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39話「マッドサモナーを追って」

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「えと……ちょっと左に……そう、そのまま真っ直ぐです」
 ドドがポチと御者の方を交互に見ながら声を発している。

「どうやら、この道を使ったのに間違い無さそうだな」
 ブリーツは、サフィーの顔色を気にしつつ、サフィーに声をかけた。

「最初はどうなる事かと思ったけど、そうみたいね」
 サフィーはほっと、一安心している。ホーレの森の、もう一本の匂いの跡は見つけることができた。しかし、そこから馬車は、ふらふらと蛇行を繰り返し、無秩序に動き出したのだ。道を無視するように、無秩序にふらふらと蛇行を繰り返す馬車に、サフィーとブリーツは不安になった。ポチが匂いを見失ったか、それともマッドサモナーに感づかれて匂いをかく乱されたのかと、心底気が気ではなかったのだ。

 しかし、そんな蛇行を繰り返した挙句、馬車は一本の道に沿うように走るようになった。その道が指し示す先には、一つの村がある。

「ルリエイル……?」
「ルリエイルか……何も無いとこ……だよな?」
 ブリーツはルリエイルの村について、どんな情報があったかを色々と思い浮かべたが、これといって特徴の無いのどかな村だということしか思い浮かばなかった。
「そうね。ルリエイルは穏やかで治安もいいから、ホーレ事件には無縁な村じゃないかしら」
「じゃあ、通過するんですか……外から見るだけで、なんか雰囲気のいい村だから、ちょっと寄ってみたかったけど……場所、覚えておいて、後で来ようかな」
 ドドがしみじみとルリエイルの村を見ている。

「いえ……一応、寄りましょう。こういう地味な村だからこそ、何かあったりするってこともあるわ。可能性がゼロじゃない以上、調べてみましょう」
「あ、寄るんですか」
「ルリエイルだったら、大通りは結構広いぜ。運が良ければ馬車で突っ切れるな」
「待って」
 サフィーがブリーツに待ったをかけた。
「ん……何?」
「ここからは徒歩で行くわよ。なんでかは分かるわよね」
「ああ、騎士団の馬車のままじゃあ目立つからだろ。ここまでだってそうだろうが、マッドサモナーが潜伏している村に入るとなっちゃ、どんな罠が待ち構えているか分からないから、慎重にやらないとな」
「ちが……っ! そ、そうよ。マッドサモナーがこのルリエイルに居たら、物々しい騎士団の馬車は目立つ。完璧な答えだわ……た、たまにはやるじゃない」
 ブリーツが喋るたびに突っ込む癖が付いてしまったサフィーは、今回も思わず突っ込みそうになったが、ぐっとこらえた。ブリーツの言う事で、ほぼ間違いなく正解だ。

「ん、だろうだろう。で、そもそも馬車を馬車となぜ呼ばれるようになったかだが、馬車の馬ってのは動物の馬の事じゃなくてな、バ=シャンテンさんがな……」
「はいはいそこまで。無駄な時間を食ってる場合じゃないのよ」
 サフィー馬車を降りる支度をし始めた。
「……はいはい」
「ドドも、ここからは歩きだから、準備して。ポチの分もね」
「あ、はい、分かりました」
 ドドもそそくさと支度を始める。





「へぇ、やっぱりいい村ですね、ここ。緑も多いし、魔獣にも過ごし易そうだなぁ」
 ドドが村を見回している。
「そうね。私ものどかでいい村だと思うわ。大きな村が遠いから、少し不便なのが玉に瑕だけど」
 そよぐ風に、サフィーの髪がなびく。ルリエイルは、事件も比較的起こらない、治安の良い村だ。なので、騎士団の仕事をしているサフィーも、あまり来ることのない村だ。
 とはいえ、ドドの言うように、緑が豊富だ。このルリエイルは、丈の低い草の覆われた草原の中にありながら、ルリエイルの村中や周りには背の高い常緑樹が植えられている。その中には個人で木の実を育てるために植えられた木もあれば、村の景観を良くしたり、日陰を作るために公的に植樹された木もある。様々な要因がプラスに働いて、結果的に住み心地の良い村になったのかもしれない。

「なー、腹、減らないか?」
 ブリーツが唐突に口を開いた。マッドサモナーを追っている最中だというのに、緊張感の全く無いブリーツを、サフィーは見ているだけで自然と腹が立ってきてしまう。
 この場合は、もし、この村にマッドサモナーが居たとしたら、マッドサモナーを追っていると思わせてはいけないので、ブリーツのようにボケーとした様子で歩くのも、それはそれでアリなのだが……どうにもイライラとして仕方がないのだ。

「あ、そうですね。お腹空きましたね。ポチもお腹、空いたかい?」
 ドドが歩きながらポチの背中を撫でている。
「食事代は騎士団で出すわ。こちらの都合で、こんなことさせてるんだし」
「そうなんですか……なんだか申しわけないですけど」
「いえ、これくらい当然よ。でも、食事は後にしましょうか。この村を端から端へ歩くのに、そう時間はかからないから」
「ああ、そうですね。きりのいいところで休んだ方が、捗りますもんね」

「お前……イエスマンだなぁ」
 何でも納得するドドに、ブリーツは少し呆れ気味だ。
「違いますよ。僕はサフィーさんの言う事、尤もだと思ってるから頷いてるんですよ」
「そうなのか? まあ、お前がそう言うんじゃ、そうなんだろうなぁ……お前、正直そうだもんなぁ……」
 ドドの澄んだ瞳を見ながら、ブリーツはため息を一回ついた。
「俺は今すぐ休みたいんだけどなぁ、足も棒になってるし、腹も減ってふらふらだぜぇー」
 ブリーツが突然よろめく。
「そんなわざとらしい千鳥足しなくてもいいのよ。もう少しくらい我慢できるでしょ。大体、馬車から降りてからだって、そんなに経ってないし、その馬車の中で移動しながら、軽食も食べたでしょうに」
「ん……そ、そういえば」
「サボることばっかり考えてるんじゃないの。ほら、ポチなんて、まだ一生懸命マッドサモナーの跡を追ってるんだから」
 サフィーがブリーツにも分かるように、視線でポチの方向を示した。ポチは相変わらず鼻をクンクンさせて、地面の方を向きながら歩いている。

「サフィーと同じで不愛想な真面目君だよな、お前も……。よう、歩き通しの嗅ぎ通しで疲れてないのか?」
 ブリーツがポチに自分の顔を近づけながら、そんな事を言ったが、ポチはそれを無視するかのように、淡々と地面の匂いを嗅ぎながら進んでいる。
「ブリーツに構ってられないってよ。私もポチと同じ、不愛想な真面目君だから分かるのよ。ね、ブリーツ?」
「うおっ……何だこのアウェー感は……おい、お前もあんまり真面目過ぎると、サフィーみたいに頭がガチガチのグチグチばばあになっちゃうんだぞぉ?」
 ブリーツが、何かおどろおどろしいものを表すかのような口調でポチに言う。

「酷い言い草ね。頭がガチガチのグチグチばばあとか……てかさ、ブリーツ。それ、ポチを利用して、遠回しに私の悪口を言ってるんじゃないでしょうね?」
「えっ……やばっ……バレ……い、いえ。そんなことはございませんことよ? おほほほ……」
「今、バレって言ったし、口調も動揺しておかしなことになってる! ブリーツ!」
「ひーっ! ごめんなさい! サフィー様~!」
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