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最終語目『Personality Log』
しおりを挟む目を開けるとそこは、雪国だった。
え?なんで?
辺りを見回せば、横でミヨリが倒れている。雪の降る田園風景がどこまでも続いていた。唸って起き上がるミヨリに目を戻すと、違和感しかない。癖のある赤髪ショートボブに黄色カチューシャ、そしてセーラー服といった出で立ちだ。
「キャラクター変わってないかお前?」
「ん、え?……ここどこ?てかアキもキャラクター変わってるよ。さっきのオカマよりイケメンじゃん」
そう言われて、悪い気はしない。全くもう俺って単純なんだから。いやいや。
首を振りながら自分の身体に目を向けると、なるほど確かに緑ブレザーを着た制服姿のようだ。先程までとは違う。
でもどういうことだろう。ここは次のモブとしての物語の中ってことか?それとももう役目を終えたけどその物語の記憶を消されたとか?
それにしても何故雪国?
「惜しいね。君たちは次の物語の主人公とヒロインに選ばれたんだよ。念願のね」
どこからともなく声がして、ついビクッとする。
「あ、雪国は意味無いよ。なんか、こういう書き出しにしたくなっただけ」
書き出し?そう聞いて俺には思い当たる節があった。まさかとは思うが……
「その通り。自己紹介するかな。俺はこの小説の作者、猫蕎麦だよ」
そう言って男は目の前に立った。いや、今この瞬間出現したと言う方が正しい。
外見は若い平凡な男だ。眉毛は若干濃い。黒髪で、普通にいそうな日本人。
「いやいや意味わからん。メタ過ぎるだろ」
「確かにね。でも実際、2人とも俺が作ったキャラクターだ。もともとモブに興味があってさ、こいつらセリフないのにちゃんと人の形で存在してるんだよなって。何を考えてるか考えたかったんだよね」
割と楽しそうに猫蕎麦は話す。ミヨリは髪についた雪を振り払いながら、しかめっ面で尋ねた。
「それってウチらはあなたが書いた通りに考えて、動いてただけってこと?」
「うーん。まぁ、そうなのかな。俺の中ではもうアキとミヨリは生きてるからよくわからん」
「わからんって……ほんとにこれが小説ならそうとしか……」
俺はそう言ってため息をつく。猫蕎麦は苦笑いで続ける。
「始めはそうだけどね。でもさ、こういうキャラクターがアキだ!ミヨリだ!って話に登場させて、だんだん話が進むうちに、思考回路が定まってくる。つまりそれって、君たちに命が宿ったってことだと思うんだ俺は」
ずいぶん臭いセリフを吐くものだ。でも確かに、俺は今アキとして話していて、考えていて、違和感はない。違和を感じないのは当たり前なのかもしれないが、デカルトさんに言わせれば、『我思う故に我在り』なのかもしれない。
「どう?ここまで聞いて、自分は生きてると思う?」
興味津々な目で猫蕎麦は聞いてきた。その頭に雪が積もっててだいぶ間抜けだ。
「そうだな……生きてると思いたいな、俺は」
「アキなんか猫さんに口調似てない?」
あれ?ほんと?
不安になる俺をよそに、ミヨリは話し続ける。
「とりあえずあなたが作者って言うなら、この先も夢を叶えてくれるんでしょ?なんたってここではあなたが神様なんだから」
「そりゃそうだ。君たち2人を主人公にしてこの話は終わりにする予定なんだから」
「予定?その後の話は?」
「もう書いてあるんだ。それにね、この話はファンタジーってジャンルでアルファポリスってアプリに登録してあるんだけど、ファンタジー枠だと異世界物語には勝てっこないのさ。ましてやこんな意味わからんモブ物語じゃ、人気も出ないんだよね」
だったら書くなよ……生み出されるこっちがいい迷惑だ。口には出さず心にしまっているが、実は全部丸聞こえな気もする。なんたって作者だし。
そう思ってる俺とは違い、ミヨリは別のところに突っ込んだ。
「書いてある?そのお話が?まさかだけど、それもそのアプリに登録してあるわけ?」
「あはは……」
察した。
「つまりそういうことか、俺らは宣伝のために創り出されたと?」
猫蕎麦は必死に首を振る。
「いや違うんだ!!実際にモブについて書いてみたかったのは事実だし、確かに今まで君たちがモブ役で出た物語は俺の作品なんだけど、構想段階のものもあって……」
「……もう書き始めてるものも何個かあるのね?」
「うっ」
なんだろう。ミヨリさん怖い。
