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第四編第一章 護国の旗を掲げる男
反乱軍副長の憎しみの種“錯乱”
しおりを挟む処刑執行秒読みを迎えた時、アーウィンが
歯を食いしばり遂に其の口を開いた。
「皆の者ォォォ!!強く、強く生きるのだ…ッ…必ず戦争はいつか終点を迎え、明るい未来を照らす太陽がまた昇り行く…ッ…!諦めず…強くッ…強くッ…己を持ち生きろォォォ…ッッ!!」
血反吐を吐く事も厭わず喉を切る様に
叫んで見せたアーウィンに絶望の槍の鋒が
迫り来る其の瞬間に笑みを浮かべ目を瞑る。
「(誰かを憎むな…憎しみからは何も生まれない…ウィルフィン…良い男になれよ…ッ)」
処刑の槍がアーウィンの身体を貫いた。
ウィルフィンだけに向けた最期の言葉は
届く事は無い、残酷な結末を迎え処刑を
見届けた人間達は言葉にならない慟哭の
雨を降らせる様に其の場で崩れ落ちた。
「……父ちゃん…ッ…ぐっ…あ…あ…ぁぁぁぁァぁぁァァッ!!!!!」
ウィルフィンの痛ましい叫びの涙すら其の場
の異様な空気に呑まれて消えて行く。
だが、悪夢は終わらない。
「…強く生きろだァ…?」
「ゴミ屑共に与える未来は無い。皆殺しだ」
冷たく吐き捨てたバルモアの軍人達が其の場
に集まったプレジアの人間達に襲い掛かる。
悲鳴と慟哭の中、逃げ惑うプレジアの民。
「ウィルフィン…逃げろッ!行けッ…立ち止まるな…ひたすら遠くへ…遠くへ…!振り返ってはならん…ッ!!!」
爺さんの叫びにウィルフィンは頭が回らず
ただ其の場から走って逃げる事しか出来ず
背中から聞こえて来るのは民の断末魔。
ウィルフィンは降り出した雨の中で何度も
転げては泥に身体を塗れさせながら、走る。
声にならない苦痛の叫びと涙の中、山中で
ウィルフィンは初めて漆黒の風を纏わせる。
父アーウィンの怖れた未来、深い憎悪の中で
ウィルフィンはギフトを手にしてしまった。
抑えられない漆黒の風を巻き起こしながら
ウィルフィンは失意の涙を雨と同化させる。
其処に一人の男が、手を伸ばす。
「…一緒に来なさい…私達と共に…!」
目の前に伸ばされた白髪の男の其の手。
限界を迎えていたウィルフィンは其処で
ぷつんと意識を失い、其の白髪の男の手に
抱かれて山を降りて行くのだった。
此れがウィルフィンの憎しみの種ー。
撒かれた種は反乱の意志として今に至る。
窓の外を眺めながら前髪で隠れた左眼から
一滴の涙が溢れ、前髪から其の涙が頬を
伝い滴り落ちると共に物語は閉じられる。
今に戻り、ロードは開いた口が塞がらずに
肩を小刻みに揺らして頭の中で様々な言葉
を巡らせては考えて居た。
どう、言葉を発するべきか。
其れを見兼ねたウィルフィンが口を開く。
「愉しい話では無かっただろう…後悔したか…?訊いた事を…」
「…ッ…い、いや…悪ィ…辛い話させちまったな…」
ロードは自信を失って居た。
自分が其の立場だったら関係無いと言えど
シェリー達の存在を許せるのだろうか。
ロードは俯いたまま、拳を強く握り締める。
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