RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第一篇第一章 旅路の出逢い

溶けて行く疑心

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「さて。此処辺りまで来れば大丈夫でしょう。お世話になりました、お侍殿」


外套の男はとある長屋の前で立ち止まると
ふとロードを振り返り、フードを取って
顔を晒け出す。


「申し遅れました。私はシャーレ。訳あって彼等に追われておりました。僭越ながらお礼をさせてはくれまいか?お侍殿」


見た目の年はロードよりも少し上には
感じるが、余り変わらないであろう
シャーレと名乗った男は少し見上げる様に
顔を覗くロード。

ロードと同じく細身の体躯のシャーレは
長髪の青髪を後頭部で縛っておりいわゆる
ポニーテールといった髪型であった。


「お礼って。アンタが勝手に巻き込んどいてそんなの簡単に信用出来ると思うか?」


「至極真っ当な疑問。疑り深くなるのも私の行動から出た錆。致し方無しとは思うが…腹が減っては何とやら、ですぞ」


シャーレの言葉の途中に不覚にも
盛大に腹の音を掻き鳴らしたロードの
表情が一気に紅潮して行く。


「こ…これはアレだ…そ、その。なにニヤついてやがるニャロウが!」


気恥ずかしそうにニヤつくシャーレに
向かって指を差し声を張り上げるロード。

また周りから五月蝿いと苦情が
入るやもしれぬと、シャーレは近くの
自身が住む長屋へとロードを招く。

腹の音は、と変わらず気恥ずかしそうに
言い訳を繰り返すロードもシャーレからの
殺気などは感じ取れず、訳が有ったのだろう
と察した事から気が抜けたとも言える。

招かれるまま、シャーレの長屋へと
邪魔する事となったロード。

囲炉裏に竈門、畳に敷き布団と和の情緒を
感じさせる長屋でシャーレは外套を脱ぐと
風呂敷包みを横に置き、火を焚べた
囲炉裏の近くに胡座をかく。

ロードも同じ様に囲炉裏の元へ寄り
胡座をかくと、外の寒さを捨て去る様に
囲炉裏の火に手を翳していた。

鍋の中の汁物が暖まると器によそり
ロードに差し出そうとしたシャーレの手が
一度止まり、口を開く。


「信用出来なければ毒見、致しますよ」


「…いい。頂く」


自分から手を差し出しロードはシャーレの
よそった汁物を一度啜ると、後は唯何も
言わずがっつく様に掻き込んで行った。


「余程、腹が減っていたと見える。お侍殿は何方の町から?旅の新参と仰って居ましたが」


器の汁物を全て腹に掻き込み、ふうと声を
漏らすとロードはシャーレの方を見る。


「遠くから、だ。何日もまともに飯を食って無かった。ありがとう…それと。俺はロードだ」


「ロード、いい名だな。此方こそ改めて礼を言う、ロードと会えたのは強運であった。ご助力感謝する」


暖かい囲炉裏の前で二人は絆を交わした。
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