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75話「リビングデッド」
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「エ、エミナさん大丈夫?」
「う、うん……大丈夫だと思うけど……なんだか頭がおかしい感じ……」
「あ、頭!?」
ミズキは、うずくまったエミナのうなじに噛まれたような跡があり、そこから血が流れ出しているのを見た。
「わ! 結構大きい傷があるよ、さっきの虫だよ! ちょっと待ってて……傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
ミズキはエミナの傷口に手をかざすと、トリートを唱えた。ミズキの手の平から柔らかい光が発生すると、エミナの傷口は、あっという間に塞がっていった。
「うん……これで大丈夫だと思うけど……」
「うう……ん……」
ミズキは暫くエミナの様子を見守ったが、それでも一向に良くなる気配は無い。エミナはずっとうずくまって、うんうんと唸り声を上げるだけだ。
「ど、毒じゃないかぴょん?」
「ああ、そっか、そうかも。えーと、解毒の呪文は……身の内の異質なるものに、浄化の……」
ミズキがエミナ方へと体を傾け、解毒呪文を使おうと詠唱し始めた時だ。ミズキの体に強い衝撃と激痛が走った。
「え……」
ミズキの頭が混乱する。さっきまではコーチの中に居たはずなのだが、目の前にはいつの間にか青空が広がっている。体は――宙に投げ出されている。
「あぐっ……」
空の端に、緑色の草が生えた地面が見えたと思ったら、再び体に激しい衝撃と痛みが走った。今度の状況はすぐに分かった。ミズキの体が地面に叩きつけられたのだ。ミズキの体は地面に叩きつけられた後も転がり続け、勢いが弱まったところで手を地面に突き立てると、ようやく止まった。
「はぁ……はぁ……何が……マッドサモナー……うぐっ……!」
ミズキは、ようやく自分の体の異常に気付いた。腹部のバトルドレスに、赤い血が滲んでいる。痛みからすると、自分の血に違いない。
「な……んだこれ……と、とにかく……傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
ミズキはわけが分からなかったが、トリートを用いて治療しないと意識を失ってしまうレベルの傷だと思ったので、急いでトリートを使った。
「コーチは……」
ミズキがトリートを使いつつ、コーチを探す。そして、ミズキの目がコーチを捉えたのと殆ど同じタイミングで悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁぁ!」
悲鳴はミーナのものだ。コーチのホロが破けたと同時に、そこからミーナが空高く投げ出される。
「あ……危ない!」
ミズキは叫んだが、ミーナは気を失っているようだ。そのまま放物線を描いて落下し始めた。
「ああ、まずい! 己の肉体こそ約束されし力、我が身にナタクの力を宿したまえ……ナタクフェイバー!」
ミズキがナタクフェイバーで筋力を上げながら、ミーナが落ちると思われる場所に走る。
「く……!」
脇腹が痛む。トリートをかけられた時間分の傷が癒され、ナタクフェイバーで筋力強化されたので、走れる程度には痛みは薄くなったが、それでも足を一歩踏み出す度に、ズキンと痛みが走る。
「ミーナ!」
ミズキがミーナを正面に捉える。正面に迫ってくるミーナを受け止めようと、腰をかがめて手を大きく開く。
――ドサッ!
ミズキに衝撃が走る。
「うぐっ……」
ミーナは両腕で包むように受け止められたが、ミズキはその衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。
「ぐ……はぁ……はぁ……」
背中から地面に倒れたミズキだが、ミーナはきちんと抱えることができた。地面に打ち付けた背中と、まだトリートで治しきれていない脇腹がズキンと痛む。
「大丈夫? ミーナ……」
荒い息をしながら、ミズキはミーナの体を見た。体とバトルドレスは全体的に引き裂かれているが、傷はどれも浅く見える。
比較的深いのは胸の部分と腰の部分だろうか。バトルドレスは大きく引き裂かれていて、少し出血量が多い。
「傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
ミズキがミーナの胸に手を当てて、トリートを唱える。ミズキの手から出るトリートの光によって、ミーナの傷が治っていく。
「このくらいの傷なら、トリートで完治させられるけど……」
ミズキがちらりとコーチを見る。ワムヌゥは暴れ狂っていて、御者のマミルトンさんも慌てている。何が起こっているのかも分からないようだ。そして……。
「エ……エミナさん……」
エミナは、そんなコーチの前に立ち尽くしている。呆然としているのではなく、静かに、そして無機質に、ただ立っているのだ。
「何が……?」
エミナに何が起きたのか。ミズキはエミナに感情を感じない。それどころか、なにか得体の知れないものを感じ……それを通して恐怖すら感じてしまう。
「う……」
「ミーナ!?」
ミーナのうめき声が聞こえたので、ミズキはミーナに目をやった。
「良かった、気が付いたかい?」
「ん……アークス……エミナが……突然……」
まだはっきりとしない意識の中で、ミーナはコーチの中で起こったことを話そうとしている。
「うん……なんとなく分かるよ。何が起きたのかは分からないけど、今の状況はなんとなく分かる」
