回収される伏線に鳥肌が止まらないらしい。
「あっそれ!ウチも出たよ。新人類の役なのにモブだったのよね……」
あっさりとネタバレしやがった。この……オッサン許さねえ。
「やっぱりモブなんだな……ははは」
そうして俺が力ない笑顔を作った時だった。本の隙間から何かが落ちたのだ。
「なにこれ?メモ?」
ミヨリが拾い上げる。
『俺はモブをやめて主人公になることにした。その方法がやっとわかったんだ。あとからこれを見る人がもしいるなら、もし俺が主人公になった後もこれが残っているなら、ぜひ役に立ってほしい。ただ、モブをやめるということはそれなりにリスクが必要だがな……』
俺は目を見開いた。
「これってまさか……!アキ!すごいよこれ!」
「まさかの俺主人公確定じゃないですか……」
主人公になるのが夢だったが、もう既に俺はこのモブの物語の主人公のようだ。
でないとこんなに都合よく適当に拾った本にメモが挟まってるものか。
俺はそのメモを読み進めた。
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