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61話「ヒットアンドウェイ」
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――近付いて、ランスで突き、距離を取る。近付いて、ランスで突き、距離を取る。アークスは慎重に、繰り返しとも思えるような動作を繰り返した。
「はぁ……はぁ……」
この繰り返しによって、アークスは、徐々に自分が有利になることを狙っていた。が……実際は少し違っていた。
ストーンゴーレムから魔力が流出し、空中へと四散することで、ストーンゴーレムの動きは確かに鈍っている。しかし、アークスが有利になる気配は一向に無い。
「う……ぐはっ……!」
アークスの口から、一筋の血が垂れ下がる。意識の混濁も激しくなる。
アークスの誤算は、自身の消耗が思った以上に激しいことにあった。リーゼが一撃を受けることは無いが、中のアークスは、外傷こそ少ないように見えて、どうやら傷は思ったよりも深いようだ。
「まずい……よね……このままじゃ……」
このままでは押し負けてしまう。なんとかしないといけない。アークスは思惑を巡らしながら、リーゼを動かす。
リーゼを接近させ、リーゼが手に持ったランスでストーンゴーレムに手傷を与える。ゴーレムの体には至る所にランスによる傷が出来ていて、所々にランスが深く突き刺さったことによる風穴があいている。既に出来ている傷の部分に再び一撃を浴びせても効果は薄いので、その点ではやり辛くはなっているアークスには不利な要素だ。
「でも、相手だって……」
ストーンゴーレムの方も消耗しているのは確かだ。一匹のストーンゴーレムは、首から上が無くなっていて、無事なストーンゴーレムに比べると、明らかに動きが遅い。ランスで突いた時に失敗して、思わぬ方向へとランスを突き出してしまったのが功を奏して、偶然にも首を的確に一突きしてしまったからだ。
最初に片腕を切り落としたストーンゴーレムは、首なしストーンゴーレムよりも更に動きが鈍くなっている。もう戦力に数えなくていいくらいだ。
気を付けるべきは、もう一匹。どこの部位も欠損していないストーンゴーレムだ。細かな傷や、小さな貫通穴は開いているものの、大きな傷は与えられていない。アークスの消耗具合と比較すると、かえってストーンゴーレムの方が動きが良くなっているくらいだ。
「あれを何とかしないといけないよね……」
深手を負っていないストーンゴーレムは、それでも動きは鈍っている筈で、現に動きは鈍く見える。しかし、それ以上の速度でアークスの疲労は蓄積され、意識は混濁していく。せめて、どこかに深い傷を与えられさえすればと、アークスは考える。そうすれば、あとは今まで通りにじわじわとダメージを与えてゆけば、ストーンゴーレムの中の魔力は尽き、動きが止まって、ただの岩と化すだろう。
「……」
アークスのリーゼがじりじりと間合いを調節する。手負いの二体のストーンゴーレムとの距離を離しつつ、傷の浅いストーンゴーレムとの距離を、徐々に詰める。
「まだ……もう少しだ……」
こちらの消耗を考えた場合、相手は相対的に、最初よりも素早いと考えるべきだ。だとすれば、更に注意深く間合いを計り、攻撃する時にも素早くヒットアンドウェイをする必要がある。
アークスが、間合いを注意深く意識しながら、更に位置調節をする。この一突きで、勝負の明暗は分かれるだろう。一番の勝負どころだ。しくじったら、負ける。
「――今……! はぁぁ!」
最高のタイミングを計ったアークスが、一気にブースターの出力を上げた。この一撃を、他のストーンゴーレムが妨害できる余地は無い。アークスの目には、他の二匹のストーンゴーレムの様子も見られるからだ。
他の二体のストーンゴーレムが見える位置にあって、ランスの一撃を確実に決められる距離に、傷が浅いストーンゴーレムを捉える。アークスは絶妙な位置関係を見逃しはしなかった。
「いける……!」
遠くも無く、近くも無く、相手の右膝を確実に狙えてかつ、その中で最大限に離れた距離。すなわち、ストーンゴーレムに起死回生の一撃を確実に加えられ、万が一のために離脱も考えた最適な距離。アークスのリーゼは、その距離から、ランスの一撃を放つ。
「……!?」
最適な位置関係、最適な距離からランスの一撃を放ったアークスに聞こえてきたのは、ストーンゴーレムの膝が切断される音ではなかった。アークスに伝わったのは、ガチッという鈍い音と、リーゼが急停止する衝撃だった。
「そんな……僕は……」
ランスの一撃は、ストーンゴーレムに受け止められていた。ランスの先端寄りの部分を、ストーンゴーレムは片手で掴んでいる。
「う……がはっ……」