「とにかく!君たちが主人公になるのは『Personality Log』って物語だ!」
そう言って猫蕎麦は説明を始めた。いつの間にか雪は止んでいた。
話によると、こういうあらすじだ。
主人公は仲山秋。平凡な高校生。姉と二人暮しの彼は、高校生活初日に人格障害を持つことが判明する。しかもトラウマとなる夢を見たりして、その人格がどうやら父親の11年前の死に関係してるらしい。
ヒロインは柊木美頼。小学校の頃から人見知りで、中学の時には事件がありそれ以来コミュ障になってしまった、気の強い女の子。よくある幼馴染設定だ。
そしてどんどん彼らの周りで警察沙汰の事件が起こり出すが、全部何者かの意図が裏に見え隠れしていて……といったものだ。結果としては父親の死の真相を暴くのが目的らしい。
猫蕎麦は言う。
「今これを読んでる人!伏線もいっぱいだし、結構作り込んでるからぜひ見てね!」
「結局そうなんのかよ!!!!」
「てかもう、名前決めた時からこういう流れだったのね……」
ミヨリは悲しそうにしている。俺もだ。ただ、ワクワクもしている。ようやく念願の主人公ができるのだから。俺は一つ、聞きたいことがあったので、聞くことにした。
「主人公になったら、ここでの記憶は消えるのか?」
猫蕎麦は首をひねる。
「どうだろうね。話の進行する限りは、ここでの記憶に基づく話は全くでてこないけど、主人公としてはもしかすると動きながら俺ならこうするのにとか思ってるかもね。ただ、簡単に言えば異世界転生みたいなものだから、一からパーソナリティログの世界を楽しみたいのであれば、記憶を消すことをすすめるよ。だって、ミヨリちゃんとも向こうで同じような付き合いになるわけだし……デメリットはそんなにないと思うよ?」
「なるほど……」
ここでの経験は貴重だと思う。きっと一生モブの世界になんて来ないだろうし、そんな世界があることも知ることはないと思う。あ、実際はないんだっけ、こんな世界。
──ここは空想の世界で本当にいいんだっけ?
「ウチは……」
ミヨリの声で我に返った。声のする方を振り向く。ついに背景すらなくなった。真っ白な空間に、ミヨリが立っている。
「ウチはアキに任せるよ。アキに助けられた記憶は失いたくないけど、でも、向こうでウチだけ記憶があるってのも嫌だし……」
一息置いて、それに……と彼女は続ける。
「記憶があっても向こうの世界のアキと自由に話せるとは限らないもの」
なにか、心に込み上げてくるものがある。記憶を消すというのは、ここでここにいるミヨリと話すのが最期になるということだ。それは、俺自身の"死"も意味する。
案外、血反吐を吐いて倒れた時よりマシかもな。『さたでいないとぷらすちっく』で、雛野美夕を演じた時を思い出す。あんな思いはもうしないのだろうか。
「心残りがあるのか?」
猫蕎麦が優しく聞いてくる。こいつ、意外と良いやつかもしれない。
「意外とは余計だ」
「やっぱ全部聞こえてんじゃねぇか!!!なんだよ!!!俺のちょっとの信用返せよ!!!」
予期せぬ返答に声を荒げると、彼は笑い出した。
「ははは。自分のキャラクターと喋るってなんか、不思議な気分だわ。外から見ると陰キャみたいだけどまあ、悪くない」
そう言うと今度は、真面目な顔をする。
「時間切れだ。いつまでも話してるわけにはいかない。なんなら、ここでまたモブとして生活し続けても良いよ?アキとミヨリがそうしたいってんなら、俺は描き続けるよ。君たちを」
また臭いこと言いやがって……。おっと言動、いや、思考には気をつけないと。丸聞こえだ。
でも今のを聞いて、迷いが消えた。
「……決めたよ。ミヨリ、今までありがとうな」
ミヨリはそのセリフを聞いて、安堵と落胆が入り混じった、複雑な顔をする。
「じゃあ……」
「あぁ。やっと夢が叶うんだ。俺はやっぱりちゃんと主人公になるよ。記憶を消して、一からな」
すると、ミヨリは一瞬の間の後に、にっこり微笑んで抱きついてきて、
「やっぱりそういうとこよね。ウチはもう後悔しないわ。アキ、大好き」
突然のプロポーズに、目を丸くする。猫蕎麦を横目で見ると、俺じゃない、とでも言うように、でも彼はニヤけながら首を振った。
ミヨリを抱きしめてどれくらい時間が経っただろう。今までのことを思い起こしながら、目を開ける。
「じゃあいいか?アキ。ミヨリも」
「あぁ」
「ウチも大丈夫」
驚くほど冷静に。
そしてそれは、一瞬で、終わった。
彼らの痕跡は跡も形もなく、その世界から消え去った。
