主人公だけどモブです!

猫蕎麦

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五語目 『幽霊という名の秘密』

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 5月13日。それは五月晴れとは程遠い、冷たい雨が降りしきる日だった。古ぼけたバス停で坂脇湧さかわきゆうはバスを待っていた。

 「あと……3ヶ月なのか」

 軋む音を立てながらバスが到着した。雨水に濡れた傘を支えに、彼は入口を登った。近くの空いている座席に腰を下ろす。

 その隣に座っているモブが俺だ。こんにちは。

 あれ、なんか違う話と間違えたか?とか思った読者さん。安心してくれ。これは正真正銘の俺視点だからな。決して坂脇とかいう主人公のお話が進むことは無い。ははは……はは……。

 今回のお話は『幽霊という名の秘密』という。

 冒頭からいきなり難病により余命3ヶ月と宣告された主人公が、家に帰るとなぜか見た目は美少女の幽霊が見えるようになっていたというものだ。そこで2人は残り3ヶ月を共に暮らしていくわけだが、その幽霊の彼女の死が、自分の病気と関係していて……という、少しシリアス展開も含むラブコメディである。

 あれからミヨリはどうしただろうか。バスに揺られながら俺は考える。情報交換の話のあと、彼女の次の話はミステリーで、またモブの女キャラをやると聞いていた。俺もバスの乗客だし、多分終わる時間はさほど変わらないだろう。

 これが終わればまた彼女に会えるのか……。

 この世界で他の人(人と言っていいのかわからないが、とりあえず人と呼ぶ)と話すことは稀だし、友達のような関係は初めてだ。ましてやお互いの名前があるなんて……。

 バスが止まって主人公が降りていく。張り詰めた表情がこれから美少女幽霊との生活で明るくなっていくのかと思うと、若干ジェラシーもある。

 あぁ、景色が霞んでいく。

 この前の『紅のゾンビ』の時みたいに、またこのバスと同じ乗客が使われることがないよう祈る。

 そして視界が真っ白になり、目を開けるとーー

 目の前に血だらけの女が立っていた。
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