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三語目 『どきどきスリップますたあ』
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「あの……その、君、ウチに会ったことあるよね?」
そう話しかけられたのは、『さたでいないとぷらすちっく』での役目を終え、帰還した直後だった。俺が例の休憩所みたいな宿で自分の体をみまわしていた時だ。
声のした方を見ると、何とまあ可愛い美少女である。
ふんわりとした黒髪。透けるように白い肌。ふっくらした指。綺麗な色の瞳や整った顔立ちなど。ただ、どこか平凡だ。
経験則からすると、おそらくこれはよく噂を耳にする京アニとかいうとこのアニメだろう。
あ、そういえば俺も今は美少女だった。そう思い出しにやける。いやそういうことじゃねぇ。
「ど、どういうこと?そんな事言っても、私たち、自分の体とか持たないんだから分かんねえじゃねーか」
あ、ここは俺の方が良かったかな?不自然な口調になった気がして、言ったあとに後悔する。
俺らは実際自分固有の体は持たない。なぜか意識だけは持っているし、記憶も残るのだが、休憩タイムでの体の見た目はその直前までやっていたアニメのモブキャラだし、休憩が終わればまたすぐ次のアニメの体になってしまう。
つまり自分以外の意識を見分ける術は無いはずなのだ。
「でも、君の体からは周りと違ってオーラが見えるの。その、ウチは……初めてアニメに出た時に君と共演した……あの、えっと……」
何故か恥ずかしそうにモジモジしている。俺からオーラが見えるだと?自分の体を見てみたが、特に変わったところはない。
「アニメって?なんのアニメだ」
俺は尋ねた。なぜかむこうは顔を伏せて赤面してしまった。だが、微かに聞き取れる小声でこう言ってくれた。
「ど……どきどき……スリップますたあ……」
「あ……」
ぎこちない笑顔のまま停止した。
俺もあまり思い出したくなかったやつだ。それはもうぬるぬる動くスケベな王道エロアニメだ。一応人間界では深夜枠で地上波放送されたらしいが、なぜかある日突然ヒーローに選ばれた主人公が、度がつくほどのラッキースケベをしまくって姿の見えない敵へのエネルギーを貯めるとかなんとか……とにかく馬鹿な設定だ。
そこで主人公に適当にラッキースケベされる役として、俺は見事ネタ枠の男に選ばれたのだ。思い出すだけでも身の毛のよだつあの唇。ああ、寒気がする。
今目の前にいる彼女はそこで綺麗に主人公と上下逆に重ね合っていた。あれは本当に残酷なアニメだった。
俺もよく覚えている。彼女とはそのアニメのあとたまたま鉢合わせしたため、少し世間話をしたのだ。
なんとびっくり。彼女はただの純粋な女の子だったが、その時生み出されて初のモブキャラだったらしいのだ。モブの世界も人口が減っているらしい。いや、モブが足りなくなるほどそれだけアニメ作品が増えているということか。
俺が『彼女』と言っている通り、彼女は今の見た目だけでなく中身も一応女である。それにちょっと話した印象だと、確かツンデレっぽかったはずだ。
「ご、ごめんね。辛いこと思い出させちゃって……」
こうか?こう言うのが正しいのか?俺は苦笑いのまま声をかける。すると、ブンブンと首を振った。
「べ、別に。ウチそーゆうの気にしないからっ。その……前も何回か君に会ってるし……」
「え?じゃあなんで今更声かけてきてくれたの?」
すると彼女は自分の体を眺めこう言った。
「いや、ちょっと、自分がマシな見た目だったから声かけてみよっかなぁって」
なるほど脈アリか。
まず真っ先にそう思った自分が俺は嫌いだ。
そう話しかけられたのは、『さたでいないとぷらすちっく』での役目を終え、帰還した直後だった。俺が例の休憩所みたいな宿で自分の体をみまわしていた時だ。
声のした方を見ると、何とまあ可愛い美少女である。
ふんわりとした黒髪。透けるように白い肌。ふっくらした指。綺麗な色の瞳や整った顔立ちなど。ただ、どこか平凡だ。
経験則からすると、おそらくこれはよく噂を耳にする京アニとかいうとこのアニメだろう。
あ、そういえば俺も今は美少女だった。そう思い出しにやける。いやそういうことじゃねぇ。
「ど、どういうこと?そんな事言っても、私たち、自分の体とか持たないんだから分かんねえじゃねーか」
あ、ここは俺の方が良かったかな?不自然な口調になった気がして、言ったあとに後悔する。
俺らは実際自分固有の体は持たない。なぜか意識だけは持っているし、記憶も残るのだが、休憩タイムでの体の見た目はその直前までやっていたアニメのモブキャラだし、休憩が終わればまたすぐ次のアニメの体になってしまう。
つまり自分以外の意識を見分ける術は無いはずなのだ。
「でも、君の体からは周りと違ってオーラが見えるの。その、ウチは……初めてアニメに出た時に君と共演した……あの、えっと……」
何故か恥ずかしそうにモジモジしている。俺からオーラが見えるだと?自分の体を見てみたが、特に変わったところはない。
「アニメって?なんのアニメだ」
俺は尋ねた。なぜかむこうは顔を伏せて赤面してしまった。だが、微かに聞き取れる小声でこう言ってくれた。
「ど……どきどき……スリップますたあ……」
「あ……」
ぎこちない笑顔のまま停止した。
俺もあまり思い出したくなかったやつだ。それはもうぬるぬる動くスケベな王道エロアニメだ。一応人間界では深夜枠で地上波放送されたらしいが、なぜかある日突然ヒーローに選ばれた主人公が、度がつくほどのラッキースケベをしまくって姿の見えない敵へのエネルギーを貯めるとかなんとか……とにかく馬鹿な設定だ。
そこで主人公に適当にラッキースケベされる役として、俺は見事ネタ枠の男に選ばれたのだ。思い出すだけでも身の毛のよだつあの唇。ああ、寒気がする。
今目の前にいる彼女はそこで綺麗に主人公と上下逆に重ね合っていた。あれは本当に残酷なアニメだった。
俺もよく覚えている。彼女とはそのアニメのあとたまたま鉢合わせしたため、少し世間話をしたのだ。
なんとびっくり。彼女はただの純粋な女の子だったが、その時生み出されて初のモブキャラだったらしいのだ。モブの世界も人口が減っているらしい。いや、モブが足りなくなるほどそれだけアニメ作品が増えているということか。
俺が『彼女』と言っている通り、彼女は今の見た目だけでなく中身も一応女である。それにちょっと話した印象だと、確かツンデレっぽかったはずだ。
「ご、ごめんね。辛いこと思い出させちゃって……」
こうか?こう言うのが正しいのか?俺は苦笑いのまま声をかける。すると、ブンブンと首を振った。
「べ、別に。ウチそーゆうの気にしないからっ。その……前も何回か君に会ってるし……」
「え?じゃあなんで今更声かけてきてくれたの?」
すると彼女は自分の体を眺めこう言った。
「いや、ちょっと、自分がマシな見た目だったから声かけてみよっかなぁって」
なるほど脈アリか。
まず真っ先にそう思った自分が俺は嫌いだ。
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