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27話「魔女と親しくなった男」
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「あれ……?」
目の前に広がる光景に、アークスは少しびっくりした。
魔女の依頼をこなすため、アークスはいつものように魔女の住処へと来ていた。アークスは、お馴染みの陰鬱な雰囲気の魔女の住処周辺を通り、地肌が剥き出しの、ほら穴のような住居の中へと入った。そこまではいつもと同じだったのだが……アークスは、いつの間にやら、いつぞやの豪華な部屋の中へと入っている。
「……?」
きょろきょろと辺りを見渡す。ごつごつした岩肌が剥き出しの所から、一転して木目調のシックな部屋になった。この光景は、どうにも信じ難い。
「お、来たかアークス」
部屋の奥にある、やはり木目調で、取っ手の装飾も凝っている扉から現れたのは、分厚い本を持った魔女だ。部屋は豪華絢爛なのだが、本人の服はヨレヨレのバトルドレス着っぱなしというのは何故なのだろうか。急な来客の時に、ここのことを悟らせないためなのか、それとも、やっぱりただズボラなだけなのだろうか。
「ああ、奥の部屋へ入ってくれ。一応、大きめの机とか椅子とか用意したからな。ちょっと急造りかもしれんが、我慢してくれ。なにしろこんなに大勢をここに招くのは久しぶりなものだからな、慣れてないんだよ」
「大勢……ですか」
アークスは少し戸惑った。依頼書には、アークスとミーナの二人の事しか書かれていない。これは騎士団への依頼なので、それ以外の人は部外者となる。大勢の部外者と行動するとなると、さすがにそのまま受けるわけにはいかなくなる。
「ん……ああ、済まんな。アークスには大勢とは言わないのかもしれないな」
魔女は、少し考えた後で答えた。
「いや、私にとっては大勢なんだよ。アークスとミーナ、そして私の三人だけだ。そうだよなぁ、三人は大勢ではないな。私はそもそも人付き合いが好きではないからこういう生活をしてるんだ。だからここに人も呼ばないし、そもそも隠しているだろう?」
「ええ……そうですね」
なるほど、魔女の中での基準では大勢だったのかと、アークスはなんとなく納得したが、やっぱり別の意味で戸惑って、少し気持ちが乱れている。確かに魔女は浮世離れしているが、これほどなのは、ちょっと異常過ぎると思う。
「ミーナが弟子になったのも、ごく最近のことだしなぁ。そのミーナも、ここに入ることはそんなにないし。ここを知っているような客人も、そんなに来ないしな。三人でこうやって落ち着いて話すのは、何年ぶりだろうか。んー……そもそもそんなことがあったのかも分からんなぁ……」
「はぁ……」
アークスが、ポカンと口を開けている。開いた口が塞がらない状態とは、まさにこのことだ。どうやら魔女は本当に、ずっと人と会わない生活を、そして、人と会う必要の無い生活をしていたらしい。そのことを考えると、この妙な正確にも、着っぱなしでくたびれきったバトルドレスにも納得がいく。
「……」
僕は魔女の弟子であるミーナとペアを組むことになった。この状況から推測すると、今後もミーナと行動する機会は少なくないだろう。となると、ブリーツやサフィーの言った「魔女と親しくなった」ということについては当たっているのかもしれない。
少なくとも、魔女はこの真の住処に僕を招き入れ、僕に弟子を任せている。
親しい人の助言ならば、魔女は少しは聞き入れるだろうか。魔女にとってだって、こんな孤独な生活をして、人からも好かれないのは不幸ではないのか。身だしなみもきちんとして、一緒に町へと遊びに行くことは出来ないだろうか。
魔女の今までを知り、魔女と親しくなったことを実感したアークスは、ふと、そんな事を思った。
「おい、アークス。いつまでそんな所でボーっとしてるんだ? 折角私が椅子を用意したんだから、どうせなら座ってボーっとしろよ」
魔女の手の中に、いつの間にか分厚い本が数冊増え、その上には巻物が二本、片手の指の間には数本の瓶が挟まっている。両手で本を持っているだけならなんとも思わないのだが、指の間に挟んでいる瓶は、少し油断したら落ちて割れてしまうのではないかと、アークスは不安に思った。また、その上でグラグラと揺れている巻物は今にも落ちそうで、そちらも不安だ。
「ん……」
ふと、アークスは気付いた。巻物の一つは変色しているが、もう一つは比較的白い。保存状態が良かったのか、新品なのかは分からないが、こうして並べて見てみると、随分と差があるものだ。
「……あ、持ちますよ。そんなにいっぺんに運んじゃ、危ないですよ」
巻物をまじまじと観察している場合ではなかった。アークスはそう思って、小走りで魔女の近くへと駆け寄った。
「ん……手伝ってくれるのか? すまんなぁ、人に見せる資料を用意するのも久しぶりだから。本当に慣れてなくてな……」
「いえいえ、困ってる人を助けるのが騎士の務めですから」
アークスは、魔女の指の間にぶら下がっている、危うい数本の瓶と、本の上でグラグラ揺れて、見るからに落ちそうな二本の巻物を手に持った。
「真面目だなぁ。お堅い騎士殿の中でも特に真面目だ。いや、私の方が疲れてしまいそうだ」
魔女はふるふると首を振りながら、隣の部屋の中へ入っていった。
