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64話「ミズキとエミナ」

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「うわっ! すっごいぴょん……!」
 ホーリーフレアは中級程度の光属性魔法だ。間近に居たミーナにも、その衝撃が伝わってくる。

「で、でもこれで、ひと息……」
 一息つけるだろう。アークスも、魔法使い二人が治療してくれれば、まだ救える可能性がある。ミーナはそう思った。しかし、前に迫る巨大な人影を見て、絶句した。

「うわ……」
 さっきのストーンゴーレムは、最初にアークスが剣で切り裂いたストーンゴーレムだ。その後ろには、更に一体、ストーンゴーレムが居て、狙いを完全にミーナの方へと合わせている。

「あいつ……早い!?」
「魔力がまだ、たっぷり余ってるのよ。……風よ、その身を鋭き螺旋の形に変え、万物を貫く刃となれ……ドリルブラスト!」
 リーゼの下で魔法の詠唱が聞こえると、またカンカンとリーゼを叩く音がする。
 叩く音は、今度は徐々に近くなってくる。

「あ……あ……えと……」
 間近に迫ったストーンゴーレムを前に、ミーナは何か呪文を唱えようとした。しかし、ミーナ自身、それが到底間に合うものではないと見立てた。動揺して声も出てこない。ストーンゴーレムが構えた、そして、無事な左拳の方を前へと突き出した。
 ミーナの頭に、その後の様子が思い浮かぶ。強烈なパンチは、その軌道通りにアークスとミーナ、そしてリーゼを襲い、リーゼは更に原形をとどめることなく壊され、アークスとミーナはリーゼとストーンゴーレムの拳との間に挟まれ、圧死してしまうだろう。

「間に合った!」
 ミーナの前に、栗色の少女が立ち塞がった。手には先ほど唱えていた、ドリルブラストの魔法を纏っている。風の透明なうねりが三角錐状に渦巻いて、手に纏わりついているのだ。

「たああっ!」
 少女は間髪入れずに、ストーンゴーレムの方へと、ドリルブラストを突き出した。

「ド、ドリルブラストで……? 無茶だぴょん……!」

 ドリルブラストは、鋭い槍を、更に回転させて貫通力を増したような強力な魔法だ。しかし、今は相手が悪過ぎる。リーゼと同じくらいの大きさのストーンゴーレムに対して、ミーナの前に立ちふさがった少女は小さ過ぎるのだ。いくらドリルブラストとはいえ、普通の人間大のドリルブラストとストーンゴーレムのパンチがまともにぶつかれば、勝負は目に見えている。

 ――ゴキャッ!

 ストーンゴーレムの拳と、少女のドリルブラストがぶつかり合う音が、辺りに響く。

「なっ……ええ?」

 少女が一瞬にして、ストーンゴーレムの拳に潰される。ミーナはそう予測していたが、実際は、そうはならなかった。実際には逆……いや、体格差を考えれば、それ以上だろう。

 ストーンゴーレムの振り降ろした拳と、エミナのドリルブラストがぶつかり合うと、ストーンゴーレムの拳は見る見るうちに砕かれていったのだ。
 少女のドリルブラストに、ストーンゴーレムの拳が触れた途端、ストーンゴーレムの拳はバラバラに砕かれ、辺りに散らばっていった。
 ストーンゴーレムの拳は、少女のドリルブラストには勝てないと証明された瞬間だが、言葉を話さぬストーンゴーレムは、急に拳を振った勢いを止めることはできない。勢いよく放った拳を、急に引くことが出来ないのは、言葉を話さぬストーンゴーレムも人も、同じことなのだ。
 ストーンゴーレムの腕が、拳、手首、腕、肘の順に、次々と粉砕されていった。

