主人公だけどモブです!

猫蕎麦

文字の大きさ
上 下
8 / 13

八語目 『バーチャル・アイディアリティ』

しおりを挟む
 (前略)



 「うぉおおおおおお!!!!」



 (後略)



 以上。今回の俺のセリフ以上。

 白いモヤに包まれながら、余韻に浸るもクソもないほど短かった出番に苛立ちを隠せない。

 もしかすると今までで一番短いモブだったかもしれない。

 なにしろほんの1秒だけ、敵の軍団が主人公達に押し寄せるシーンに映りこんだ後、ほんの1秒だけ、瞬殺された死に様が映されただけだったのだ。

 『Asanotoon』敵A、シーン間約2秒。よくもまあこんな役にセリフをつけてくれたものだ。

 「よくもまあこんな役にセリフをつけてくれたよね」

 すぐ真横で思っていたことと同じセリフが吐かれる。ミヨリだと思われる敵Bが座っているのだ。ちなみに俺らは、また宿に戻ってきていた。

 ミヨリはつるっぱげの渋いオッサンだ。いかつすぎる。

 「まあ仕方ないな。俺らモブだもんな……」

 そう呟きながら、俺はつい先程の声を思い出す。


 ──主人公に抗え


 確かにそう聞こえた気がしたのだ。これはまた主人公特有の現象なのだろうか。だとするとこのモブの世界の話を書いてる作者をぶん殴ってやりたい。

 「どうしたの?アキ」

 渋すぎる。声が渋すぎるよミヨリさん。

 「いや、さっきAsanotoonの世界に行く直前に、誰か喋ってなかったか?主人公がなんとかって」

 「うーん、ウチは気づかなかったけど……でもすごくないそれ!!なんか主人公っぽいやつじゃん!!」

 目を輝かせるミヨリ。いや、目を輝かせて内股で嬉しそうにする三十代後半のガタイのいいオッサン。

 今は図書館らしきところにいる。ここには歴代のアニメやマンガの資料が保管してあって、いい暇つぶしにもなるのだ。

 ふと思い立って適当に山積みされた一番上の本を手に取り、見てみる。ハードカバーで目を引くデザインの表紙には、『バーチャル・アイディアリティ』と書いてある。

 これは俺も知っている120分程の映画だ。近未来が舞台なのだが、リアリティを超越した衝撃的なストーリーは、人間界で大ヒットしたものである。

 『リアリティ』の対義語である、『アイディアリティ』。意味は理想的、観念的、完全無欠。

 VR技術が発達して、ゲームだけではなく映画や企業、私生活にもそのリアリティが浸透した社会。専用のゴーグルを付けて人類は充実した毎日を送っていた。

 主人公の音羽咲おとわさきもその集団の中の1人。そのはずだった。

 ある日不具合でゴーグルを外した咲は、驚愕の光景を目の当たりにするのだ。ゴーグルを付けると見ることも触れることもできるはずの人間が全て、外すと消えているのだ。

 つまりその世界に咲は一人きり。

 現実とバーチャルが混ざり合う中、親友の東雲桃八しののめとうやと真相を追い求める。

 そして彼らは、とうとう自分たちが生きていたのはアイディアリティの世界だったことに気づくのだ。はたして地球上で起こっていた異変とはなんなのか。

 ラスト15分は次々と回収される伏線に鳥肌が止まらないらしい。

 「あっそれ!ウチも出たよ。新人類の役なのにモブだったのよね……」

 あっさりとネタバレしやがった。この……オッサン許さねえ。

 「やっぱりモブなんだな……ははは」

 そうして俺が力ない笑顔を作った時だった。本の隙間から何かが落ちたのだ。

 「なにこれ?メモ?」

 ミヨリが拾い上げる。

 『俺はモブをやめて主人公になることにした。その方法がやっとわかったんだ。あとからこれを見る人がもしいるなら、もし俺が主人公になった後もこれが残っているなら、ぜひ役に立ってほしい。ただ、モブをやめるということはそれなりにリスクが必要だがな……』

 俺は目を見開いた。

 「これってまさか……!アキ!すごいよこれ!」

 「まさかの俺主人公確定じゃないですか……」

 主人公になるのが夢だったが、もう既に俺はこのモブの物語の主人公のようだ。

 でないとこんなに都合よく適当に拾った本にメモが挟まってるものか。

 俺はそのメモを読み進めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ
ファンタジー
僕はクアリタ・グランフォレという250歳ほどの若いエルフだ、僕の養い子であるハーフエルフのソアンが150歳になって成人したら、彼女は突然私と一緒に家出しようと言ってきた!!さぁ、これはお疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ??かもしれない。 村で仕事に埋もれて疲れ切ったエルフが、養い子のハーフエルフの誘いにのって思い切って家出するお話です。家出をする彼の前には一体、何が待ち受けているのでしょうか。 いろいろと疲れた貴方に、いっぱい休んで癒されることは、決して悪いことではないはずなのです この作品はカクヨム、小説家になろう、pixiv、エブリスタにも投稿しています。 不定期投稿ですが、なるべく毎日投稿を目指しています。

ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~ 番外編

水竜寺葵
ファンタジー
ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~の番外編です。 本編では明かされなかった放火事件の犯人にマルセンとジャスティンが迫る。 果たして【人ならざる者】の正体とは?そしてこの平和な国にその存在は災いをもたらすのかあるいは……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...