『遠い星の話』

健野屋文乃(たけのやふみの)

文字の大きさ
上 下
184 / 243
10章 時の記憶

1話 俺たちって可愛いな 当然だ

しおりを挟む

自動制御モードして、機械ネズミを乗せた宇宙船は、静かに苔玉星の宇宙港に入港した。


「うん、良い宇宙港だ」


宇宙船から出ると、自慢のドローンのペガサス号に乗り込み宇宙船の外に出た。

小さいながら重力はあるらしい。

そして、ペガサス号の飛び心地は最高だ。

自然と頬が緩み笑顔が零れた。


「あれ?」

宇宙港のロビーには、誰もいなかった。

どこの宇宙港もにぎやかなモノだが、何かが動く気配すらなかった。


「なんだよ!折角来たのに!おい猫どもめ!

お前らの親友が遠くから来てやっとと言うのに!」


アルバムは、宇宙港の管制室を探した。

標識らしきものも、いっさいなかった。


大体こういう作りの宇宙港の管制室と言うのは、ある場所は大体決まっている。


「ホンマに!これだから猫は!常識ってもんが!」


アルバムはペガサス号で、それらしき管制室へ向かった。





【苔玉星宇宙港管制室】


それは苔玉星の周辺宙域に、少しずつ接近していた。


「惑星評議会案件だったら面倒だな」

あゆみは、呟いた。


管制室のモニターに、不思議な物体が映し出された。

小さな準惑星サイズの何かだ。


『太陽系のデータには記載はない。だからと言って評議会案件の可能性は否定できないが』

バイカルはそう言うと、計器がすぐに測定を開始した。


『直径約1000キロ、惑星としては小さい方か』

(ちなみに月の直径は、3474キロ)


「天然の惑星ではなく、人工口物の様に見える」

『惑星型の巨大な宇宙ステーションの類か?』


惑星の外側には大きな時計の針が見えた。

時針分針だけで、秒針は見当たらない。

この大きさだと針の長さは、500キロ近くに及ぶはずだ。

巨大過ぎる時計だ。


『無駄な事を』

「どこかの誰かが、宇宙空間からでも見える時計を作りたかったのか」

『宇宙船なら時計ぐらいあるだろうよ』

「浪漫だろ」

『費用対効果の概念がないのか』

「宇宙は広いからな、金銭感覚も様々だろう」



そんな話をしていると、管制室の扉が開き、ペガサス号に乗った機械ネズミが入って来た。


「おおおおお!猫ども来てやったぞ!にゃーにゃー喜べ!」


『ネズミが来たぞ』

「らしいな」

『にゃーにゃー喜ぶべきか?』

「喜ぶべきだな」

『にゃーにゃー』

「にゃーにゃー」

『これで良いか?』

「合格だ」


「おい!猫ども!もっと感情込めろよ!棒読みじゃね―か!」

「猫に演技力を求めんなよ」

「演技って!本音で語りあおうぜ!って言うかお前ら、宇宙港の管制室でコタツに入ってんじゃねーぞ!」

『猫と言ったらコタツだろ』

「雰囲気だ台無しだぞ!」

『コタツは良い、猫の楽園だ』




「これだからネズミは、構って欲しいのか?」

「折角遠くから来たんだから、そりゃあ構って欲しいさ」

「ネズミが猫に愛情を求めんなよ!本来なら天敵だぞ」

「天敵な関係を越えてこその愛情だ。深いだろう」

「やれやれ、じゃあ早速、構ってやるよ。この不思議な惑星は何だと思う?」


機械ネズミのペガサス号は、コタツの上に着陸した。

コタツに潜ってるあゆみとバイカルには、その姿は見えないが、絶対カッコつけながら、着陸したに違いない。


コタツの中にもそんな雰囲気が伝わってきた。

そして、機械ネズミは、知性的な目をキラリと輝かせたはずだ。

その知性はまあ信頼が出来る。


そしてコタツの上で、機械ネズミのアルバムは、説明を始めた。


「これは時計の星だな、もちろん自然に出来た星ではない。

どこかの知的生命体が、何万年以上も前に作った準惑星サイズの人工の星だ。

時計の星の表面には巨大な時計が設置されており、それゆえに時計の星と呼ばれている。星の内部は、今も多くの歯車が回っており、時計としての機能を維持している。

見た目はアンティークに見えるが、これだけの機構を何万年も持たせる技術は、相当な高度な文明でなくては不可能だ」


『しかし、俺たちって可愛いな』

「当然だ」


「猫ども、ちゃんと聞けよ!」



つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

戦争と平和

澤村 通雄
SF
世界が戦争に。 私はたちの日本もズルズルと巻き込まれていく。 あってはならない未来。 平和とは何か。 戦争は。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...