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01:『出発点、そして終着点となる時刻』
:01 30分前、チーズケーキ
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「遅い!!!」
「おかしいって……まだ50分だよ?」
「私の予想では48分に来ることになってたのよ」
「理不尽の塊だ……」
待ち合わせ場所に10分早く着いたのに、腹を立てられてはどうしようもない。ほんとどうしろというんだ。
僕がしかめっ面をしていると、巡はわざとらしく腕時計を見つめる。
「うーん……まだ時間があるわね。あの新しいカフェに行ってみましょうよ!」
「そっちがメインか」
彼女はバチコーンと盛大なウインクをかましながら、僕の手を引っ張った。
この広い街には一本の塔、通称『タワー』しか娯楽施設がない。街の中央に建つ白塗りの塔は、ずっしり太くてとにかく高い。人工の空を映すパネル、その一番高い所を支えているのがこの塔となる。
大抵の遊びは家から仮想空間にログインすれば事足りるのだが、外に出たい気分だったり、食べ物を食べたかったり、そういった物好きはここに集まる。
巡が言っているのは、タワーの1階に出来たばかりの喫茶店のことで、なんでも昔食べられていた甘いお菓子と共に、コーヒーなどを現実で味わえるらしい。
ただ問題なのが、すっごく高い。
「心配しないで。私が少しぐらい分けてあげるわ」
「釈然としないなぁ……」
一気に貧しい気分だ。でも仕方ない。コーヒーが1杯15000円。紅茶はその倍だ。それに比べ僕のひと月の小遣いは500円。とても買える代物ではない。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
人間と区別がつかないが、そう語りかけてくる店員はアンドロイドのマークがついている。
「えーと……紅茶とチーズケーキ風スティックください」
いつもは優柔不断な巡が迷わず一瞬で決めやがった。しかも一番高いやつ。絶対ここに来るために早めに来たに違いない。
僕はショーケースに映された美味しそうなホログラムを眺めながら、テーブル席につく。後から巡が、軽い足取りで向かってきた。
周りの椅子は大体空いている。この平日の放課後に、タワーに来て食事するような金持ちはこの社長令嬢みたいなボンボンだけだろう。
……チーズケーキ。VRで食べたことはあるが、やはりその電子的な匂いが生理的に無理だった。現実では普段、配給される調整食しか食べられないので、正直お金持ちのことは羨ましい。
そんなことを考えていると、目の前に注文した品物が現れる。テーブルの横から出てくる仕組みだ。そしてそこには二人分あった。
「え?」
「私の奢りよ。感謝しなさい?」
「あ、え、ありがとう……」
こんな高いものを……。やっぱりいただけませんと返そうとしたら怒られたので、結局スティックを頬張った。なるほど、チーズケーキはこんな味なのか。割と美味しい。
「デザート風調整食の甘味を少し抜いて、味噌風調整食の濃厚な感じを少し加えたあと、塩分はだいぶ控えた感じだな」
この人生初体験の味を、言葉で表そうと頑張ってみた。
「……あなた絶望的に食レポ下手くそね」
失敗した。
「昨日招待券が手に入ったからさ、結構急だったんだよねー。それなのによく来てくれたよ」
「いや……どうせ放課後なんて暇だし……僕に友達がいないの1番知ってるのは巡だろ?」
「あはー、誘いやすいったらありゃしないよね」
言わせておけば……。そう思いつつ、僕は巡に尋ねる。
「でも他に誘う人いたんじゃないの」
「そんなの、彼氏以外に誰誘うのって話じゃん?」
そういうものか。
しばらく喫茶店でのんびりしていると、放送が流れる。
『本日は御来場いただき、誠にありがとうございます。本塔中央エレベーターは、終日最上階のみの運行となります。ご了承ください』
時計を見れば、ちょうど16:30を指していた。
「時間ね。じゃ行こっか」
巡はハンカチで口元を拭いながら立ち上がる。エレベーターの前には既に、長い行列ができていた。
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