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8話「魔女のもとへ」
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「ん……パックが嫌そうにしてたのも頷けるよな、これじゃ……」
魔女の住処にやってきたアークスは、少したじろいだ。アークスは、何度かこの魔女の住処に任務で来た事があるが、家とは思えない見た目の住処と、その周りの荒れ果てた光景が、独特な不気味な雰囲気を醸し出している。
アークスの目の前には、住処とはいえないほどの見た目の魔女の住処がある。人というよりは、野生の動物が住んでいるような、山の岩肌をくり抜いただけのほら穴だ。形だけの木の扉は入口にあるが、それも所々腐食していて、穴が開いている。扉の役割を果たせるとは思えないほどの、ボロボロの外観だ。
周りは草や木に囲まれている。アークスは、自然が多いところを好んでいるので、気分転換にはよく草原だとか花畑に陣取って横になる事が多い。しかし、アークスは、この雰囲気が異常だと感じる。どことなく、全体的に精気が無いように感じるのだ。何故だかは分からない。もしかしたら、所々に生えている紫色のシダ植物や、髑髏のような外観をした実を実らせている木などを不気味に感じるのかもしれない。が……アークスには、それらとは違う原因で、こんな気味の悪さを感じるのだと思えた。勿論、これにも理由は無いが……。
「こうしていてもしょうがないよね……」
アークスは、ここに来ると、ついつい、何故、ここはこんなに不気味な雰囲気を纏っているのだろうと不思議がるのだが、何回考えても分からない。そのうち慣れるだろうと思っていたが、不思議な事に、今に至るまで、この嫌悪感が抜けたことはない。
アークスが一歩前に踏み出す度に、周りで何かがざわついている気がする。子供の時、森が不気味で、夜、暗い時には森の方へ視線を向けないようにと必死になった覚えがあるが、感覚としては、あんな感じかもしれない。入口に一歩、また一歩と近づく度に、得体の知れない、ある種、恐怖感に近い感覚に苛まれるのだ。
「うーん……これじゃあ誰もやりたがらないよな……」
アークスは、つくづく思った。この雰囲気がどうしても駄目だという人は、フレアグリット騎士団の中には多い。マクスン准将は、任務の選り好みをしていたら、いざという時に困ると言って、度々その姿勢を直そうとしているが、それでも嫌がる人は嫌がっている。
もう一つの理由は、任務の内容が退屈だからだ。お使いだとか、誰かの代役だとかで、魔女にも出来るだろうことを騎士に頼んでくるのだ。
上昇志向の強い騎士は、真っ先にやり甲斐のある仕事を選び、プライドが高い騎士ならば、例えこの仕事が余っていても、引き受けるのを拒むだろう。それに加えて、この近寄りがたい雰囲気があるのである。更に、ここに住む魔女と言われる人は口が悪いし、性格の方もあまり良く思われていない。そんな人が雑用を頼んでくるのだから、誰も、あまりいい気はしない。
勿論、騎士に依頼をするにもお金がかかるので、普通ならば、そんな誰でも出来るようなことに、騎士は任務で赴かないはずなのだが……どういうわけか、魔女は自分でした方が早くて割安な事も、騎士に頼んでくる時がある。なので、こうやって、半ば罰という形で引き受け手を探しているのだ。
「それにしてもボロいなぁ。騎士団に依頼するお金があるなら、扉くらい新しくしたらいいのに」
入口の前に着いたアークスは、眉をひそめて目の前の扉を見た。ボロボロの木製扉に付けられているドアノブは、金属製の輪になっている。勿論、それも、すっかり錆びているので、ざらざらで、赤茶けている。
手が錆びだらけになりそうなので出来れば触りたくないが、このドアを開けなければ任務が出来ないので、仕方がない。アークスはドアノブに手をかけ、扉が壊れないように、そーっと引いた。
ドアは「ギギギ」と鈍い音を放ちながらアークスの手に引かれるまま、開いていく。
「……」
アークスが、扉から中の様子をうかがう。中は相変わらず薄暗く、ジメジメとしていて湿っぽい。そんな崖下をそのままくり抜いたような洞窟が魔女の住処なのだ。魔女の住処などと、半ば蔑称のように呼ばれるのも無理は無い。とても人が住めないような、家とは言えない所なので、街の人々には魔女の家ではなく、住処と呼ばれているのだ。
「居るな……」
奥にはランプの光に照らされた岩肌が見えている。道は一本道だが歪曲しているので、完全に奥までは壁に隠れていて見えないが、どうやら魔女は居そうだ。今までの経験上、あの奥のランプが点いていた場合は、魔女が居ることが多いと判断できる。
「魔女さーん、ご依頼の件で伺いましたー!」
アークスが叫ぶ。魔女と呼ぶのは軽蔑しているからではない。心の底から軽蔑して、悪意をもって呼んでいる人も、街の人の中には少なくないが、アークスは違う。
アークスや、他の騎士達は、最初は名前で呼んでいたのだが、どうやらその名前が人によって統一されていないということが分かった。アークスの時はエイリスで、別の騎士、サフィーの時はパトクリス、ブリーツの時はヴォルフトゥングだったか。
そんな感じで、名前が統一されず、このままでは、さすがにやりづらいという意見で一致した騎士団は、本当の名前を魔女に迫った。しかし、魔女は、それならば魔女でいいと言った。それからは、魔女の呼び名は、そのまま魔女で統一されている。
「おう! こっちまで入ってきていいぞー!」
奥から魔女の叫び声が聞こえる。入ってきていいといったって、いつも自分から出てきたことは無いじゃないかと、アークスは思いながら、奥へと進む。
