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77話「瑞輝を襲うドリルブラスト」

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「ぐっ……」
 ミズキのパンチを顔面に受けたエミナは、体をぐらりと傾けた。しかし、完全に意識を失うことはなく、手を地面に突いて体を支えた。

「おっと……っ!」
 全速力で走って勢いが付き過ぎていたことと、体の全身に感じる痛みのせいで勢いを殺し辛かったのとで、ミズキはエミナを大きく通り過ぎた後に、地面に転がった。

「はぁ……はぁ……エミナさんの戦い方じゃあないんだ! だったら……!」
 この距離ならば、恐らく何らかの呪文詠唱の隙をエミナに与えるだろう。しかし、このエミナの動きならば、容易に読める。このくらいの距離なら、もう問題無い。ミズキは再び、エミナの方へと駆けた。

「聖なる雷土いかづちの力を以て、よこしまなる者へ裁きを! セイントボルト!」
 距離が近いせいで、エミナの詠唱がミズキの耳に、はっきりと聞こえる。しかし、それからではセイントボルトに備えるには不十分だ。
 ミズキは、エミナが詠唱を始めると同時にかざした手の平を見てとり、既に体の重心を左に移動させていた。

「攻め手が直線的だよ、エミナさんらしくない……これならっ!」
 ミズキが左前方に大きく跳躍し、セイントボルトを避ける――着地は成功した。多少、脇腹が痛むが、まだ走れるくらいの痛みだ。なるべく勢いを殺さず、エミナに向かって走り始める。

「エミナさん……!」
 ミズキがエミナに飛びついた。二人の体が宙を舞うと、エミナの体は地面に叩きつけられた。ミズキもエミナに覆いかぶさるように倒れる。
「ぐっ……」
 エミナがくぐもったうめき声を上げる。
「待ってて、一か八か……」
 エミナの上に覆いかぶさる形となったミズキだが、すぐに起き上がると、両腕でエミナの腕を地面に押さえつけて馬乗りになった。

「うおぉぉ! うおぉぉぉ!」
 エミナは、いつもの様子からは想像も出来ない叫び声を上げてミズキを威嚇しながら、激しくもがいている。

 どっちが早い……? エミナさんの利き腕は右手。だったら、左手を開放する方がいい……。ミズキは思考を巡らしながら、エミナの左手を押さえつけていた自分の左手を、エミナの眼前に掲げた。

「穢れしその身に解呪のげんを……ディスペルカース!」
「風よ、その身を鋭き螺旋の形に変え、万物ばんぶつを貫く刃となれ……ドリルブラスト!」

 ミズキがディスペルカースを、エミナがドリルブラストをそれぞれ詠唱する。
 ミズキの手からは白い光が広がってエミナの額を包み、エミナの手には風が集まって渦を巻いていく。

「く……っ!」
 失敗だ。ミズキは直感し、急いでその場を飛び退いた。

「あぐっ……うげぇっ!」
 ミズキの口から、真っ赤な液体が飛び散った。
「ぐ……あぁ……」
 ミズキは後ろに跳躍した体を着地させようと試みたが、両足に力は入らずに、体を地面に転がせた。

「あぐ……あ……があぁっ!」
 腹部に感じる激しい苦痛に、ミズキは思わず唸り声を上げる。
 ミズキの腹部は横に大きく引き裂かれていた。切断まではされていないものの、大きく抉れている。エミナのドリルブラストを至近距離で受けてしまったからだ。

「うぐ……あぁ……だ……だめなのか……誰か……せめてエミナさんだけでも……」
 遠のく意識の中でミズキは、ドリルブラストをかざして迫ってくるエミナを見た。ディスペルカースの詠唱は失敗した。ミズキの体の状態も、もうエミナに対抗できる状態ではない。打つ手は全て失った。

「うまく……いかないもんだなぁ……やっぱり嫌だな、死ぬのは……」
 ミズキが、迫りくるエミナのドリルブラストを、恨めしそうに睨む。
「エミナさん、僕、もっと色々……」

 直後、ミズキの目の前が真っ暗になった……いや、土色の障害物によって、突然視界を遮られた。
「プレイスピック……」
 ミズキはその魔法をプレイスピックだと察した。プレイスピックは、地面を隆起させた衝撃によって相手を攻撃する土属性魔法だ。しかし、応用方法によっては、今のように何かと何かの間を遮る用途にも使える。

「ミズキ! 酷い怪我だぴょん! 傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
 ミーナがミズキの体を起こして、腹部の傷にトリートをかける。
「気休めにしかならないかもしれないぴょんが……」

 傷は深く、ミーナのトリートでは焼け石に水といった状況だ。しかし、ミズキにとって、トリートの光は柔らかな癒しの光だった。体は気持ち程度には楽になり、痛みもごくごく少しだが和らいだ気がした。
「あ……ありがとう……プレイスピックなんて使えるんだね、ミーナは」
「ぶっつけ本番だったぴょん。でも成功したぴょん。ミーナちゃんも、戦いの中で成長しているということぴょんよ!」
 ミーナが「どうだ、えっへん!」と言わんばかりに腰に手を当てて胸を張った。
「そう……かもしれないね……」
「ちょ……おーいミズキ、ひとごとだって思ってる場合じゃないぴょんよ」
「え……?」
「ミズキも、もう一回やるぴょん。いっぱい練習して、実戦でも使おうとしたんだから、あと一押しぴょん!」
「ミーナ……」
 ミズキは自分の手を、じっと見つめた。確かにミーナの言う通りだ。でも……。
「エミナの足止めはミーナちゃんがするぴょん。任せとけぴょん! ……うわっ!」

 プレイスピックで作られた目の前の壁の一部が弾け飛んだ。その先には、ドリルブラストを構えたエミナの姿がある。
「と、とにかく、ミーナちゃんがなんとかするぴょんから、ミズキもなんとかするぴょん! なんとかするぴょんよ!」
 ミーナはそう言って、ガイアプロトルージョンで出来た壁の側面へと回り込む。
「灼熱の火球よ、我が眼前の者を焼き尽くせ……ファイアーボール!」
 ミーナがエミナ目掛けてファイアーボールを放ったが、エミナはそれを後ろに跳躍して避けた。

「ぐ……なんとか……か……」
 まだまだ痛みと出血の大きな腹を手で押さえながら、ミズキもよろよろと立ち上がる。ミーナがファイアーボールを多用するのは、得意でない属性を使う事で、敢えて威力を発揮させずに手加減をしているのか、それとも基礎の基礎、最初に習うであろうファイアーボールが使い慣れているからなのか……。どちらにせよ、エミナを正気に戻すことに成功しないことには、ミーナもただでは済まないだろう。エミナは既に、ミーナの方へとターゲットを変更している。

「うわっ!」
 エミナがとめどなく放つセイントボルトを、ミーナは左右に走る事で、ぎりぎり避けている。

「これ、威力も結構やっばいぴょん。ジェルプロテクションで魔法防御を固めてたとはいっても、よくこんなのをまともに受けて、ああも動けるぴょんね……」
 英雄や大魔法使いとまではいかないものの、エミナは熟練した魔法使い。しかも、村で一番といっていいほどの腕前だ。そのエミナが放つ得意魔法を受ければどうなるか。結果は見るまでもないだろう。

「灼熱の火球よ、我が眼前の者を焼き尽くせ……ファイアーボール!」
 それがドリルブラストなら尚更だ。皆はエミナを近付かせないように、慎重に、そして確実にファイアーボールで牽制をし、時間を稼いでいく。
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