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六語目 『神無月の巫女』
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少し訂正しよう。俺の目の前に立っていたのは、少女のように泣きじゃくる女だった。まあ腹が抉られているのは変わりないが。
「アキぃぃい……ぶえぇ。ック」
よりによってお前かよ。
「ミヨリか?」
「そう、だよぉぅう……ひっく」
とりあえず泣き止んでくれ。そう彼女に言うと、血にまみれた手で目をこするミヨリ。顔中血だらけだ。要するに、あれだな。俺は察した。
『神無月の巫女』。それが彼女がさっきまでいたはずの物語だ。
主人公は神無月紗奈と言って、代々受け継がれる由緒ある巫女の家系なのだ。そんな家の一人娘となった彼女は、自由を求め家を飛び出す。が、その先で待ち受けていたのは無差別に猟奇殺人を犯す殺人鬼という冤罪にかけられる運命だった。
紗奈が自分は犯人ではないことを証明するため、真の犯人の目的を暴くために奮闘する。そんなストーリーである。
多分ミヨリは無差別猟奇殺人に巻き込まれたキャラだ。何人か死んでいるはずなので、その中の一人として、おそらくほんの一瞬だけアニメのシーンに映ってしまったのだろう。
そう確認したら、ミヨリは嗚咽を漏らしながら首を振った。
「違う。ウチ、紗奈の前で人質として殺された、彼女の親友の役だったのぉ……主人公の側近なんて初めてだったのにぃ……」
この前の俺と同じか。どうやら最近のアニメは主人公サイドでも殺す傾向があるらしい。絶望でも感じさせたいのだろうか。
「まだお腹が痛いんだけどぉ……」
だいぶグロイことを言いやがる。確かに俺も、『さたでいないとぷらすちっく』の最期では血反吐を吐きながら、苦しく痛い思いをしたが。そこでもし傷つけられたらその痛みもここで受け継ぐのか……こんな役には是非とも抜擢されたくないものだ。ミヨリには申し訳ないが。
「とりあえず、宿に入ろうか」
ちなみに宿の外はどこまでも白い平面が広がっていて、地平線の上が青空となっている。雲は見当たらない。殺風景な景色だ。ただそこに、ドーンと大きな建物が一つ。背景に馴染んでいない古びた宿がある、そんな感じ。
宿の中はかなり充実した設備だ。食べ物も食べられるし、アニメはもちろん漫画や小説も読める。何故ここにいるのかは見当もつかないが、時間の感覚は無いみたいだし、人の世界のような時計はここには存在しないのだ。
俺は宿の中の図書室へとミヨリを連れていった。ここには一部、まさに本の森のような場所がある。木々が立ち並び、本の数々が落ちていたり、生い茂っている場所。
そしてここは俺のお気に入りのスポットでもあった。
「落ち着いて。元気出せよ」
女の子には優しくするのが男の使命らしい。どっかのアニメで主人公が言ってた。
「あ、ありがとう……」
鳥のさえずる中、彼女はベンチの上に座った。俺も隣に腰を下ろす。
確か女は悪魔だとか言ってる主人公もいた気がするが、そっちは無視しておこう。
「よく知ってるわね。こんな所。なんだか落ち着くわ」
「そりゃよかった。俺もこの世界に来て結構経つからね」
近くにいたロボットに飲み物を注文した。数秒後、手元にドリンクが現れる。
「しっかしなぁ……俺も主人公になってみたいよ」
「ウチもヒロインに憧れるわ。それにしてもやっぱり、アキのそのオーラ、なんか気になる。よくある話だけどさ、この世界自体が物語の世界だ、とか言うじゃない?自分が主人公の物語だっみたいな」
ミヨリもいつの間にかドリンクを手にしている。そして彼女の言葉の意味。それに気づき、目を見開いた。
