RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第六編第一章 一輪の花を巡って

優しさに触れて

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吐く息がとても軽く感じる。

つい先刻迄は、其の腫れ上がっていた腕の
腫れから全身に流れる痛みに覆われていた
翠色の髪の女性はふわりと楽になっていく
身体に落ち着きを覚えて身体を起こした。

時刻は真夜中。

小屋の引き戸の隙間から溢れる様に差し込む
月明かりの光に誘われる様に小屋の中の光景
に目の焦点を合わせて行った。

其処には疲れ果てて寝息を立てる見知った顔
が並んでおり、高貴な雰囲気の男性の肩に頭
をもたれ掛けて口を開けて爆睡する赤い髪の
青年の姿と其の赤い髪の青年の膝にまるで猫
の様に丸くなってむにゃむにゃと眠る少女。

翠色の髪の女性は其の光景に目を細める。

そして自身が横になっていた敷布団の真横の
壁に背中を預け膝を立てた姿で目を瞑る青い
髪の青年の姿を確認した。

そして、緩り緩りと自身の腕に目を向けて
其の女性を苦しませていた腕の腫れが消えて
いつも通りの白い細腕に戻っている事を知り
じわじわと其の瞳に涙が込み上げて来る。

混濁する意識の中でバタバタと駆けて行った
仲間達の姿が思い起こされて行き、自身の為
に皆が尽くしてくれた事を理解する。



「目が覚めたか…?」



そんな時に其の女性の傍らで目を瞑っていた
青い髪の男性から確りとした口調で声が飛び
込んで来た事で女性の視線がパッと動く。

其の男性の瞳は瞑られたまま。

だが、声は真っ直ぐに届いた。



「う、うん…。凄く身体が軽いの…眠っていた頃とは別人みたいに…」



慌てて其の女性は目から溢れそうになった
涙を気恥ずかしさに気付いた様に拭う。



「其れは、何よりさ…。良かった…元気になったみたいで…」



青い髪の男性は其の言葉と共に其の目を開き
月明かりにぼんやりと映し出される翠色の髪
の女性の姿を焼き付ける様に見つめる。



「みんなのおかげだね…。アタシのせいで凄く迷惑掛けちゃってごめんね…?」


「気にするな。生きていてくれただけで全ては丸く収まった…本当に良かった、ポアラ」



土の壁から背中を解き放つ様に身体を前方へ
傾けて青い髪の青年は毒を克服したポアラの
頭に優しく其の左の掌をポンと乗せる。



「…ありがと。シャーレ…」



拭った筈の涙が不思議と溢れる。

ポアラは声を必死に我慢しながらも小さな声
で肩を小刻みに震わせながら啜り泣く。

ポアラからの感謝の言葉が届いたシャーレは
何の躊躇すら無く、更には何の邪念すら無く
涙を溢したポアラの身体を抱き寄せる。

驚きと気恥ずかしさにビクッと身体が跳ねた
ポアラだったがシャーレの暖かい温もりに
緩り緩りと其の身体を預けて行った。



「寝てなかったの…?」


「ああ。だが此れで気持ち良く寝られるよ」



ポアラはシャーレがずっと眠らずに傍らで
見守って居てくれた事を知ると、其の優しさ
に触れて涙が止め度なく溢れ出た。
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