──アキとミヨリは最後まで手を握りあっていた。俺もこういう相手が欲しいものだ。
彼らはこれから、"秋"と"美頼"として人格障害の謎に立ち向かっていくのだろう。時にはゾンビと戦い、時には時間旅行をして、時には人魚にあったり、雪山で遭難したり、ポルターガイストを経験したり……。
あ、どうもこんにちは。作者です。猫蕎麦です。面白そうな宣伝してみました。
この話が書けなくなるのは、少し寂しい気もする。そんなに続いてないし、人気もないのは確かだが、俺なりに結構愛着はあった。
物語を書く時よりあらすじを考える時の方が楽しい。そんな感じだ。
最終的にはこの物語の、"主人公だけどモブ"な彼はいなくなってしまったが、この話は続くかもしれない。
というのも、実際に俺が記憶を操作できるわけじゃないし、彼らがこのまま記憶が無いまま『Personality Log』の主人公とヒロインになったと記述したところで、実際どうなのかは神のみぞ知るところだろう。
──果たして俺は本当に神なのだろうか?
もしかしたら、これを書いてる俺と、これを読んでる読者の方とでは、住んでる世界も違うかもしれない。俺は物語の中に出てくる空想の作者である可能性もありうる。
みんなが生きるこの世界は、本当に一つしか存在しないとは限らない。
ここまで読んでくれた人、本当にありがとう。
本当に、人ってすごい力を持ってると思うんだ。アキの言う通りメタ過ぎるけど。指一本で世界を創ることも出来るし、消すことも出来る。人によって好みは変わるし、それなのに周りがその人に合わせようと努力することもある。
──物語の展開を決めるのは読者なのかもしれないね。
(おわり)
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完結したと聞いて一気読みした人間がここに←
ってことでひとまずの完結おめでとう!!
モブ視点って考えたことなかったから新鮮だった。確かに1分1秒でもアニメの中に、一瞬でも存在したらモブって扱いになるわけで、モブにはモブなりの主人公になりたい気持ちだったり、主人公に対して反発心あったり色々するわけだ。なるほど、って自己完結的に納得した((何をw純粋に面白かったです。
あと、パーソナリティログは更新される度に時間空いたら読んでるよ!
ほんと、猫蕎麦くんが書く話は好きだなぁと思う。正直、アルファポリスで書いてる他の方の作品とか全然読めていないから具体的に他よりもここが!みたいな比較は出来ないんだけどw
でも受験期シーズンなのに両立ってほんとすごいと思うわ。私こんなに文章能力ないからいつか投稿したいけど不安しかないやw
続編とかで、優衣さん編を書いて欲しい気もする。やっぱり優衣さんが好きらしい笑。
とりあえずお疲れ様でした!
パーソナリティログの展開、これからも楽しみにしてるね!
普段お気に入りとか、コメントとかあまりしないタイプなんだけど今回はコメント書かせていただきましたっ。
一気読みありがとう!w
納得してくれてよかったよ…ツッコミどころ満載な小説は嫌だからね。。
とてもありがたい言葉です。励みになります。
両立できてるかはわからないけど()
インプット割と大事だと思うよ!好きな小説とか作者さん何人分か読んで、それらの雰囲気をまとめて言葉を練るというか。あとは勇気出して書いてみることだよね。アウトプットも慣らすために大事だと思う!(素人より)
優衣さんはまあ、読んでてもわかるけどLog.0から登場してる重要キャラだから、まだ出番はあると思うよ。多分。
番外編みたいなのはどんどん出すつもりだけど!
こちらこそこれからもよろしくお願いします。コメントわざわざありがとうございました!
感想、ありがとうございます!!
大先輩に一年前から…飽きずに読んでいただいて本当に感謝です!
表現したかったことがかなり伝わっているようで、とにかく跳び上がって喜んでおります。心の中で。
そうですね。彼らが何か動きを見せれば、多分僕の頭にその場面が降ってくると思うので、そうなったら書くかもです!()
アキとミヨリの記憶が残ってることを祈ります笑
パーソナリティログでは人格が物語の鍵となっているんですが、南柱さんのおっしゃる通り、主人公とか人格交代するしもうどう動くかわかんなくなりますね。
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