確かに、同僚からも真面目過ぎると言われる時はあるが、魔女の場合はゆるすぎるんじゃないかと思いながらも、アークスも魔女に続いた。
目の前に広がる光景に、アークスは少しびっくりした。
魔女の依頼をこなすため、アークスはいつものように魔女の住処へと来ていた。アークスは、お馴染みの陰鬱な雰囲気の魔女の住処周辺を通り、地肌が剥き出しの、ほら穴のような住居の中へと入った。そこまではいつもと同じだったのだが……アークスは、いつの間にやら、いつぞやの豪華な部屋の中へと入っている。
「……?」
きょろきょろと辺りを見渡す。ごつごつした岩肌が剥き出しの所から、一転して木目調のシックな部屋になった。この光景は、どうにも信じ難い。
「お、来たかアークス」
部屋の奥にある、やはり木目調で、取っ手の装飾も凝っている扉から現れたのは、分厚い本を持った魔女だ。部屋は豪華絢爛なのだが、本人の服はヨレヨレのバトルドレス着っぱなしというのは何故なのだろうか。急な来客の時に、ここのことを悟らせないためなのか、それとも、やっぱりただズボラなだけなのだろうか。
「ああ、奥の部屋へ入ってくれ。一応、大きめの机とか椅子とか用意したからな。ちょっと急造りかもしれんが、我慢してくれ。なにしろこんなに大勢をここに招くのは久しぶりなものだからな、慣れてないんだよ」
「大勢……ですか」
アークスは少し戸惑った。依頼書には、アークスとミーナの二人の事しか書かれていない。これは騎士団への依頼なので、それ以外の人は部外者となる。大勢の部外者と行動するとなると、さすがにそのまま受けるわけにはいかなくなる。
「ん……ああ、済まんな。アークスには大勢とは言わないのかもしれないな」
魔女は、少し考えた後で答えた。
「いや、私にとっては大勢なんだよ。アークスとミーナ、そして私の三人だけだ。そうだよなぁ、三人は大勢ではないな。私はそもそも人付き合いが好きではないからこういう生活をしてるんだ。だからここに人も呼ばないし、そもそも隠しているだろう?」
「ええ……そうですね」
なるほど、魔女の中での基準では大勢だったのかと、アークスはなんとなく納得したが、やっぱり別の意味で戸惑って、少し気持ちが乱れている。確かに魔女は浮世離れしているが、これほどなのは、ちょっと異常過ぎると思う。
「ミーナが弟子になったのも、ごく最近のことだしなぁ。そのミーナも、ここに入ることはそんなにないし。ここを知っているような客人も、そんなに来ないしな。三人でこうやって落ち着いて話すのは、何年ぶりだろうか。んー……そもそもそんなことがあったのかも分からんなぁ……」
「はぁ……」
アークスが、ポカンと口を開けている。開いた口が塞がらない状態とは、まさにこのことだ。どうやら魔女は本当に、ずっと人と会わない生活を、そして、人と会う必要の無い生活をしていたらしい。そのことを考えると、この妙な正確にも、着っぱなしでくたびれきったバトルドレスにも納得がいく。
「……」
僕は魔女の弟子であるミーナとペアを組むことになった。この状況から推測すると、今後もミーナと行動する機会は少なくないだろう。となると、ブリーツやサフィーの言った「魔女と親しくなった」ということについては当たっているのかもしれない。
少なくとも、魔女はこの真の住処に僕を招き入れ、僕に弟子を任せている。
親しい人の助言ならば、魔女は少しは聞き入れるだろうか。魔女にとってだって、こんな孤独な生活をして、人からも好かれないのは不幸ではないのか。身だしなみもきちんとして、一緒に町へと遊びに行くことは出来ないだろうか。
魔女の今までを知り、魔女と親しくなったことを実感したアークスは、ふと、そんな事を思った。
「おい、アークス。いつまでそんな所でボーっとしてるんだ? 折角私が椅子を用意したんだから、どうせなら座ってボーっとしろよ」
魔女の手の中に、いつの間にか分厚い本が数冊増え、その上には巻物が二本、片手の指の間には数本の瓶が挟まっている。両手で本を持っているだけならなんとも思わないのだが、指の間に挟んでいる瓶は、少し油断したら落ちて割れてしまうのではないかと、アークスは不安に思った。また、その上でグラグラと揺れている巻物は今にも落ちそうで、そちらも不安だ。
「ん……」
ふと、アークスは気付いた。巻物の一つは変色しているが、もう一つは比較的白い。保存状態が良かったのか、新品なのかは分からないが、こうして並べて見てみると、随分と差があるものだ。
「……あ、持ちますよ。そんなにいっぺんに運んじゃ、危ないですよ」
巻物をまじまじと観察している場合ではなかった。アークスはそう思って、小走りで魔女の近くへと駆け寄った。
「ん……手伝ってくれるのか? すまんなぁ、人に見せる資料を用意するのも久しぶりだから。本当に慣れてなくてな……」
「いえいえ、困ってる人を助けるのが騎士の務めですから」
アークスは、魔女の指の間にぶら下がっている、危うい数本の瓶と、本の上でグラグラ揺れて、見るからに落ちそうな二本の巻物を手に持った。
「真面目だなぁ。お堅い騎士殿の中でも特に真面目だ。いや、私の方が疲れてしまいそうだ」
魔女はふるふると首を振りながら、隣の部屋の中へ入っていった。
確かに、同僚からも真面目過ぎると言われる時はあるが、魔女の場合はゆるすぎるんじゃないかと思いながらも、アークスも魔女に続いた。
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