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第四編第一章 護国の旗を掲げる男
過去を知り紡ぐ言葉
しおりを挟む明かされたウィルフィンの過去。
ロードは返答に詰まり肩を震わせ俯く。
「…一つ俺からも訊こう…。ロードよ…貴様なら俺の立場でも命を救われた事でシェリー姫を助けようと動けたか…?」
「…わかんねぇよッ…でも。一つだけ自信持って言えるのは…相当悩んだと思う…もし、その立場だったら…」
ふいのウィルフィンの問いにロードは辛さを
醸し出しながら心の内を晒け出して行く。
「悩む…か…。成る程…だから貴様の言葉はあの時俺を立ち止まらせたのか…」
何処を理解してウィルフィンは納得に
至ったかが解らず、ロードは困惑する。
「百年前から続くバルモアとの戦争の歴史…俺達世代は何故、戦い始めたかすら知らない者も多い…」
ウィルフィンの言葉は続く。
百年前、プレジアが鎖国を始めたキッカケは
とあるプレジアでしか手に入らない資源を
完全独占する為だったと史書に記される。
兄弟、姉妹国として交友を続けて来た
バルモアは突然のプレジアの判断に怒りを
募らせ資源を巡る戦争が勃発した。
だが、時は経ち長年の戦争に因って
生み出されたのは戦禍の傷跡。
憎しみを抱く世代が増えて行ったのだ。
仇として憎み本来の目的から外れたまま
敵だと教え込まれた今の若き世代達は
当たり前の様に戦いに身を落とす。
「貴様の様に、先入観無しで思案出来る人間を俺は羨ましいと思ってしまった…。“同じ人間”…解っては居るが久方振りだったのだ…其れを改めて口にして、説教してきたヤツはな…」
「ウィルフィン…お前…」
「…だが、此れだけは理解しろ…ロード。反乱軍がシェリー姫の命を狙う事を止めるとすれば…其れは我等が総長、エルヴィスの抱える憎しみが浄化された時だ…まだ止まる事は出来ない…」
ウィルフィンはロードとの出逢いで姫の
暗殺を思い止まるだけの迷いを見せた。
だが、反乱軍の動きはウィルフィンの
一存では終わる事も止まる事も無い。
シェリーの命は未だ狙われる。
だが、ロードはウィルフィンの言葉から
一つだけ光明を得る事に成功し安堵する。
「…ウィルフィン…アンタが只の殺し屋じゃなくて良かった…。どうしてもそんなに悪いヤツに思えなかったからよ…」
「…何を…?」
「アンタが辛いだけの話したくもねぇ過去を打ち明けてくれたんだ…死に掛けた甲斐があったぜ…?ウィルフィン」
ロードは笑顔を見せる。
其の理由は一つ、解決にはなって居ないが
言葉を交わし一歩でも進む事が出来た。
其れは簡単な様でとても難しい事なのだ。
どんな絵も破る事より描く事の方が
どうしようも無く、難しい事の様に。
「…ふう…。死んでしまったら何も叶わないままだったのだぞ?」
「生きてるじゃねぇか。だから俺も止まらねぇよ…また死ぬ思いするかもしれないとしてもな…」
ロードの言葉にウィルフィンがほんの少し
笑みを浮かべて、また窓から空を見上げる。
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