アークスの口から血が飛び出る。
「そっか……僕……こんなに消耗……うあぁぁっ!」
ストーンゴーレムが、間髪入れずに攻勢に出る。アークスに接近したストーンゴーレムは、ランスを離すと同時に更に距離を詰め、ランスを持ったのとは逆の手で、リーゼの胴体に一撃、重いパンチを命中させた。
「あぐあぁぁっ!」
そのパンチは、貫通こそしないものの、リーゼの胴体深くまで食い込んだ。
ストーンゴーレムが拳を引き抜くと、リーゼの部品である、様々な形をした金属が、そこから流れ出た。
「……」
ストーンゴーレムが、更にランスを離した逆の手でパンチをする。今度は胸の部分。アークスの居るコックピットに近い部分にヒットした。
「うわぁぁぁぁ!」
ストーンゴーレムの放ったパンチによる衝撃によって、リーゼを構成する金属が、無秩序に飛び散る。それはコックピットの内部も例外では無く、様々な金属の、高速で飛び散った破片がアークスに降り注いだ。
「あ……が……」
アークスの全身に、大小様々な傷が出来る。全身を包んでいるチュニックは切り裂かれ、体中は血だらけになっている。
「ぐあ……ぼ、僕は……みんな……」
コックピットごと潰されなかったのは、不幸中の幸いだろうか。いや……どちらにしろ、結果は変わらないのかもしれない。アークスの頭には、ミニッツやマクスン、ティニー、ブリーツ、サフィー、そして魔女やミーナ。様々な人が思い浮かぶ。みんなを悲しませたくない。しかし、もうどうにもならない。アークスの意識は遠のく――。
――ボゥン!
アークスの意識を、おぼろげながらも回復させたのは、目の前で起きた爆発の音と衝撃だった。
「何だ……!?」
「おい、アークス! しっかりするぴょん! ミーナちゃんの騎士との初めての共同任務を失敗させる気ぴょんか!?」
響いてきたのはミーナの声だ。
「ミーナ……逃げてなかったのか……だめだよ……」
必死の思いで、リーゼを操作するための球体に手を置く。二つの球体に、それぞれの手を置くのでさえ、かなり苦労する。アークスは改めて、自分の体がどれだけ傷付いているのかを自覚した。
「これじゃあ、ミーナまで……」
「アークスを見殺しにして逃げたら、ミーナちゃんだって寝覚めが悪いんだぴょんよ! ……聖なる雷土の力を以て、邪なる者へ裁きを! セイントボルト!」
ミーナのセイントボルトが、ストーンゴーレムの右肘の、ランスによる攻撃で削られ、細くなった部分に命中する。それによって、ストーンゴーレムの腕は崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
この繰り返しによって、アークスは、徐々に自分が有利になることを狙っていた。が……実際は少し違っていた。
ストーンゴーレムから魔力が流出し、空中へと四散することで、ストーンゴーレムの動きは確かに鈍っている。しかし、アークスが有利になる気配は一向に無い。
「う……ぐはっ……!」
アークスの口から、一筋の血が垂れ下がる。意識の混濁も激しくなる。
アークスの誤算は、自身の消耗が思った以上に激しいことにあった。リーゼが一撃を受けることは無いが、中のアークスは、外傷こそ少ないように見えて、どうやら傷は思ったよりも深いようだ。
「まずい……よね……このままじゃ……」
このままでは押し負けてしまう。なんとかしないといけない。アークスは思惑を巡らしながら、リーゼを動かす。
リーゼを接近させ、リーゼが手に持ったランスでストーンゴーレムに手傷を与える。ゴーレムの体には至る所にランスによる傷が出来ていて、所々にランスが深く突き刺さったことによる風穴があいている。既に出来ている傷の部分に再び一撃を浴びせても効果は薄いので、その点ではやり辛くはなっているアークスには不利な要素だ。
「でも、相手だって……」
ストーンゴーレムの方も消耗しているのは確かだ。一匹のストーンゴーレムは、首から上が無くなっていて、無事なストーンゴーレムに比べると、明らかに動きが遅い。ランスで突いた時に失敗して、思わぬ方向へとランスを突き出してしまったのが功を奏して、偶然にも首を的確に一突きしてしまったからだ。
最初に片腕を切り落としたストーンゴーレムは、首なしストーンゴーレムよりも更に動きが鈍くなっている。もう戦力に数えなくていいくらいだ。
気を付けるべきは、もう一匹。どこの部位も欠損していないストーンゴーレムだ。細かな傷や、小さな貫通穴は開いているものの、大きな傷は与えられていない。アークスの消耗具合と比較すると、かえってストーンゴーレムの方が動きが良くなっているくらいだ。
「あれを何とかしないといけないよね……」
