鬼人の恋

渡邉 幻月

文字の大きさ
上 下
2 / 72
鬼ノ部 其之壱 運命を覆すため我は禁忌の扉を開く

一. ハヅキとホヅミ

しおりを挟む
鬼の男の子ハヅキと人の女の子ホヅミは幼い頃から仲が良かった。本当に幼い頃からの仲なので、出会った切っ掛けも、仲良くなった理由も、もうぼんやりとして分からない。
 神々が創った人の子と亜人の中でも神々の遠縁とも云われる鬼の子、仲が悪い理由もなかったがハヅキとホヅミはひと際仲が良かった。まるで同じ胎から生まれたかのように、とは彼らの両親の言葉だった。
 緩やかな共同体でも困ることが無いせいか、集落はなんとなく同じ種族でまとまっているがお互いの交流はそれなりにあった。集落が種族ごとに分かれている理由は不仲からではなく、種族によって夜行性だったり、水辺が良いだとか山の中が良いだのという理由だったりで、ひとえに身体的特性によるものだ。

「ホヅミ、起きてるか?」
夜が明けて、しばらくすると鬼の集落からハヅキがやってくる。いつもの日課だ。
 身体能力が高く丈夫な体を持つ鬼族は狩猟が得意なこともあって森や山岳地帯に集落を持っている。対して人族は、採取をメインに簡単な農業を営むことから平地を好んで暮らしていた。
 ハヅキの一族は鬼族の中でも狩猟スキルが高いこともあり、山岳地帯に居を構えている。ハヅキの一番の友人は人族のホズミなので、毎日山を下りて平地の集落にまで遊びに来ていた。実り豊かな世界だからこそ、ハヅキやホヅミのような幼い子供は労働に従事することなく遊んで過ごすことができる。

「ん、起きてるよ。」
朝食と身支度を済ませたホヅミが、おずおずと顔を出す。
大人しく引っ込み思案な人族のホヅミと、やんちゃな鬼族のハヅキには接点が見当たらないのによく仲良くなったものだ。と、大人たちは考えている。考えてはいるが、仲が良いのなら問題はないと、放っておいているのが現状だ。
「今日は何したい?」
ホヅミが顔を見せると同時に、ハヅキはいつものように声をかける。
 仲良くなりたての頃、大人しいホヅミが何も言わないことを良いことに、ハヅキは自身の興味の赴くままに連れまわした。鬼族と人族では体力も運動能力も段違いだということを、知ってはいても理解していなかったハヅキは、ホヅミが倒れて初めてそれを思い知らされた。一時、大人たちは騒然としたが子供同士のことで危害を加えるつもりではなかったこと、ハヅキがとても反省しているのでその場は注意されただけで終わった。それからは、ホヅミに必ずどうしたいかだとか体調はどうなのかを確認するようにしたのだ。
「ん? 今日はねぇ… きれいなお花が欲しいなって。」
「花?」
「うん、お花。お隣のお姉さんがね、結婚? するんだって。おめでとうってしたいの。」
うふふ、とホヅミは頬を染めて笑う。
「ふうん? けっこん?」
「そうそう。きれいなお花、何がいいかなあ?」
「そう言えば、あっちの川の近くの広場にいっぱい咲いてたよな?」
腕を組んで考え込んだハヅキが、ホヅミに提案する。
「じゃあ、行ってみる。」
こくりとホヅミが頷ずくと、ハヅキは彼女の手を取って歩き出した。

「なあ、けっこんってなんだ?」
しばらく歩いてから、ハヅキはこっそりホヅミに聞いた。
「んん? 結婚って大人の人が家族になりましょうってお約束すること?」
ホヅミは首を傾げながら答えた。夫婦、っていうのになると新しい家族になるみたいだよ。と、続ける。
 ふうん、とハヅキは答えた。そのまま黙々と歩く姿に、何か考えてるのかな? とホヅミは彼の横顔を見ていた。

「あのさ、けっこんしたら、おれとホヅミは家族になれるのか?」
急に立ち止まって、妙に真剣な顔をしているなとホヅミが思っていると、ハヅキはそう尋ねてきた。
「ん~? そうなんじゃないかな?」
「じゃあさ、ホヅミ、おれとけっこんしよう!」
「大人じゃないと結婚できないって言ってたよ?」
「ん! 大人になったら!」
「分かったぁ。」
二人きりで、秘密の約束して、悪戯が成功した時のように笑い合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...