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70話「異世界発見」

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「アークス……」
 サフィーは拳に力を籠めた。心の中で膨らむ不安を振りほどくためだ。
 目の前に立ち、こちらを嘲笑っているかのような魔女の幻を睨みつける――魔女の幻が消える頃には、サフィーの心の中で、不安が怒りに置き換わっていた。

「なるほどストーンゴーレムか。やけに石がゴロゴロしてるわけだぜ」
 ブリーツは、いつの間にか遥か前方の石。恐らくストーンゴーレムの残骸であろう巨大な石の周囲をうろうろとしている。
「ブリーツ、何か手掛かりは見つかったの?」
 サフィーが少し歩く速度を速めながらブリーツの方へと近寄りながら言った。

「いやぁ……特には……てか、手掛かりっていってもさ、これ以上無いんじゃないか? これがストーンゴーレムって分かっただけでも大収穫だぜ」
 ブリーツが、石をポンポンと叩きながら、相変わらず石のまわりをウロウロと移動して回る。
「てか、リーゼの破片もあるよな」
「ええ、当然でしょうね。ストーンゴーレム数体を相手にして傷付かないパイロットなんて、そうそう居ないわ」
 サフィーが右前方を見る。そこにはリーゼの一部であろう、大きな鉄の破片があった。他にも、細かな鉄の破片が、辺り一帯に散らばっている。
「激戦だったのね、リーゼの本体らしきものが無い所を見ると、まだアークスは無事だって可能性も考えられるけど……」
 リーゼの破片の飛び散り具合からして、無傷ではないだろう。中破以上はしているのではないか。

「……あ、あら? ブリーツ?」
 ふと、サフィーはリーゼの破片からブリーツに意識を移したが、ブリーツはいつの間にか見当たらなくなっていた。
「ブリーツ!? またふざけてるの!? ……それとも、あの魔女め……!」

「何だー!?」
「えっ!? どこなの!?」
 サフィーはブリーツの声がする方を見たが、そこには誰も居ない。首を左右に振りながら、何度も周辺を見回しても、やっぱりブリーツの姿が無い。

「どこなのって……あれ? えーと……てか、サフィーはどこだ?」
 ブリーツの方も、どこに居るのか分かっていない様子だ。
「えっ? えっ?」
 近くに居るのは間違いないのだが……。サフィーは引き続いてきょろきょろと周りを見渡しながら、石周辺を歩くことにした。とはいえ、石の陰に隠れた様子も無かったが……。
「あいつ……」
 石に隠れるような様子は無かったが、ブリーツは咄嗟にペンキをノンキャストで表示できるくらい、変なところで魔法が得意だ。だとすれば、サフィーに気付かれないように姿を消してふざけるのなど朝飯前だろう。

「ブリーツ、ふざけてんじゃないでしょうね! 許さないわよ!」
「おいおい! それ濡れ衣だぞ! 本当に見つかんないんだって!」
 声のトーンからすると、ブリーツはふざけている様子ではないような気がするが……。

「まったくもう……」
 本当の所は分からない。ブリーツはどこに居るかも分からないので、替わりにブリーツの声がする方をじろりと睨むと、サフィーは更にブリーツを探し続け、歩を進める。

「早く姿を現さないと、置いてくわよ!」
「ま、待てよー! サフィーこそどこにいるんだよー……ああっ!」
「今度は何よ……」
「リ、リーゼだ! かなりやられてるぜ!」
「リーゼって……破片の事は、とっくに知ってるわよ」
「違うんだって! 本体があるんだって!」
「本体って……リーゼの本体!?」
「そうそう!」
 リーゼの本体が打ち捨ててあるのならば、アークスは無事だとはいえない。そのリーゼのコックピットにアークスは居るのだろうか。
 サフィーが周りを注意深く見回す。ブリーツはどこかへ隠れて見えなくなっているようだが、巨大なリーゼの、しかも本体ならば、ここからでも見えるはずだ。

 ――しかし、すぐに見つかってもおかしくないリーゼの本体は、全く見当たらない。

「ブリーツ、どこ!?」
 サフィーは我慢できずにブリーツに叫んだ。
「ここ!」
 ブリーツも叫び返すが、姿は見えない。
「ここってどこよ! これ、いつものおふさけだったら本当に殺すわよ!」
 苛立ちながら、ブリーツの声がする方へと向かう。とはいえ、その方向には広大な草原が広がっているだけだ。
「いや、だから違うって! こっちこっち!」
「だからこっちってさ、どっち……ええっ!?」

 サフィーが驚愕する。サフィーの前に突然現れたのは、それまでとは全く違う光景だった。
「えっ……ここは……」
 サフィーの周りの地面に丈の低い草が生えているのは同じだ。しかし、周りの景観は、何故か一瞬にして違うものになった。

「森……どこの……?」
 一面に広がるのは、鬱蒼として茂った森だった。そして……。

「ブリーツ! ……アークスは!?」
 ブリーツが目の前に居た。さっきまでは全く見えたかったブリーツが、相変わらずのマヌケ顔で目の前に立っている。
「ここから見える所には居なさそうだな。取り敢えず、考えられるのは……あれだが……行ってみる?」
「ナ……ナイトストライカー……!」
 至る所が激しく損傷したナイトストライカーが、そこにはあった。

「アークス!」
 サフィは、ボロボロになったリーゼに駆け寄ると、急いでよじ登っていった。
「コックピットが……!?」
 コックピットの部分も激しく損傷し、歪んでいる。そして、それは何者かによってこじ開けられていた。アークスが逃げたという事なのだろうか。

「アークス……居ない……でもこれ……」
 サフィーが気付いてしまった。そして、同時に激しい動機が襲う。
 アークスの乗っていたであろうコックピットのシートには、血が染みついていた。そのおどろおどろしい光景が意味することは、どんなにプラスに考えても、アークスが無事ではないということだ。
 サフィーは魔女の弟子の血である可能性も考えたが、それこそあり得ないレベルの低い可能性だ。魔女の弟子が、どういう手段かは分からないが、コックピットに入る必要があるし、コックピットの中があれほど荒れているのもおかしい。

「ああ……」
 サフィーが気付いた。良く見ると、コックピットの内部には、小さな金属片が散乱している。操縦者は、これで傷付いたのだろう。となると、信じたくはないが、この血はアークスの血に違いない。魔女の弟子が、仮に味方であっても、リーゼの操縦はアークスがやる方が自然だ。

「どこに居るの、アークス……」
 アークスは生きていると思いたい。きっとリーゼの周りに傷付いたアークスが居るのだ。……それが一番良いケースだ。それか負傷してどこかへ逃げ延びているのか、それともマッドサモナーに連れ去られたか……最悪の場合はもう……。
「そんなの……」
 最悪の場合は想像したくない。とにかく、サフィーはここの周辺を調べることにした。サフィーは重い気持ちのままリーゼを降りることにした。
 アークスが生きているのなら、リーゼからは大きく離れていないはずだ。

「こ、このリーゼはもうだめね。でも、アークスはこの辺りに居るはずだから、周りを探すわよ、ブリーツ」
 サフィーの震えた声が、ブリーツに伝わった。
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