ミズキがエミナを見据える。エミナは相変わらず、ただ立っている。恐らくは、そのエミナが、何故か馬車の中で暴れたのだろう。今の状況、そして、これまでの状況から、瑞輝はそう結論付けた。
「ミーナ、腰の怪我、出血酷いけど、自分で治せる?」
「やってみるぴょん。ミーナちゃんだって、もう補助魔法は使えるんだぴょんから」
「うん、ごめんね。……先にあっちをなんとかしないと」
ミズキがエミナと、その後ろのコーチの方に向き直った。
ミズキは前を見据え、自らの頭の中を整理するために考える。まずは馬車だ。ワムヌゥが興奮し過ぎていて、マミルトンさんでもなだめられていない。加えて、コーチはエミナさんに一番近い。考えたくはないが、マッドサモナーの手によって、エミナさんの意識が変化したとしか考えられない。
「……」
ミズキはエミナを警戒しつつ、素早くコーチの方へと向かっていく。
原因はさっぱり分からないが、最悪の場合、エミナは躊躇なく、ミズキを襲ってくるだろう。それだけの変化を、エミナはしている。それが長い間エミナと一緒に居たミズキには分かった。なので、エミナとは距離を取らないといけない。歯がゆいが、エミナをどうにかするより先に、コーチの安全を確保するべきだと思ったからだ。
「哀哭を知らぬ者に悄々たる一滴を……ティアードロップ!」
魔法の有効範囲にまでコーチに近付いたミズキは、気持ちを落ち着かせる呪文をワムヌゥにかけた。
「おおっ!? どう……どう……」
「マミルトンさん!」
ワムヌゥをなだめきれない。ミズキの魔力で、得意属性でない水属性の魔法「ティア―ドロップ」を使っても、ワムヌゥをなだめきるのに十分な効果を発揮出来なかったのだ。
「ミズキ! こっちは大丈夫だ! これくらいなら、俺が落ち着かせてやる!」
「マミルトンさん……分かりました! そっちはマミルトンさんに任せます! それと、落ち着いたらレーヴェハイムに鳩で連絡を!」
この状態。僕もミーナも傷付き、体力も少ない。加えてエミナさんの様子もおかしい。エミナさんがどうなったのかは分からないが、このままの戦力では、厳しいかもしれない。レーヴェハイムに応援を頼むべきだろう。瑞輝はそう考えた。
「おう、任せとけ! そっちは頼むぞ!」
「はい、エミナさんは、僕が引きつけます……!」
ミズキがエミナの方に向き直った。エミナさんは未だ、直立不動のままだが、不用意に近づくのも危険だ。マミルトンさんのコーチが遠くに離れるまでは、暫くこうして様子を見よう。
「う、うん……大丈夫だと思うけど……なんだか頭がおかしい感じ……」
「あ、頭!?」
ミズキは、うずくまったエミナのうなじに噛まれたような跡があり、そこから血が流れ出しているのを見た。
「わ! 結構大きい傷があるよ、さっきの虫だよ! ちょっと待ってて……傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
ミズキはエミナの傷口に手をかざすと、トリートを唱えた。ミズキの手の平から柔らかい光が発生すると、エミナの傷口は、あっという間に塞がっていった。
「うん……これで大丈夫だと思うけど……」
「うう……ん……」
ミズキは暫くエミナの様子を見守ったが、それでも一向に良くなる気配は無い。エミナはずっとうずくまって、うんうんと唸り声を上げるだけだ。
「ど、毒じゃないかぴょん?」
「ああ、そっか、そうかも。えーと、解毒の呪文は……身の内の異質なるものに、浄化の……」
ミズキがエミナ方へと体を傾け、解毒呪文を使おうと詠唱し始めた時だ。ミズキの体に強い衝撃と激痛が走った。
「え……」
ミズキの頭が混乱する。さっきまではコーチの中に居たはずなのだが、目の前にはいつの間にか青空が広がっている。体は――宙に投げ出されている。
「あぐっ……」
空の端に、緑色の草が生えた地面が見えたと思ったら、再び体に激しい衝撃と痛みが走った。今度の状況はすぐに分かった。ミズキの体が地面に叩きつけられたのだ。ミズキの体は地面に叩きつけられた後も転がり続け、勢いが弱まったところで手を地面に突き立てると、ようやく止まった。
「はぁ……はぁ……何が……マッドサモナー……うぐっ……!」
ミズキは、ようやく自分の体の異常に気付いた。腹部のバトルドレスに、赤い血が滲んでいる。痛みからすると、自分の血に違いない。
「な……んだこれ……と、とにかく……傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
ミズキはわけが分からなかったが、トリートを用いて治療しないと意識を失ってしまうレベルの傷だと思ったので、急いでトリートを使った。
「コーチは……」
ミズキがトリートを使いつつ、コーチを探す。そして、ミズキの目がコーチを捉えたのと殆ど同じタイミングで悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁぁ!」
悲鳴はミーナのものだ。コーチのホロが破けたと同時に、そこからミーナが空高く投げ出される。
「あ……危ない!」
ミズキは叫んだが、ミーナは気を失っているようだ。そのまま放物線を描いて落下し始めた。
「ああ、まずい! 己の肉体こそ約束されし力、我が身にナタクの力を宿したまえ……ナタクフェイバー!」
ミズキがナタクフェイバーで筋力を上げながら、ミーナが落ちると思われる場所に走る。
「く……!」
脇腹が痛む。トリートをかけられた時間分の傷が癒され、ナタクフェイバーで筋力強化されたので、走れる程度には痛みは薄くなったが、それでも足を一歩踏み出す度に、ズキンと痛みが走る。
「ミーナ!」
ミズキがミーナを正面に捉える。正面に迫ってくるミーナを受け止めようと、腰をかがめて手を大きく開く。
――ドサッ!
