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8 あやかしの章

有尾族の小悪魔美少女さん。

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塔は、煙突の様に聳えていた。

その内部の梯子を、僕は昇っていた。

僕のすぐ上を昇っているのは、

有尾族の小悪魔美少女さんだ。

見上げると、目の前には、

形の良いお尻がプリンプリンと揺れていた。

小悪魔美少女さんの尻尾が、僕の頭をなでなでしていた。

尻尾は生まれたての葉っぱのように、

柔らかかった。


「塔から飛び出す時には、狙撃手に気を付けてね」

小悪魔美少女さんは、梯子を昇りながら言った。

「狙撃手?」

何の事やら、意味不明だ。

うん、少々、説明しよう。僕は、弱小劇団の劇作家。

その弱小劇団の座長に

「何かのネタになるかもしれないから、劇作家さん、行って来て!」

と言われ、訳も解らないまま、

この煙突の様な塔の梯子を昇っている最中だ。

そんな理不尽な命令、無視すればいいのだが、

この座長、女優を兼ねるだけの事あって、

とても澄んだ目と表情をしている。

そんな目で命じられると、断りずらい。


次は、葉っぱのような柔らかな尻尾が僕の頬を撫で、

有尾族の小悪魔美少女さんが、ささやく様に説明し始めた。

「夜な夜な悪さをするために、

ワルサーP38を持って、塔から飛び立つ、

私たち有尾族の悪魔を、

どこかの正義の秘密結社が、

放っておけなくなったみたいなの。」

「悪さをするために、ワルサー?

どこかの正義の秘密結社?」

「そう謎の秘密結社。

そこの秘密結社の狙撃手が、

どこかのビルから、

善良な私たち悪魔を狙ってるの。

酷い話よね。

悪魔は悪さをして、なんぼなのにね。」

「う・・・うん」

「そう、でも大丈夫、多分、彼ら、

予算の少ない秘密結社みたいだから、

そんなにいない」

「ん?・・・って、もしかして今から、

塔から飛び立つ気?」

「そうよ」

有尾の小悪魔美少女は、黒い羽を軽く羽ばたかせた。

「一緒に昇っているこの状況から、

シュミレートすると、僕も飛び立つのかな?」

「そのつもりで体験取材してるんでしょう」

「でも!僕には羽が無い」

小悪魔美少女は振り向いて

「あっホントだ、ある種の勇者なの?」

「違います!」

「でも、もう引き返せないよ。

1年に1度の儀式だから、

早くワルサーもって悪さしたいって、みんな殺気立ってるし」

そう、僕のすぐに下には、

ものすごい殺気立った悪魔達が、

梯子を昇ってきている。

そして、梯子は一つしかない。

もうすでに、ビルに相当すると、60階を超えてそうな高さだ。

「気休めかもしれないけど、

『悪は悪でも、必要悪は、生き残る』

これ私の父の信条よ。

ちなみに父は、狙撃手に撃たれて死んだわ。

必要悪になれなかった哀れな悪魔」

「完全に気休めですよ」

と僕が言ってる間にも、屋上にたどり着いてしまった。

屋上は、畳1畳ほどの広さしかない。

真夜中の空に、

この世とも思えない悲鳴が聞こえた。

きっと、だいぶ前に飛び立ったであろう悪魔の悲鳴だ。

きっと正義の秘密結社の狙撃手に撃たれたんだ。

有尾族の小悪魔美少女は、深呼吸をすると

「じゃあ先に行くね」

と言って、黒い羽を広げ優雅に飛び立った。

するとすぐに、

「おい!くそ餓鬼、早く飛べよ!下、つかえてんだ」

と背後から、怒声が聞こえた。

その直後、僕は背後の悪魔に突き飛ばされてしまった。

「えっ、マジ?躊躇なく人を突き落せる。さすが悪魔」

と思う間もなく、僕の体は急降下し始めた。

「えええええええ!」

と、何も考えられない僕の体を、誰かが掴んだ。

抱きしめたと言ってもいいかも。

あの小悪魔美少女さんだ!

僕は、小悪魔美少女さんの柔らかな胸にしがみついた。

悪魔とは思えない、優しさと柔らかさ。

「一般人のあなたを盾にしたら、

狙撃手も撃ちづらいでしょう」

小悪魔美少女さんは、そう言うと、

狙撃手がいそうな方向に僕を向けた。

一般人を盾にするなんて、

さすが悪魔・・・と思ったけど、

うん、でもいいや。

とりあえず、小悪魔美少女さんにとって僕は、

必要とされてるみたいだし、

確か、必要悪は、生き残れるんだったけ?



おしまい
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