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再会は波乱の予感を含んでいる

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サプフィールは溜息を漏らした。訓練場の扉はもう目の前だ。
この扉を潜れば更衣室やシャワー室、訓練用の武器庫が並び通路を挟んで屋内の訓練場がある。通路を突き進めば屋外の訓練場に行き当たる。そうスピネルに説明して、扉に手をかけようとする。
「こういうのはオレの仕事だな。」
にやりと、スピネルが笑いながら扉を開ける。
…こういうことは相変わらずスマートにこなすんだな。サプフィールがスピネルの所作に感心していると、
「おや、遅かったですかね。」
開いた扉の向こう側から声がした。
 サプフィールの護衛で昨日あの酒場まで来ていた亜麻色の髪の男が立っていた。ちょうど右手を前に出しているところを見ると、こちらに向かって来ていたのだろう。
「アイザックか、どうした?」
「いえ、サプフィール様がこちらに向かっていると伺いましたのでお出向かいにと思ったのですが、遅かったようです。」
サプフィールと護衛の兵士が話しているのを眺めながら、
『なんか… こいつの笑顔は胡散臭いんだよなぁ…』
と、スピネルは考えていた。ブルネットもいい感じに好戦的過ぎたくらいだし、曲者ぞろいなんだろうかと考えを巡らせる。

「兵士長がお待ちです。」
アイザックと呼ばれた兵士の声でスピネルは我に返る。鷹揚に頷くサプフィールの姿が目に入り、領主も大変なんだろうなと二人きりの時の彼の姿との違いに昨日の自分の態度への反省やら力になりたいと言う思いやらが交錯するのだった。
 アイザックに連れられ屋外の訓練場に向かう。
「あなた、かの銀狼なのだそうですね。」
「…それが?」
「いえ、ただ血の気の多い連中の吹き溜まりですから。」
笑顔で答えになったような、ならないような言葉を返して微笑む彼に、やっぱり胡散臭ぇんだよなぁとスピネルは吐き出したくなる溜息を我慢するのだった。

「兵士長、サプフィール様と“銀狼”をお連れしましたよ。」
訓練場に到着するや否や、アイザックは大声で叫んだ。
 ここは叫ぶところなのか? と言う疑問をスピネルが口に出す前に、
「サプフィール様ご足労いただき申し訳ございません。」
とこれまた大声が返ってくる。サプフィールの様子はとスピネルは隣に視線を向けると、先ほどのように鷹揚に頷いている。
「スピネル! スピネルじゃないか! 銀狼が来るってのは本当だったんだな!」
今度はやたら近い場所で声が響いた。スピネルが視線を戻すとどこかで見たことがある顔が立っている。

「…あー。レオ、か?」
「なんで疑問形なんだよ。」
「いや、最後に見た時よりごっつくなってんじゃねぇか。」
「まあ、多少は筋肉はついたかな。…本当のところ、オレのこと忘れていただろう?」
「少しな?」
「ははは! 相変わらず口は減らないな。元気そうで何よりだ。」
周囲を置き去りに、スピネルはレオと呼んだ男と仲良さ気に語りだす。
 その様子に、近くにいた執事も困惑した表情でいる。まさか本物の銀狼だったとは。確かに、彼だけその所在がはっきりしていなかったことは知ってはいたが。まさか、本当にゴロツキ紛いのこの男が銀狼だったとは。とかなんとか考えているんだろうな、とスピネルは青褪める彼の顔を見て勝手に心の内を想像する。

「兵士長… お知合いですか?」
やんわりとアイザックが声をかける。主人であるサプフィールも置き去りにこのまま昔話に花を咲かせそうな勢いに、さすがにこれは不味かろうと判断したからだ。
「ああ! 傭兵時代にな! …これは失礼しましたサプフィール様。つい、懐かしい顔が見えたもので…」
アイザックに答えたところで、サプフィールの姿を再び捉えた彼は恐縮し恭しく頭を下げた。
「…構わん。二人が知り合いだったとはな。紹介する手間が省けたと思っていいのか?」
自分を差し置き他の男と楽し気に話すスピネルに少しの苛立ちを感じつつ、領主としての威厳を損なわぬよう取り繕うサプフィールだった。

「そうですね。執事殿は心配していたようですが、本物の銀狼で間違いないですぞ。あとはこちらにお任せいただいて大丈夫です。」
サプフィールの本心も知らず、兵士長レオは『こいつのことは昔馴染みだから何でも知ってるぜ』的オーラも全開に答えた。
『あー… これめんどくさい展開ヤツだな。』
スピネルは今夜サプフィールをどうやって宥めるかについて思考を巡らせ始めるのだった。
「そうか。」
サプフィールがそう一言答えるや、
「少し失礼しても?」
と、執事が言葉を投げかける。
「どうした?」
「いえ、その、伝え聞く銀狼のイメージと随分違っていましたので… 何と言いますか…」
歯切れ悪く兵士長のレオとスピネルの顔を交互に見ながら執事が言う。
「ははは! 執事殿は存外可愛らしいところがありますな! 英雄譚など、人々の夢を壊さぬようある程度は捏造されておりますぞ。」
豪快に笑い飛ばすレオに、サプフィールと執事はそれぞれ反応した。思うところは違っていたが、興味を持ったのは同じだった。
「では、実際は…?」
「あ、それ私も興味ありますね。」
執事が問いかけるとすかさずアイザックも乗ってくる。面白いことなんかねぇよ、と言うスピネルをよそにレオは、
「気になりますかな? まあ、話せるのは英雄になる前くらいまでですがね。」
と、愉快そうな顔をして語り出した。

「…こういうのは望んでねえんだよな。」
と、一人呟くスピネルだった。
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