「まさかお前……それって」
「そう。もしかするとさ、アキくん。君ってこの世界の主人公なんじゃない?」
ミヨリはそう言って優しく微笑んだ。
「アキぃぃい……ぶえぇ。ック」
よりによってお前かよ。
「ミヨリか?」
「そう、だよぉぅう……ひっく」
とりあえず泣き止んでくれ。そう彼女に言うと、血にまみれた手で目をこするミヨリ。顔中血だらけだ。要するに、あれだな。俺は察した。
『神無月の巫女』。それが彼女がさっきまでいたはずの物語だ。
主人公は神無月紗奈と言って、代々受け継がれる由緒ある巫女の家系なのだ。そんな家の一人娘となった彼女は、自由を求め家を飛び出す。が、その先で待ち受けていたのは無差別に猟奇殺人を犯す殺人鬼という冤罪にかけられる運命だった。
紗奈が自分は犯人ではないことを証明するため、真の犯人の目的を暴くために奮闘する。そんなストーリーである。
多分ミヨリは無差別猟奇殺人に巻き込まれたキャラだ。何人か死んでいるはずなので、その中の一人として、おそらくほんの一瞬だけアニメのシーンに映ってしまったのだろう。
そう確認したら、ミヨリは嗚咽を漏らしながら首を振った。
「違う。ウチ、紗奈の前で人質として殺された、彼女の親友の役だったのぉ……主人公の側近なんて初めてだったのにぃ……」
この前の俺と同じか。どうやら最近のアニメは主人公サイドでも殺す傾向があるらしい。絶望でも感じさせたいのだろうか。
「まだお腹が痛いんだけどぉ……」
だいぶグロイことを言いやがる。確かに俺も、『さたでいないとぷらすちっく』の最期では血反吐を吐きながら、苦しく痛い思いをしたが。そこでもし傷つけられたらその痛みもここで受け継ぐのか……こんな役には是非とも抜擢されたくないものだ。ミヨリには申し訳ないが。
「とりあえず、宿に入ろうか」
ちなみに宿の外はどこまでも白い平面が広がっていて、地平線の上が青空となっている。雲は見当たらない。殺風景な景色だ。ただそこに、ドーンと大きな建物が一つ。背景に馴染んでいない古びた宿がある、そんな感じ。
宿の中はかなり充実した設備だ。食べ物も食べられるし、アニメはもちろん漫画や小説も読める。何故ここにいるのかは見当もつかないが、時間の感覚は無いみたいだし、人の世界のような時計はここには存在しないのだ。
俺は宿の中の図書室へとミヨリを連れていった。ここには一部、まさに本の森のような場所がある。木々が立ち並び、本の数々が落ちていたり、生い茂っている場所。
そしてここは俺のお気に入りのスポットでもあった。
「落ち着いて。元気出せよ」
女の子には優しくするのが男の使命らしい。どっかのアニメで主人公が言ってた。
「あ、ありがとう……」
鳥のさえずる中、彼女はベンチの上に座った。俺も隣に腰を下ろす。
確か女は悪魔だとか言ってる主人公もいた気がするが、そっちは無視しておこう。
「よく知ってるわね。こんな所。なんだか落ち着くわ」
「そりゃよかった。俺もこの世界に来て結構経つからね」
近くにいたロボットに飲み物を注文した。数秒後、手元にドリンクが現れる。
「しっかしなぁ……俺も主人公になってみたいよ」
「ウチもヒロインに憧れるわ。それにしてもやっぱり、アキのそのオーラ、なんか気になる。よくある話だけどさ、この世界自体が物語の世界だ、とか言うじゃない?自分が主人公の物語だっみたいな」
ミヨリもいつの間にかドリンクを手にしている。そして彼女の言葉の意味。それに気づき、目を見開いた。
「まさかお前……それって」
「そう。もしかするとさ、アキくん。君ってこの世界の主人公なんじゃない?」
ミヨリはそう言って優しく微笑んだ。
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