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44話「不意の訪れ」

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「あそこに……マッドサモナー……決着を……」
 サフィー達が歩く度に、白い館は少しずつ大きくなっていく。
 白い館の住人はどんな人物なのか、白い館はいつ頃に建ったのか。調べる事は山積みだ。しかし、一つ一つ消化していけば、そう時間はかからない。もしもの時は、城に戻って応援を要請すればいい。

 まず今やることは、周囲の安全を確かめる事。今すぐ重大な事柄が起こらない事が確認できれば、そう、事を急ぐこともない。じっくりとマッドサモナーを追い詰めていけばいい。
 逆に、こちらが警戒されてなければ、もう少し踏み込みたい。感づかれないようにポチに匂いを辿らせて、門の中へと入りたい。
 住人にも、玄関ででもいいので、二三、話を聞ければ尚良いが、そう上手くは事は運ばないだろう。

「キャァァァァァァッ!」
 その刹那、一同の耳に入ったのは、大きな悲鳴だ。
「えっ……」
 サフィーがただ事ではない空気を感じ、悲鳴の方を振り向く前に、別の方向でも叫び声が上がった。
「うわぁ……ぎゃぁぁぁぁぁ!」
 悲鳴の方を向いたサフィーは、目の前の光景を見て、絶句するしかなかった。

 人が、切り裂かれている。そこかしこにいるブラッディガーゴイルは、いつ現れたのかは分からない。恐らくはマッドサモナーに召喚されたのだろうが……展開が早過ぎる。

「お、おいおい……ここ、町中ですよ!?」
「ひ……人が……」
 ブリーツとドドもうろたえている。
 運悪いことにブラッディガーゴイルの近くに居た人は、ブラッディガーゴイルの鋭い爪によって、有無を言わさずに、その体を切り裂かれている。

「……非戦闘員が居るのよ!?」
 血飛沫が舞い、地面は見る見るうちに赤く染まっていく。サフィーは茫然としていた。こちらの存在に気付いていたとしても、最悪、マッドサモナーを追ってこの町に来たと分かったとしても、まさか、こんな形で攻撃を仕掛けてくるとは思いもしない。
 何の関係も無い、何の罪もない、何も知らないただの通行人を……しかも、自分の住んでいる町の住民の命を、こんな形で奪うなんて、米粒ほども思わなかった。

「そよぐ風、時にゆるりと吹きにけり、人の世もまた、同じものなり……ブリーズクリンキング!」
 ブリーツの手から放たれた風は、透明なうねりを伴って、周囲のブラッディガーゴイルへと向かっていき、ブラッディガーゴイルを包んだ。
「グォォ!」
 ポチが、ブリーツのブリーズクリンキングを受けて動きが鈍ったブラッディガーゴイルのうちの一体に向かって猛進し、跳躍する。
 ブラッディガーゴイルは、そんなポチを見て爪を振り上げたが、その爪が振り下ろされるよりも、ポチがブラッディガーゴイルの懐深くへと入る方が早かった。
 ブラッディガーゴイルの胴体は、ポチの爪によって深く切り刻まれた。
 ブラッディガーゴイルは、既にポチの居なくなった空間に向かって爪を振りおろしながら、地面に倒れた。

「くっ……私は……なんて……!」
 サフィーの目に最初に留まったのは、爪に滴った血を見て満足している様子のブラッディガーゴイルだった。
「うおおおぉぉぉぉ!」
 サフィーが叫ぶ。そして、その後、一秒もしないうちに、そのブラッディゴーレムは、サフィーの二刀流の前に切り刻まれていた。

「ウォゥ!」
 ポチもブラッディガーゴイルの攻撃を素早くかわしつつ、次から次にブラッディガーゴイルを、自らの爪、そして牙で切り裂いている。
「ポチ……ぼ、僕も何か……灼熱の火球よ、我が眼前の者を焼き尽くせ……ファイアーボール!」
 ドドはうろたえながらも、ポチの後方からファイアーボールを放った。ブラッディガーゴイルに翼に命中した火球は弾け、ブラッディガーゴイルの片翼は吹き飛んだ。