「はぁっ!」
 少女がリーゼの上から跳躍すると、辛うじて残っている、ストーンゴーレムの肘より上の腕部をよじ登り、肩に至った。
 そして、少女はおもむろにドリルブラストを下に向かって突き刺した。
 ストーンゴーレムの左半身が、見る見るうちに、上から砕き散っていく。肩から胴体、腰――少女はストーンゴーレムの左足を完全に砕き切ったところで地面に着地した。

「わっ……!」
 少女は、崩れ落ちるストーンゴーレムを見て、急いでそこから走って逃げた。

 ――ガラガラ……」
 少女が逃げた所も含めて、ストーンゴーレムの周りの地面に、すっかり魔力の抜けたストーンゴーレムの体が音を立てて崩れ去った。

「ふぅ……まだ本調子じゃないな……」
 少女はほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫? 結構手強かったね」
 もう一人の少女が、栗色の髪をしたドリルブラストを放った少女に駆け寄っていく。
「うん……魔力量が、まだまだ全然回復してないから、ちょっとクラクラするけど……あ、それより!」

「アークス……もうちょっとだぴょん。もうちょっと頑張るぴょんよ……」
 ミーナは、リーゼを登る、カンカンカンという音が近付いてくるのを感じて、未だに意識が戻らないアークスを励ました。

「大丈夫ですか? ああ……酷い怪我ですね」
 ミーナに話しかけてきたのは栗色の少女だ。ミーナの姿を見るなり、急いで駆け寄ってきた。

「ど……どこの誰かは知らないぴょんが、魔法を使えるぴょんね! じゃあ頼みがあるぴょん! ミーナちゃんはいいから、アークスを! アークスを回復してやってほしいぴょん!」
 ミーナ自身も体中が傷だらけで辛いし、体力も限界に近い。しかし、そんな体力を振り絞って、ミーナは少女に訴えた。

「そっちの人は……大変! 貴方の怪我も見過ごせないけど……確かに、この人の方が酷い怪我……ミズキちゃん、急いで町に行って、応援を呼んできてくれる? お医者さんか、回復出来る人」
 後に付いてきた、薄ピンク色の髪をした少女に、栗色の髪の少女が言う。

「う、うん、分かったよ」
 薄ピンク色の髪をした少女が、急いでリーゼを駆け下りていく。

「あ、そうだ! ミズキちゃーん! それにコーチとか、人を運べるものもね! 私はここで、出来る限りの応急措置をするから!」
「うん。待っててエミナさん、すぐ戻ってくるから!」

「傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
 残った栗色の髪をした少女が、アークスにトリートを唱えた。アークスは苦しそうな表情のままで、意識は取り戻してはいない。しかし、ミーナには、アークスが少女のトリートを受けた時、少しだけ苦しそうな表情が和らいだ気がした。

「アークス……」
 アークスの傷が、少女のトリートによって徐々に治療されていく。

「必ず救って見せますから……必ず……!」
 少女がミーナに微笑みかける。とはいえ、やはり予断は許さない状態なのだろう。ミーナは、少女の眉が僅かに吊り上がり、顔全体は少し強張っている印象を受けた。
「あ……ありがとうぴょん……」
 しかし、頼もしい。アークスの傷はどんどん治っていき、血も止まっている。外見的にはもう心配なさそうに見えるが、内臓のダメージも激しいだろうし、トリートでは出血してしまった血は元通りにすることはできない。

 とはいえ、アークスの体が目に見えて回復していっているというのは確かだ。ミーナはほっとした。これなら助かるかもしれない。

「あの……ここはどこだぴょんか?」
「レーヴェハイムの町の近くですよ。いま、ミズキちゃんがレーヴェハイムに応援を呼びに行ってますから。あと一時間もすれば、ちゃんとしたお医者さんとかが来ますから」

「そう……ですかぴょん……良かった……」
 アークスも、そしてミーナ自身もどうにか助かりそうだ。そう思った瞬間、ミーナの全身の力が、どっと抜けていった。そして、ミーナの意識は一気に暗転していった。
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