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74話「虫」

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 ――三人のリビングデッドを処理するスピードは徐々に速くなり、遂には戦える個体は居なくなった。

「お、終わったぴょん……」
 横たわるリビングデッド達を見て、ミーナは安堵し、呟いた。

「はぁ……はぁ……このままじゃいけないわ。一旦町に戻って体勢を整えた方がいいかも」
「えっ?」
 エミナの一言に、ミーナは首を傾げた。エミナは肩で息をしているものの、まだまだ元気そうだ。ふらついている様子も無いし、体中、どこも傷付いていない。

「結構余裕で勝ったぴょんよ?」
 ミーナは地に伏した大量のリビングデッドとエミナの顔を交互に見ながら言った。
「あの、ミーナ……僕も結構余力は残ってるけどさ……」
「うん、大勝利だぴょん!」
 ミーナが飛び上がって喜ぶ。

「いや……そうじゃなくて……」
 ミズキはそんなミーナの様子を見て、気まずそうにしている。

「え? 何だぴょん?」
「ミーナちゃん、このリビングデッドは村の外の戦力だから……」
「ああ……そうだったぴょんよね。そっか……キャルトッテが大変なことになってるんだから、本番はキャルトッテの中だぴょんね」
「うんうん、そうそう、そういうことそういうこと」
 ミズキがコクコクと首を上下させる。

「でも……今のでみんな、魔力の半分以上は消耗してるし……このまま行ったら私達の方が返り討ちにあってしまう危険が、かなりあるわ。マッドサモナーは召喚魔法が得意だっていうけど、今回、召喚モンスターが出てこなかったということは、総力戦じゃなさそうだし」
「む……そういうことぴょんか。確かにリビングデッド百パーセントだったぴょんね。危険な雰囲気がぷんぷんするぴょん」
「なんか、そう言うと果汁ジュースみたい……」
「へ?」
「ああ、いや……どっちでもいい話だから、流して」

「これは罠かもしれない。私達を帰さないようにするために、村の中に何か仕掛けてる可能性もあるわ」
「うん……アークスさんの話を聞く限り、かなり用意周到な人物みたいだし、用心した方がいいね。キャルトッテの人達は心配だけど、一旦、村に、この状況の事を伝えた方がいいと思う」
「私もミズキちゃんと同意見よ。それで、マッドサモナーが召喚魔法を得意とするのなら、戦力を分断させることもできそうだから、各個撃破されないように固まって動いた方がいいと思うの」
「んん……なるほど、えー……ミーナちゃんも同意だぴょん。なんか、その方が良さそうだぴょん」
 エミナ、そしてミズキも、なんだかこういうのに妙にやりなれている様子だ。ミーナはそのことに少し萎縮し、狼狽えたが、確かにその通りだと思った。
 さすが、村を代表する精鋭の二人である。ミーナはこくこくと頷き、納得した。
 
「マッドサモナーに場所が分かってしまう恐れもあるんだけど……ライトニングフラッシュ!」
 エミナがライトニングフラッシュをファストキャストで唱えた。空にかざした手の平から、眩い光を放つ光の玉が空へと昇っていく。
「コーチが来る間に、敵が来なければいいんだけど……」
「マミルトンさんに合図するには仕方がないよね。でも、コーチに乗れば一安心だから、それまで警戒しながら待ってよう」
「そうね、そうしましょう」

 ミーナとミズキ、そしてエミナは周りを警戒しつつ、キャルトッテから慎重に距離を取っていった。辺りには草原が広がっていて、遮蔽物は低木か、遠くにある岩山くらいなので見通しは良い。
 とはいえ、どんな召喚モンスターが襲ってくるかは分からない。蛇のようなモンスターならば、草の陰に潜むことも出来るだろう。
 草の中に特に目を光らせながら慎重に移動しているうちに、何も起こらないままコーチと合流することになった。

 三人がコーチに乗り込むと、マミルトンはワムヌゥを全速力で走らせた。三人の瞳に移るキャルトッテが、どんどんと小さくなっていった。

「取り敢えず、一安心かな?」
 ミズキはワムヌゥの座席に座ると「ふぅ……」とひと息ついた。
「追っ手も来なさそうだぴょんね」
 ミーナがコーチの外を覗いたが、追走する者は居ない。

「空とか、地中とか……見えない所からは何が襲ってくるか分からないけど……取り敢えず、危険は小さくなったわね」
 エミナは、ミーナとは逆側から、身を乗り出して周辺を見ている。

「……痛っ!」
 エミナが突然、短い悲鳴を上げる。
「どうしたの?  ……わ! 大きい虫!」
 エミナの側の座席に座っていたミズキが驚いてエミナを見る。エミナの肩には大きなハエのような虫がとまっていた。
「ええ!? 取って取って!」
「ええと、直に取るのは怖いから……動かないでねエミナさん……」
 ミズキはそーっと人差し指の指先を、虫がとまっているエミナの肩に向け、近付けた。

「宙を裂く紅き閃光にて触れる全てを焼き尽くす……レッドレーザー」
 やはりそーっと魔法を詠唱すると、ミズキの指から赤く輝く細い光線が飛び出た。
「わっ!」
「うん……?」
 ミズキは、虫が絶命する瞬間に、虫から黒い煙が出た気がした。
「何? 変な毒のある虫じゃないだろうな……」
 ミズキは、虫から出たであろう嫌な煙に、なにか漠然とした「嫌」な雰囲気を感じた。エミナの周りと自分の指をじっくりと見て警戒する。

「ちょっと、ミズキちゃん大袈裟だよ!」
 エミナが眉を吊り上げて、ミズキに怒った。
「だ、だって、怖いから……」
 珍しく声を荒らげたエミナに、ミズキは思わず肩を縮めて萎縮をする。

「魔法使うなら、火で炙っただけで逃げてくって! あんな強力なの、危ないよ!」」
 エミナは乗り出していた体をコーチの中に引っ込めて、ミズキの隣に座った。
「そう? で、でも、飛んで暴れまわったら怖いし……」
「もー……ミズキちゃんったら、ほんとに虫、苦手なんだから。ほら、ここもちょっと焦げちゃってる」
 エミナが座席部分を覆っているホロの端を掴んだ。エミナが掴んだ部分には穴が開いていて、周りは黒く焦げている。
「レッドレーザーって、細く見えて、周りにも結構効果があるから……」
「ああ、ほんとだ、ごめんよ。弁償とかするから……」
「いえ、そこまでしなくてもいいんだよ。でも、使う時は気を付けた方がいいよ」
「そうだね……気を付ける」

「ミーナちゃんはまだまだ駆け出しだぴょんけど、中級以上の強力な魔法は普段使いはしずらいんだぴょんねぇ」
「攻撃魔法は、どうしてもね。争いのための魔法だから……他の魔法は、普段使いしても大丈夫なのが多いんだけどね」
「錬金、召喚、補助……か……」
「んー、ミーナちゃんは穏やかに暮らしたいぴょんからねー、実は攻撃魔法は合ってないのかもしれないぴょんね」
 ミーナはため息をついて、座席の背に体を預けた。ゴトゴトというコーチの振動と音は壁を伝い、ミーナの体に、より直接的に伝わる。

「大丈夫だよ。苦手な性質の魔法だって、ちゃんと練習すればきっと……!?」
「ん……エミナさん?」
 エミナの異常を一番に察したのはミズキだった。エミナが突然言葉に詰まった様子で、顔には苦悶の表情が浮かんでいた。
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