ミズキに衝撃が走る。
「うぐっ……」
ミーナは両腕で包むように受け止められたが、ミズキはその衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。
「ぐ……はぁ……はぁ……」
背中から地面に倒れたミズキだが、ミーナはきちんと抱えることができた。地面に打ち付けた背中と、まだトリートで治しきれていない脇腹がズキンと痛む。
「大丈夫? ミーナ……」
荒い息をしながら、ミズキはミーナの体を見た。体とバトルドレスは全体的に引き裂かれているが、傷はどれも浅く見える。
比較的深いのは胸の部分と腰の部分だろうか。バトルドレスは大きく引き裂かれていて、少し出血量が多い。
「傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
ミズキがミーナの胸に手を当てて、トリートを唱える。ミズキの手から出るトリートの光によって、ミーナの傷が治っていく。
「このくらいの傷なら、トリートで完治させられるけど……」
ミズキがちらりとコーチを見る。ワムヌゥは暴れ狂っていて、御者のマミルトンさんも慌てている。何が起こっているのかも分からないようだ。そして……。
「エ……エミナさん……」
エミナは、そんなコーチの前に立ち尽くしている。呆然としているのではなく、静かに、そして無機質に、ただ立っているのだ。
「何が……?」
エミナに何が起きたのか。ミズキはエミナに感情を感じない。それどころか、なにか得体の知れないものを感じ……それを通して恐怖すら感じてしまう。
「う……」
「ミーナ!?」
ミーナのうめき声が聞こえたので、ミズキはミーナに目をやった。
「良かった、気が付いたかい?」
「ん……アークス……エミナが……突然……」
まだはっきりとしない意識の中で、ミーナはコーチの中で起こったことを話そうとしている。
「うん……なんとなく分かるよ。何が起きたのかは分からないけど、今の状況はなんとなく分かる」
ミズキがエミナを見据える。エミナは相変わらず、ただ立っている。恐らくは、そのエミナが、何故か馬車の中で暴れたのだろう。今の状況、そして、これまでの状況から、瑞輝はそう結論付けた。
「ミーナ、腰の怪我、出血酷いけど、自分で治せる?」
「やってみるぴょん。ミーナちゃんだって、もう補助魔法は使えるんだぴょんから」
「うん、ごめんね。……先にあっちをなんとかしないと」
ミズキがエミナと、その後ろのコーチの方に向き直った。
ミズキは前を見据え、自らの頭の中を整理するために考える。まずは馬車だ。ワムヌゥが興奮し過ぎていて、マミルトンさんでもなだめられていない。加えて、コーチはエミナさんに一番近い。考えたくはないが、マッドサモナーの手によって、エミナさんの意識が変化したとしか考えられない。
「……」
ミズキはエミナを警戒しつつ、素早くコーチの方へと向かっていく。
原因はさっぱり分からないが、最悪の場合、エミナは躊躇なく、ミズキを襲ってくるだろう。それだけの変化を、エミナはしている。それが長い間エミナと一緒に居たミズキには分かった。なので、エミナとは距離を取らないといけない。歯がゆいが、エミナをどうにかするより先に、コーチの安全を確保するべきだと思ったからだ。
「哀哭を知らぬ者に悄々たる一滴を……ティアードロップ!」
魔法の有効範囲にまでコーチに近付いたミズキは、気持ちを落ち着かせる呪文をワムヌゥにかけた。
「おおっ!? どう……どう……」
「マミルトンさん!」
ワムヌゥをなだめきれない。ミズキの魔力で、得意属性でない水属性の魔法「ティア―ドロップ」を使っても、ワムヌゥをなだめきるのに十分な効果を発揮出来なかったのだ。
「ミズキ! こっちは大丈夫だ! これくらいなら、俺が落ち着かせてやる!」
「マミルトンさん……分かりました! そっちはマミルトンさんに任せます! それと、落ち着いたらレーヴェハイムに鳩で連絡を!」
この状態。僕もミーナも傷付き、体力も少ない。加えてエミナさんの様子もおかしい。エミナさんがどうなったのかは分からないが、このままの戦力では、厳しいかもしれない。レーヴェハイムに応援を頼むべきだろう。瑞輝はそう考えた。
「おう、任せとけ! そっちは頼むぞ!」
「はい、エミナさんは、僕が引きつけます……!」
ミズキがエミナの方に向き直った。エミナさんは未だ、直立不動のままだが、不用意に近づくのも危険だ。マミルトンさんのコーチが遠くに離れるまでは、暫くこうして様子を見よう。
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