「ぐおおぉぉぉ!」
 ブラッディガーゴイルは怒りの感情を含んだ雄叫びをドドの方へと放った。
「ひ……!」
 ブラッディガーゴイルは、片腕をドドの方へと向けると、手の平に橙色光が集中した。
「突風よ、同質なる理を、その鋭さに寄り切り裂きたまえ……ディナイブロウ!」
 ブラッディガーゴイルの手のひらから火球が発射されたのと同時に、ブリーツはフルキャストのディナイブロウをドドの前面に展開した。
 突如として地面から吹き上がった突風はが、ドドと火球の間を遮る。ディナイブロウは膜のように薄い風だが、その分、その頑丈さは強固だ。ディナイブロウに当たったブラッディガーゴイルの火球は一瞬にして弾かれた。

「うわ……っ!」
 ドドが、目の前で起きた爆発に驚いて大きく仰け反り、その反動で倒れて尻もちをついた。
「おっ、大丈夫か?」
 ブリーツはドドに駆け寄って、手を差し伸べた。
「あ、す、すいません」
 ドドがブリーツの手を掴み、立ち上がる。
「大体、どんだけの技量かは分かったよ。補助は出来るか?」
 ドドの手を引き挙げながら、ブリーツが言った。
「えと……まだ基本の基本なので、そういうレベルじゃないでしょうけど、攻撃と補助は大体同じくらいかなって思います」
「全体的に、さっきのファイアーボールくらいの腕前ってことか……まあまあ、サフィーがポチに斬りかかった時のウインドバリアも加味すると、確かにそんなもんかもしれないな」
「それなら、この場は私抜きでも、どうにかなりそうね!」
 サフィーが、ブリーツとドドの後ろから大きな声で言った。二人が振り向くと、サフィーは傍らに居た二体のブラッディガーゴイルに、左右のそれぞれの剣で一撃を浴びせているところだった。
「じゃあ、ここは任せたわ!」
「ええっ!? ちょっと、サフィー!」
「楽は出来ないわよブリーツ。私は館へ乗り込む!」
「マジか。一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないかもしれない。でも、行くわ。このブラッディガーゴイルをどうにかするには、こいつらを召喚している奴をどうにかする必要がある。そして、そいつは十中八九、この館に居るでしょう」
「まあ……普通に考えれば、そうなるわな」
「だから、私が行く! 単独行動なら、戦士の出番なんだから!」
「お、おいサフィー!」
 ブリーツの声を無視し、サフィーは館へと走り出した。
「黒い鱗粉には気を付けろよー! 何があるか分からないんだからなー!」
「分かってるー! 本当にヤバかったら、すぐ戻ってくるわ! ここ、頼むわよ!」
 サフィーは勢いよく玄関のドアを開け、白い館の中へと入っていった。

「……行っちまったよ」
 ブリーツが、周りに居るブラッディガーゴイルを一匹一匹見回しながら、上の空で言う。
「ぐぎゃぁぁ!」
 ブリーツがうろたえていると認識したブラッディガーゴイルが、すかさずに雄叫びで威嚇する。
「おお……やっば……おいポチ、前衛はお前一人なんだからな!」
「ガゥゥ!」
 ポチが「分かっている!」と言わんばかりにブリーツを跳ね抜けて、ブリーツの背後のブラッディガーゴイルの首を噛み千切った。

「言われなくても、やる気満々ってわけね……」
 ブリーツが、やれやれといった様子で肩をすくめる。
「ドド、俺が攻撃に回るから、お前は補助に回ってくれ」
「は……はい!」
 ブリーツは、ポチとは逆方向に位置するように移動した。そのブリーツに向けて、ドドは魔法を唱える。
「風の戦士は疾風のように駆け、嵐のように攻める……シップーアッパー!」
「サンキュードド、これで立ち回り易くなるぜ」
 ブリーツの言葉に、ドドはにっこりと笑顔で返しながら、軽く会釈をした。

「さて、俺は主砲にならないとな……地を走る大火炎、それは大山おおやまをも切り裂き、大岩おおいわをも燃やすだろう……ブレイズスラッシュ!」
 ブリーツの下から、刃のように炎が噴き出て消えた。それは一瞬の現象だが、更に遠くにも炎が噴き出て消えた。炎が一瞬噴き出て消える。その現象が繰り返されて、まるで炎が地を這うように見える。
 ブレイズスラッシュは、ブレイズの直線上の、二匹のブラッディガーゴイルを切り裂いた。
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