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1章

第4話 夕方

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鉄板焼きの鉄郎!は、夕方もそれなりに忙しい。


鉄板焼きの鉄郎!では、夕方はクレープやたこ焼きなども作っていて、学校帰りの高校生が、結構来るのだ。


この鉄板焼きの鉄郎!は元々たこ焼屋で、その当時の客との別れを惜しんだ爺さんが、たこ焼き屋と鉄板焼きやを両立させたのだ。



座敷席にはいつも演劇部の女子高生たちが占拠していた。


この女子高の演劇部は、ここの婆さんのすっごい後輩にあたる訳で、ゆえに特別扱いをしなくてはならない相手なのだ。


でも、ぼく的には排除したい。

だってこいつら8人で、たこ焼き1パックしか買わないんだもの。

それで2時間オーバーの滞在時間。


代々この演劇部は座敷席を放課後のたまり場にしていて、迷惑なのだ。

そして、婆さんの指令で、この演劇部員専用カルピスボトルがキープされている。

お値段は無料だ。

「ファントム、カルピスおかわり!」

演劇部員が言った。


そしてぼくは、こいつらに【ファントム】と呼ばれている。

ファントム、怪人。

あまり良い意味じゃないのだけれども。


「はいはい」

「はいは一回!」

「はい」

「バイトだからって、仕事をなめないの!」

演劇部の部長が、ぼくをたしなめた。


この部長は苦手!ぼくは部員じゃないつうの!


それにこの部長、中学の時の陸上部のキャプテンに雰囲気が似ている。

身体つきも、長距離系のぼくと違い、短距離系の身体つきだ。

ふくらはぎが陸上部の短距離系だ。


あのキャプテンにはよく怒られた。


短距離系の演劇部長は、座敷席を離れ、カウンターに座った。

そして、

「なんかさ、永井さんって、冒険心が足りないんだよね」

「バイトに冒険心なんて必要?」

「生き方には必要」

そもそもぼくは漂流者だ。

冒険者とは違う。


そこに環琉ちゃんが帰ってきた。

なんと女子大生のお友達を連れて!


環琉ちゃんとお友達が、カウンター席に座ったので、演劇部長はガラスの水差しを手にすると、座敷席に戻って行った。


あの演劇部長、ほっとくと冒険者な生き方を語りだす。

漂流者のぼくに、きっとラノベとかゲームのし過ぎだ。


さて、環琉ちゃんが女子大生のお友達を連れてきた件だ。


これはどういう事だ!

ぼくの好感度が上がったって事?


「良い店じゃん!」

と環琉ちゃんのお友達の好感度は高そうだ。

お友達は優しそうで、きっといい人に違いない。


環琉ちゃんとお友達は、カウンター席に座った。


カウンター席!

これがどういう意味なのか?

ぼくの思考回路はフル回転で思考した。


お友達は、メニューを少しだけ確認すると、

「えーと、ブルーベリークリーム」

「ブルーベリークリームですね」


ぼくは環琉ちゃんの方を見つめた。

でも環琉ちゃんは、メニューのチョコバナナを指差しただけだった。

「チョコバナナですね」

ぼくは繰り返した。

もちろん反応はない。


環琉ちゃんの友達は、じーとぼくを見ると


「へええええ、いいじゃん、職人系男子って感じで、真面目そうだし」

ぼくがちょっと照れると、環琉ちゃんは「調子乗んな!」って目で威嚇された。


なんでだよ!鉄郎爺さんの孫娘風情が!


「わたしはもなか、アイス最中のもなかだよ」

とお友達は自己紹介した。


【もなか】そのワードに、ぼくは小学生の頃に同じ算盤教室に通っていた子を思い出した。


あんまり面影はないが・・・ぼくはそんな意味を込めて、もなかちゃんに視線を送ったが、もなかちゃんは「?」って顔をしただけだった。


まあ、そうだろう。算盤教室はここからかなり離れた街にある。


ちょっと長い事、もなかちゃんと視線を交わしてたら、また環琉ちゃんは「調子乗んな!」って目で威嚇された。


なんなんだよ!鉄郎爺さんの孫娘風情が!


と思いながら、クレープを焼き始めた。

環琉ちゃんともなかちゃんは、その工程を直視しながら、ひそひそと会話を始めていた。


ぼくは環琉ちゃんともなかちゃんの関係性を推理した。


もなかちゃんは、大らかで優しい雰囲気を全快で出していた。

そして、どーみてもぼっち感いっぱいの環琉ちゃん。


そんな環琉ちゃんを心配して、もなかちゃんが声を掛けたってとこかな。


環琉ちゃんは、もなかちゃんの耳元で、こそこそと話していた。

ぼく以外とはちゃんと会話するんだ。



「でも、なんで、道路に高級そうな物干し竿が落ちてたんだろう?」

もなかちゃんが言った。


高級そうな物干し竿?

何だろう?



つづく
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