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第十三篇第五章 生まれながらの枷
未来への慟哭
しおりを挟む「……シルヴァ……?」
ノアは、目の前の現実を真実だと受け入れる
事が出来ずに慌ててまた膝を着く。
そして、息を引き取ったシルヴァの両肩に徐
に手を置いて揺する様に声を掛ける。
「嘘だろう……シルヴァ……なあ嘘だと言ってくれッッ!!!!」
其の声に応答は、在る筈も無い。
声無き遺体は、もう口を開く事は無い。
其れが、当たり前だ。
だが、其れを目の当たりにして平静を保てる
者など、其れこそ信じ難い話だ。
其処に、漸くフロウが辿り着く。
嗚咽を漏らしながら泣き崩れるノアの背中と
笑顔のまま力の抜けたシルヴァの姿を其の目
に焼き付けると全てを理解した。
「間に合わなかったか………」
「……さっき迄は息をしていたんだ…済まん、と………ありがとう…と……泣いてくれたんだ……笑ってくれたんだ………あのシルヴァがだ……ッ!!」
ノアの両手はシルヴァの肩から崩れて落ちて
地に拳をぶつけて突っ伏している。
フロウは、ぶつける先の見つからない憤りを
抱えて強く拳を握り締める。
言葉を失った。
手に取る様に今ならシルヴァの苦悩や悩みが
其の背に重たくのし掛かっていた運命の枷が
解るだけに気持ちの整理には時間を要した。
そして、漸く口を開く。
「今から約十年程前になるか……ノアの志を俺が初めて聞いた時に……時代を変える事は此のプレジアにとって必要な薬だと思った…だがあの時、俺達は只…若いだけの夢追い人だったんだ………」
地に臥したまま、フロウの話に耳を傾ける様
に嗚咽を堰き止めながら声を拾う。
「だが、国を変えたい…其れは国に混乱をもたらす事と同義……痛みも伴うだろう。だからこそ…俺はお前と共に…坐して待つ者では無く……立ち上がる側を選んだ」
フロウは静かにノアの元へと歩み寄って行き
静かに緩りと其の肩を引き、何とか片膝まで
を付いた状態にノアを起こす。
そして、其の瞳をジッと見つめて続ける。
「俺達は未だ夢半ばだ……バルモアの王女シェリー様や…レザノフ殿等の想いすら俺達の肩に乗っている……此の悔しさ、辛さ、苦しさ…総てを背負って前を向こう…ッ…!」
「………フロウ……!」
「帝国主義を謳うプレジアに於いて…此の根幹となる政府の掲げる人権格差の中で…苦しむ者は大勢居る……シルヴァの様に其の痛みに乗じて枷を掛けられ…奴隷の様に生かされているだけの者もいるのだ……!」
独立師団革命軍の掲げる開国の意志に同義と
組み込まれて来た現体制の変換。
其れ即ち、民に自由を齎す事である。
其の為の十年、其の為の準備期間だった。
だからこそ、此のシルヴァという男の人生は
歯向かってはいけない人間が同じ人種という
中に存在してしまったからこそ起きた悲劇と
フロウは理解していた。
シルヴァの死を無駄にしない為にも彼等には
再び独立師団として立ち上がる使命が在る。
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