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78話「血みどろのミズキ」

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 ミーナのファイアーボールと、エミナのセイントボルトが草原に飛び交う。
「石よ、土よ、砂よ、しなねる蔦となりてくびきを与えん……ロックテンタクル!」
 エミナの魔法は強力だ。まともに打ち合いしたら、すぐにこちらが追い詰められてしまう。ミーナはロックテンタクルで足止めをすることにした。

「風よ、その身を鋭き螺旋の形に変え、万物を貫く刃となれ……ドリルブラスト!」
 自らの足に絡みつく、硬い岩の塊を、エミナはドリルブラストの詠唱をすぐに完了させ、顕現したドリルブラストによって、すぐに打ち砕いた。

「なっ……早い……!」
 エミナの動きは単純だ。しかし、単純なだけに、力の差がダイレクトに戦いに影響する。単純な魔法詠唱の速さ、魔法威力の高さ等、全体的な魔法の強力さは、エミナが圧倒的に強い。

「う……こ、こんな……!」
 間髪入れずに接近するエミナを見て、ミーナも距離を取ろうと後ろへと下がろうとした。しかし、エミナは猛然とミーナの方へとブラストドリルを掲げて突進してくる。ミーナを捉えるのは時間の問題だった。





「はぁ……はぁ……」
 痛みで脂汗がとまらない。意識も気を抜くと切れてしまいそうだ。しかし、そんな不快感を全て無視して集中しなくてはいけない。
「ふぅー……」
 これで決めなければ、ミズキは意識を失い、倒れてしまうだろう。勝負は一回だけだ。失敗は許されない。
「で、出来るのかな、僕に……」

 ミズキは決して本番に強い方ではないし、どちらかといえば、プレッシャーには凄く弱い方だと自負している。これで失敗したらミーナもただでは済まないし、エミナも救えないかもしれない。そして、ミズキ自身も確実に死んでしまうだろう。エミナと一対一になったミーナはミズキを回復する暇は無いだろうし、もし、無理してでも回復しようとしたところで、すぐにエミナに仕留められてしまうに違いない。

「ミーナ……もし、僕が失敗したら、逃げてよ……」
 ミーナとエミナの激しい戦いをじっくりと観察しながら、ミズキはエミナの方へと右手をかざした。

「穢れしその身に解呪のげんを……ディスペルカース!」
 ミズキの右手に光が発生する。その光は見る見る大きくなり――光の筋となって、エミナの方へと伸びていく。

 ――オォォォォン……。

 エミナのブラストドリルがミーナの首を貫く直前、ディスペルカースの光の筋が、エミナの胸を貫いた。

「うわっ!」
 ディスペルカースの影響なのか、エミナのブラストドリルの軌道が僅かに逸れ、ミーナの首筋をかすめる。近くに居たミーナは、不意にディスペルカースの輝きが現れたことに驚いて、思わず声を上げた。

「……」
 光が収まると、あれだけ激しかったエミナの動きはぴたりと止まっていた。首はがっくりと垂れ下がり、手の方もだらりと垂れ下がっている。

「あっ……!」
 ミーナが慌ててエミナに駆け寄った。エミナの体がぐらりと傾き、地面に倒れそうだったからだ。

 ミーナは倒れそうなエミナの体を受け止めると、そっと地面に寝かせてエミナの顔を覗いた。意識は戻っていないようだが、こういう状態になったということは、何かしらの効果があったということだろう。
「エミナ……?」
 ミーナがエミナの胸に、そっと耳を当てる――心臓の鼓動は聞こえる。命に別状は無いようだ。
「取り敢えずは大丈夫そう……なのかぴょん? ミズキは……」
 ミーナがミズキの方へと視線を向ける。

「うぅっ……ゲホッゲホッ!」
「ミズキ!」
 エミナが静かになって一安心だと思ったミーナだったが、ミズキの方を見て、再び緊張が走った。

 ミズキは地面に横たわっていて、激しく吐血している。顔を見ても、とても苦しそうだ。ミズキの周りの草は、ミズキの血によって緑から赤に染まり、よく見ると、その下には血だまりがある。
 ミズキの押さえている腹部からは血が絶え間なく流れ出し、バトルドレスも真っ赤に染まっている。

「大変ぴょん! トリートを……ぐっ!?」
 突然、ミーナが首に痛みを感じた。突然エミナが手を伸ばして、ミーナの喉を突いたからだ。

「うっ……コホッコホッ!」
 ミーナはたまらず後ろに倒れ、手と尻を地面に付けた。
「エ……エミナ!?」
 エミナはすっくと立って、ミーナを見下ろす。

「……はっ!? ミーナちゃん……」
 エミナは咳込むミーナを見て、心配そうな表情をした。
「ああ……ご、ごめん、なんか、喉に当たっちゃったみたい」
 エミナが自分の右手を見ながらオロオロとする。

「なんか、記憶が曖昧で……それも、ついさっきまで何やってたのか思い出せなくて……気を失ってたのかな? ね、ミーナちゃん……」
「エ、エミナ、話は後ぴょん! 今はミズキを! ミズキが大変なんだぴょん!」
「え?」
 エミナがミーナの指差す先を見る。
「ミ……ミズキちゃん!」
 血みどろのミズキを見て、エミナは頭の中が真っ白になった。気を失いそうなくらいの衝撃を受けたが、体は勝手にミズキの方へと走り出していた。

「ミズキちゃん……! 傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
 ミズキに近寄るやいなや、エミナはトリートをミズキの腹部に当てた。
「ミズキちゃん……こんな傷を……でもミズキちゃんなら……」
 これほどに酷い傷となると、回復魔法だけでは限界がある。とはいえこの場でできる限りの事をすれば、命は助かる可能性もあるだろう。エミナはトリートを維持しながらも、ミズキを治療する方法を頭に思い浮かべる。体力の消耗が激しいので、トリートだけではなく、体力を回復する呪文も併用する必要があるだろう。加えて、魔法では完全に傷を塞ぐことは出来なさそうなので、出血を止めるには傷口を縫う必要がありそうだ。

「ミーナちゃん、ライトニングフラッシュ、使える?」
「ライトニングフラッシュ……実際に使ったことは無いぴょんが、光の、それほど難しくない魔法だぴょんから使えると思うぴょん」
「馬車を呼んで! お願い!」
「分かったぴょん!」
 ミーナは手を上へと掲げ、ライトニングフラッシュを唱え始めた。

「う……うん……あ……エミナさん……」
 ぼやけた意識が少しはっきりとしてきたので、ミズキは辛うじて、エミナの姿を捉えることができた。
「ミズキちゃん、喋らないで、出来るだけ楽な姿勢をして。体力を使わないように……」
「よ、良かった。エミナさん……元に戻って……う……ゲホッ、ゲホッ!」
「ミズキちゃん……! 顔を横に向けて、血が喉に詰まらないようにして……」
「う、うん……ゼェ……ゼェ……」

 ミズキは、自分の体が発する苦しみに恐怖を感じている。意識がはっきりしたせいで、むしろ苦しみに敏感になったのだろうか。腹部にはトリートの心地良さを感じるが、ズキンズキンという激痛を常に感じる。息も切れるし、エミナと喋れているのも不思議なくらいに意識も混濁しているみたいだ。

「大丈夫、ミズキちゃんは、私が絶対、助けるよ」
 コーチの中に針と糸があれば、ひとまずの応急処置はできるが……それも見よう見まねの素人仕事になってしまう。すぐにちゃんとした施設で、ちゃんとした医師に見せなければならない。
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