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第七篇第一章 雪降る氷山地帯の再会
君子豹変の様
しおりを挟む緩りと緩りとアノンは自身の肩に手を当てて
流れた血を摩擦する様に手のひらで撫でる。
穏やかに見えた其の動きの途中でアノンは
ふと眉間に皺を寄せて唇を段々と震わせた。
更に震え上がった唇と怒りを込めた眉間の皺
が更に苛烈に動き始めると穏やかに肩を撫で
上げていた手のひらが突如として痛々しく
自身の肩をバンバンと叩き始めた。
唇の震えは腕から手のひら、そして真っ赤に
染まった自身の肩にまで広がり染まる。
怒りに震えたアノンは咄嗟に腕を広げると
天を見上げて恐ろしい程の雄叫びを上げた。
其の動きに合わせて吹雪に吹かれたアノンの
長い髪が大きく揺れてほんの一瞬天に向かい
逆立つ様にも見える程に映っていた。
正に、怒髪天を衝くである。
「……おいおい…何やってくれてんだァ…?テメェはよォ…此の俺の…ッ……此の…ォ…俺のォ……ッ…身体を傷付けてくれやがってよォ!!!!」
「………主は二重人格か…?見事な変わり様だな…」
シルヴァの言葉通りであった。
冷静さが不気味さを漂わせたアノンという男
影も形も無くなり怒り狂う憤怒の獣が目の前
に現れたと表現するのが的確だろう。
震えた手で大剣を握るアノンは其の武器には
不釣り合いな細腕で其の巨躯の武器をふわり
と軽々しく持ち上げて見せる。
元よりそんな力が何処にあるのかと疑問すら
浮かべていたシルヴァだったが、そんな疑念
は今となってはどうでもいいだろう。
アノンは荒々しく左手を伸ばし手のひらを
バッと強く広げて見せるとまたもやシルヴァ
の身体を磁力のチカラで引き寄せる。
そして力強く大剣を振り下ろした。
だがシルヴァは自身の感じていた事が正解と
其の瞬間になって確信する事となった。
アノンの力強さは怒りに因って増している。
其の強さは正面からぶつかって来る力が特徴
のパワータイプには向いているだろう。
だが、シルヴァの様に速度を全面に出して
戦うスピードタイプから見れば隙が拡大した
様にも見え得意のヒット&アウェイ戦法を
用いれば此の怒り狂うアノンは敵では無い。
シルヴァはひらりと身を躱して磁力の波から
抜け出るとまたも横から肩口に小刀を向けて
同じ箇所を斬り裂こうと動いた。
だが、シルヴァの疾風のチカラを纏った攻撃
はアノンの肩口に当たるものの弾かれる。
「……成る程…」
ヒット&アウェイで距離を取ったシルヴァは
口元の布を指で直しながら何かを悟る。
「……はッ…!特性ってのは一個しか使えねェ訳じゃねェだろが…!」
勿論アノンが得意とする磁力の特性に比べる
と見劣りはするものの身体を硬化させる事は
当たり前だが同じギフトの特性である以上は
誰にでも可能な事である。
対するシルヴァも静寂の特性で音を消して
戦っている中にも疾風のギフトのもう一つの
特性である加速のチカラも発動させていた。
シルヴァにとっては仕留めるつもりで一撃を
放つべきだったと悔やみを抱えていた。
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