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第十五篇第一章 篩分の門番
“仲間を護れる男”
しおりを挟む打ち上げられた様に空中にて其の身を浮かす
シャーレの姿をいち早く着地をしたリゼアは
首を上げて眺める。
恐らく、心で呟いたのであろう。
此の男は、此処で終わる男か。
はたまた、限界を超える者かを。
ダメージを軽減させても尚、シャーレの身体
に痛ましく響くリゼアの一撃。
全身の筋細胞、骨が悲鳴を上げていた。
だが、シャーレは青龍刀の柄を離さない。
彼の脳内に流れて来たのはたった一つの言葉
で在り、其の言葉は幼少期に見たシャーレに
とっての憧れの人の言葉だった。
『戦争って……怖くないの?』
幼少期のシャーレはそう問い掛ける。
『怖いさ……自分達も相手も命を賭けて来るんだ……恐怖を持たない事は強さじゃないよ。シャーレ』
『なら…どうして戦争に行くの?』
『…………大切なモノを護る為さ』
そう言ってシャーレの頭に優しく手を置いた
其の男の事をシャーレは見上げる。
『大切な……モノ?』
『ああ、自分にとって一番大切なモノは家族だよ、だから戦うんだ。恐怖を背負って…』
シャーレの脳内に流れた言葉。
其れは、募集兵として戦争へと出向き因果に
晒されて命を落としたシャーレの兄。
ルイスは死しても尚、シャーレにとって唯一
の憧れの存在であり、生きる糧であった。
誰かの為に、そう言葉に表し生きて来た兄の
存在があの当時、未だ何処かで苦しむ誰かの
為にシャーレを旅の中へと誘った。
兄の言葉、ロードの存在。
此れこそ、シャーレ・スティーバという男が
長屋町を飛び出し旅へと出向いた理由。
「………負けられない」
だからこそ、身体は限界を超える。
そして心も技術も全てがシャーレの限界値を
遥かに凌駕して行く最中で得た、覚悟の強さ
はシャーレを新たなステージへと呼び込む。
「………来たであるな」
リゼアの視線の先で空中ながら体勢を戻した
シャーレの身体が水の分身に依って増えると
五体のシャーレが青龍刀を構える。
「私は……最後まで…誰かの為に其のチカラを振るえる男を目指す……兄がそう示してくれたからだ……ッ!!」
空中からシャーレと其の分身達が青龍刀から
放った水流の斬撃は宙を彷徨い、はたまた地
を巡ってリゼアへと襲い掛かる。
特性“連撃”が施された其の斬撃の勢いたるや
凄まじくリゼアの身体を宙へと誘う。
そして、霧の様に消えた分身達の間隙を縫い
宙を舞うシャーレが青龍刀を高々と構える。
振り下ろす青龍刀と叫び声が此のリゼアとの
試練に終止符を打つのだ。
「絶技…… 飛竜演舞・舞踏閃ッッ!!!!」
遂に辿り着いた絶技の境地。
シャーレの青龍刀の叩き落としに依って体勢
を崩したまま、リゼアは鍛錬場の床に背中側
から力強く叩き付けられた。
限界を超えたシャーレの姿。
其の背にはいつまでも憧れの兄ルイスの存在
がチカラを与えてくれている。
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今なら、引き返せますよ?
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