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91話「魔獣たち」

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 ブラッディガーゴイル多数、様々な武器を持ったリビングデッド多数、ストーンゴーレム多数。そしてペイルホースのブラウリッターと、雑種のポチ。それらがひしめき合う乱戦の只中へ、ミズキもまた、身を投じた。

「はぁぁぁぁぁ……!」
 ソードオブエビル。普段使っているライブレイドとは、若干使用感が違うが。それにも少しは慣れてきた。距離感、重さによる振りの速度……色々な感触が、手に馴染みつつある。

「ストーンゴーレムは、やっぱり無理だけど……」
 エミナのドリルブラストのようにストーンゴーレムは相手に出来ないものの、ブラッディガーゴイルとリビングデッドなら、深く斬り込めば一撃で倒せる。ミズキはソードオブエビルの感触を確かめながら、一体、また一体と、敵を倒していく。

「あ……そっか……」
 僕はソードオブエビルの試し斬りを兼ねながら戦っているんだ。ミズキはふと気づいた。先ほどまでは、感触を確かめながらなど、到底無理だったのだ。馬車を守るため、そして、自分が生き残るために、切迫した状況の中で、必死に足掻くように戦っていた。
 しかし、今は違う。前衛が三人になるだけでも敵のターゲットは分散されるし、殲滅力も格段に速くなる。さっきまでは防戦一方……ということにすら思えないくらいの劣勢だったが、ドドの出現によって戦力は格段に増え、場合によっては、殲滅力が、モンスターの増える速度を上回るくらいになってきた。
 これならば、前へ出れる人は全員前へ出れば、攻めに転じられる。

「ヒィィィィィィ……」
「ぐるるるるるる……」
 ブラウリッターの青い炎が敵を焼き尽くし、ポチの鋭い爪と牙が容赦なくモンスター達を襲う。少し前までは、圧倒的な攻勢に出ていたモンスター達が、今や徐々に押され始めている。

「紅蓮の大火炎よ、全てを覆い、燃やし尽くせ……エクスプロージョン!」
「聖なる雷土いかづちの力を以て、よこしまなる者へ裁きを! セイントボルト!」
 前衛がいる事によってブリーツは、エクスプロージョンの高火力で効果的にストーンゴーレムを倒すことに専念でき、ミーナもまた、セイントボルトで馬車に迫ろうとするモンスターを余裕をもって処理することが出来た。
 それでもまだ、多勢に無勢の状態で、余裕は無い状態だ。優勢になり始めたとはいえ、少しでも気を抜けば、あっという間に逆転されてしまうだろう。

「ポチ! ブラウリッター! それにクー! みんな分断されないように動くんだよ!」
 ドドが後衛のポジションから叫び、使い魔達に指示を出す。

「そうだよね……」
 ミズキにも、その叫び声は聞こえている。また、それはミズキにとっても参考になる情報だった。多数のモンスターが入り乱れて襲ってくる近接戦においては、孤立することが命取りになるだろう。フレキシブルに動きながらも、分断されないように固まって行動するのがベストだ。

「……うん?」
 ふと、ミズキは思った。さっきドドが言った名前に、クーが入っていた。それにしては姿が見えないが……よくよく考えたら、アバオアクーというモンスターらしいクーは元々透明なので、姿が見えないのは当たり前だった。

「いや、でも……」
 ブラウリッターやポチと一緒に名前を呼んだということは、前衛として戦闘に参加している。つまり、この近くに居るということだが……。
 ソードオブエビルで周りのモンスターを殲滅しながら、ミズキは、その周囲を注意深く観察した。

「ああ……」
 クーを見つけた……という言い方でよいのだろうか。正確には、空中を不自然に舞う、一本の縄を見つけたと言った方がいいのかもしれない。
 その縄は、空中をふらふらと漂い、時折、俊敏にしなった。そして、ぐるぐるとブラッディガーゴイルの足に巻き付くと、その足を人巻きして急にピンと張った。
 縄を操る力は、ブラッディガーゴイルから遠ざかるように働き、ブラッディガーゴイルの足は当然、すくわれた。結果、ブラッディガーゴイルはバランスを崩し、地面に転がることとなった。

 ――ドサッ!

「なるほど……」
 地面に横たわるブラッディガーゴイルを見て、ミズキはなるほどと首を縦に振った。

 良く見ると、クーは次々とモンスターの足をすくっている。ブラッディガーゴイルだけでなく、リビングデッドも、時折、不意に倒れている。
 しかし、それだけではない。ストーンゴーレムにおいても縄の影響はあるようで今まで気付かなかったがストーンゴーレムも大きな音をたてて倒れる時がある。

「凄いな……」
 現状、ブリーツのエクスプロージョンしか対抗策が無いように見えたが、個体数の少ないストーンゴーレムにとっては、それも中々の影響力があるみたいだ。
 ストーンゴーレムが、もう一つの召喚モンスターであるブラッディガーゴイルよりも目に見えて少ないのは、そのパワーと耐久力が強力だからであろう。召喚モンスターは、基本的に強ければ強いほど召喚に時間や魔力がかかるという法則はミズキも知っている。
 ストーンゴーレムの場合、動きは鈍重ながら、当たれば強力なパンチと頑強な肉体を持っている強力な召喚モンスターだ。その分、魔力消費が高く、召喚時間が遅いことには間違いないだろうと、ミズキは推測した。

「……見えた!」
 正面、モンスターの切れ目から、黒く揺らめく炎のような何かが見え隠れした。
「何が……あるんだ……!」

 ――バサッ! バサッ! バサッ!
 ソードオブエビルで立て続けに三匹ほどのモンスターを倒すことは、トリートである程度応急処置をし、たくさんの仲間に戦力が分担され、また、補助されているミズキにとっては容易いことだった。

「あれは……あれがマッドサモナー……?」
 ミズキは、モンスターの陰に隠れている何かを見るなり、直感した。あれが二つの村を襲って二つの世界を脅かし、震撼させた調本人、マッドサモナーなのではないかと。

「……はぁっ!」
 迫りくるモンスターを相手にしながらも、ミズキは更にマッドサモナーを観察する。モンスターの陰から時折見える顔は、若くもないが、老婆とも言えない程度に年齢を感じさせる。体は漆黒のローブに包まれ、青、黒、橙……様々な色のアクセサリーが手、首、そしてローブに垂れ下がっている。
 マッドサモナーと思しき存在の周りに浮かんでいる、黒く揺らめくオーラのようなものは、マッドサモナーと思しき存在が、いかに大量の魔力を消費しているかを物語っている。目に見えるほどのエネルギーが、あのマッドサモナーと思しき存在を中心に渦巻いているのだ。
 少し考えれば当然だ。これだけのモンスターを、ウィズグリフの補助があったとしても、召喚しているのだ。取り扱われる魔力の量も、莫大だろう。

「ちょっと押されているようですけれど……」
 ミズキに聞こえた。少し甲高いが、見た目の年齢に相応の声だ。そして、その声の主が、ローブの内側から、ゆっくりと一つの小瓶を取り出すところも、ミズキの目が捉えていた。
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