深手を負っていないストーンゴーレムは、それでも動きは鈍っている筈で、現に動きは鈍く見える。しかし、それ以上の速度でアークスの疲労は蓄積され、意識は混濁していく。せめて、どこかに深い傷を与えられさえすればと、アークスは考える。そうすれば、あとは今まで通りにじわじわとダメージを与えてゆけば、ストーンゴーレムの中の魔力は尽き、動きが止まって、ただの岩と化すだろう。
「……」
アークスのリーゼがじりじりと間合いを調節する。手負いの二体のストーンゴーレムとの距離を離しつつ、傷の浅いストーンゴーレムとの距離を、徐々に詰める。
「まだ……もう少しだ……」
こちらの消耗を考えた場合、相手は相対的に、最初よりも素早いと考えるべきだ。だとすれば、更に注意深く間合いを計り、攻撃する時にも素早くヒットアンドウェイをする必要がある。
アークスが、間合いを注意深く意識しながら、更に位置調節をする。この一突きで、勝負の明暗は分かれるだろう。一番の勝負どころだ。しくじったら、負ける。
「――今……! はぁぁ!」
最高のタイミングを計ったアークスが、一気にブースターの出力を上げた。この一撃を、他のストーンゴーレムが妨害できる余地は無い。アークスの目には、他の二匹のストーンゴーレムの様子も見られるからだ。
他の二体のストーンゴーレムが見える位置にあって、ランスの一撃を確実に決められる距離に、傷が浅いストーンゴーレムを捉える。アークスは絶妙な位置関係を見逃しはしなかった。
「いける……!」
遠くも無く、近くも無く、相手の右膝を確実に狙えてかつ、その中で最大限に離れた距離。すなわち、ストーンゴーレムに起死回生の一撃を確実に加えられ、万が一のために離脱も考えた最適な距離。アークスのリーゼは、その距離から、ランスの一撃を放つ。
「……!?」
最適な位置関係、最適な距離からランスの一撃を放ったアークスに聞こえてきたのは、ストーンゴーレムの膝が切断される音ではなかった。アークスに伝わったのは、ガチッという鈍い音と、リーゼが急停止する衝撃だった。
「そんな……僕は……」
ランスの一撃は、ストーンゴーレムに受け止められていた。ランスの先端寄りの部分を、ストーンゴーレムは片手で掴んでいる。
「う……がはっ……」
アークスの口から血が飛び出る。
「そっか……僕……こんなに消耗……うあぁぁっ!」
ストーンゴーレムが、間髪入れずに攻勢に出る。アークスに接近したストーンゴーレムは、ランスを離すと同時に更に距離を詰め、ランスを持ったのとは逆の手で、リーゼの胴体に一撃、重いパンチを命中させた。
「あぐあぁぁっ!」
そのパンチは、貫通こそしないものの、リーゼの胴体深くまで食い込んだ。
ストーンゴーレムが拳を引き抜くと、リーゼの部品である、様々な形をした金属が、そこから流れ出た。
「……」
ストーンゴーレムが、更にランスを離した逆の手でパンチをする。今度は胸の部分。アークスの居るコックピットに近い部分にヒットした。
「うわぁぁぁぁ!」
ストーンゴーレムの放ったパンチによる衝撃によって、リーゼを構成する金属が、無秩序に飛び散る。それはコックピットの内部も例外では無く、様々な金属の、高速で飛び散った破片がアークスに降り注いだ。
「あ……が……」
アークスの全身に、大小様々な傷が出来る。全身を包んでいるチュニックは切り裂かれ、体中は血だらけになっている。
「ぐあ……ぼ、僕は……みんな……」
コックピットごと潰されなかったのは、不幸中の幸いだろうか。いや……どちらにしろ、結果は変わらないのかもしれない。アークスの頭には、ミニッツやマクスン、ティニー、ブリーツ、サフィー、そして魔女やミーナ。様々な人が思い浮かぶ。みんなを悲しませたくない。しかし、もうどうにもならない。アークスの意識は遠のく――。
――ボゥン!
アークスの意識を、おぼろげながらも回復させたのは、目の前で起きた爆発の音と衝撃だった。
「何だ……!?」
「おい、アークス! しっかりするぴょん! ミーナちゃんの騎士との初めての共同任務を失敗させる気ぴょんか!?」
響いてきたのはミーナの声だ。
「ミーナ……逃げてなかったのか……だめだよ……」
必死の思いで、リーゼを操作するための球体に手を置く。二つの球体に、それぞれの手を置くのでさえ、かなり苦労する。アークスは改めて、自分の体がどれだけ傷付いているのかを自覚した。
「これじゃあ、ミーナまで……」
「アークスを見殺しにして逃げたら、ミーナちゃんだって寝覚めが悪いんだぴょんよ! ……聖なる雷土の力を以て、邪なる者へ裁きを! セイントボルト!」
ミーナのセイントボルトが、ストーンゴーレムの右肘の、ランスによる攻撃で削られ、細くなった部分に命中する。それによって、ストーンゴーレムの腕は崩れ落ちた。
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