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1章

4話 捨てられた日

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涼子は、押さえつけられた状態で、子供の頃から兄に習っていた柔術で反撃を試みたが、全てかわされた。
涼子を押さえてる男の顔は、プロの匂いがした。

「刑事かやくざか?」涼子が考える間も無く、庭にまで入り込んだワゴン車に引きずり込まれた。

ワゴン車は涼子を吸い込むように乗せると、すばやく走り出した。
「静かにしろ!危害を加えるつもりは無い」
と抵抗する涼子の上半身を押さえる男が言った。


後部座席に座るもう一人の男が、涼子の下半身を押さえつけようとすると、
「いまさら!」
と涼子はその男のあごに蹴りを直撃させ、男の気を失わせた。
すると、上半身を押さえていた男が涼子の首を締め付けた。

涼子は腕を払いのけようとするが腕力の差が歴然としていて、涼子は徐々に意識を失い始めた。
「こいつは女だ・・・良次じゃない・・・どうします?」
 と涼子の首を締め付けている男が、助手席の男に言った。
助手席の男は慌てて涼子の顔を見た。そして

「紛らわしい格好しやがって、良次はどこだ?」

首を絞めている男の手が微かに緩んだ。涼子は
「知らないわよ!私はただ良次くんにノートを借りに来ただけよ。」
と意識がはっきりしないにも関わらず、一瞬で思考回路がはじき出した嘘を言った。
我ながら感心した。

助手席の男は
「ノートを借りに来た女が、なぜ2階のベランダから入る?」
 ともっともだが、
「私はいつもあそこから入ってるの」

助手席の男は涼子を見定める様に見つめた。
その視線は、涼子の心の落ち着きを奪っていく、嫌な視線だった。

助手席の男は
「こいつは何も知らん。嫌な感じがする。捨てろ」
とワゴン車のドアが開き、涼子は放り出された。
 
嫌な感じって!失礼な!

涼子は運良く、川の土手に転げ落ちた。

涼子が転がっている間にワゴン車は、姿を消した。
転がりが止まり、涼子は枯れた草地に寝転んで、今にも雨が降りそうな空を見上げた。

「なんで私があんな目に?
あんなに首絞められたらどうしようも無いじゃない。
大の男がよってたかって、卑怯者め」
枯れ草の匂いの中で呟いた。

「雨が降って、今、起こった恐怖と失望を洗い流してくれればいいのに」
涼子は思った。数分間じっと雨雲を見上げながら雨を待ったが、雨は降らなかった。
代わりに涙でも流れればいいのだが、涙も流れなかった。

涼子の思考が、現実問題を分析する様に急がしたからだ。
「いつもこれだ。ここで涙でも流せれば、可愛らしい女の子を演出できるのに」
 と自分の性格を悔やんだ。
そして涼子は現実問題を分析した。
「とりあえず・・・生まれて初めて男に捨てられた」
涼子は、1人苦笑した。



つづく



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