ここの入口付近は、明日もあまり良くなく、アークスは時折ふらつきながら、魔女の住処の奥へと向かった。
魔女の住処にやってきたアークスは、少したじろいだ。アークスは、何度かこの魔女の住処に任務で来た事があるが、家とは思えない見た目の住処と、その周りの荒れ果てた光景が、独特な不気味な雰囲気を醸し出している。
アークスの目の前には、住処とはいえないほどの見た目の魔女の住処がある。人というよりは、野生の動物が住んでいるような、山の岩肌をくり抜いただけのほら穴だ。形だけの木の扉は入口にあるが、それも所々腐食していて、穴が開いている。扉の役割を果たせるとは思えないほどの、ボロボロの外観だ。
周りは草や木に囲まれている。アークスは、自然が多いところを好んでいるので、気分転換にはよく草原だとか花畑に陣取って横になる事が多い。しかし、アークスは、この雰囲気が異常だと感じる。どことなく、全体的に精気が無いように感じるのだ。何故だかは分からない。もしかしたら、所々に生えている紫色のシダ植物や、髑髏のような外観をした実を実らせている木などを不気味に感じるのかもしれない。が……アークスには、それらとは違う原因で、こんな気味の悪さを感じるのだと思えた。勿論、これにも理由は無いが……。
「こうしていてもしょうがないよね……」
アークスは、ここに来ると、ついつい、何故、ここはこんなに不気味な雰囲気を纏っているのだろうと不思議がるのだが、何回考えても分からない。そのうち慣れるだろうと思っていたが、不思議な事に、今に至るまで、この嫌悪感が抜けたことはない。
アークスが一歩前に踏み出す度に、周りで何かがざわついている気がする。子供の時、森が不気味で、夜、暗い時には森の方へ視線を向けないようにと必死になった覚えがあるが、感覚としては、あんな感じかもしれない。入口に一歩、また一歩と近づく度に、得体の知れない、ある種、恐怖感に近い感覚に苛まれるのだ。
「うーん……これじゃあ誰もやりたがらないよな……」
アークスは、つくづく思った。この雰囲気がどうしても駄目だという人は、フレアグリット騎士団の中には多い。マクスン准将は、任務の選り好みをしていたら、いざという時に困ると言って、度々その姿勢を直そうとしているが、それでも嫌がる人は嫌がっている。
もう一つの理由は、任務の内容が退屈だからだ。お使いだとか、誰かの代役だとかで、魔女にも出来るだろうことを騎士に頼んでくるのだ。
上昇志向の強い騎士は、真っ先にやり甲斐のある仕事を選び、プライドが高い騎士ならば、例えこの仕事が余っていても、引き受けるのを拒むだろう。それに加えて、この近寄りがたい雰囲気があるのである。更に、ここに住む魔女と言われる人は口が悪いし、性格の方もあまり良く思われていない。そんな人が雑用を頼んでくるのだから、誰も、あまりいい気はしない。
勿論、騎士に依頼をするにもお金がかかるので、普通ならば、そんな誰でも出来るようなことに、騎士は任務で赴かないはずなのだが……どういうわけか、魔女は自分でした方が早くて割安な事も、騎士に頼んでくる時がある。なので、こうやって、半ば罰という形で引き受け手を探しているのだ。
「それにしてもボロいなぁ。騎士団に依頼するお金があるなら、扉くらい新しくしたらいいのに」
入口の前に着いたアークスは、眉をひそめて目の前の扉を見た。ボロボロの木製扉に付けられているドアノブは、金属製の輪になっている。勿論、それも、すっかり錆びているので、ざらざらで、赤茶けている。
手が錆びだらけになりそうなので出来れば触りたくないが、このドアを開けなければ任務が出来ないので、仕方がない。アークスはドアノブに手をかけ、扉が壊れないように、そーっと引いた。
ドアは「ギギギ」と鈍い音を放ちながらアークスの手に引かれるまま、開いていく。
「……」
アークスが、扉から中の様子をうかがう。中は相変わらず薄暗く、ジメジメとしていて湿っぽい。そんな崖下をそのままくり抜いたような洞窟が魔女の住処なのだ。魔女の住処などと、半ば蔑称のように呼ばれるのも無理は無い。とても人が住めないような、家とは言えない所なので、街の人々には魔女の家ではなく、住処と呼ばれているのだ。
「居るな……」
奥にはランプの光に照らされた岩肌が見えている。道は一本道だが歪曲しているので、完全に奥までは壁に隠れていて見えないが、どうやら魔女は居そうだ。今までの経験上、あの奥のランプが点いていた場合は、魔女が居ることが多いと判断できる。
「魔女さーん、ご依頼の件で伺いましたー!」
アークスが叫ぶ。魔女と呼ぶのは軽蔑しているからではない。心の底から軽蔑して、悪意をもって呼んでいる人も、街の人の中には少なくないが、アークスは違う。
アークスや、他の騎士達は、最初は名前で呼んでいたのだが、どうやらその名前が人によって統一されていないということが分かった。アークスの時はエイリスで、別の騎士、サフィーの時はパトクリス、ブリーツの時はヴォルフトゥングだったか。
そんな感じで、名前が統一されず、このままでは、さすがにやりづらいという意見で一致した騎士団は、本当の名前を魔女に迫った。しかし、魔女は、それならば魔女でいいと言った。それからは、魔女の呼び名は、そのまま魔女で統一されている。
「おう! こっちまで入ってきていいぞー!」
奥から魔女の叫び声が聞こえる。入ってきていいといったって、いつも自分から出てきたことは無いじゃないかと、アークスは思いながら、奥へと進む。
ここの入口付近は、明日もあまり良くなく、アークスは時折ふらつきながら、魔女の住処の奥へと向かった。
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