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第一部

第三十三話 ウェルシーナの単眼公

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 竜狩りと竜殺し。2つは呼び名こそ非常に近く、意味も近いが全く違う。

 竜狩りは、その名の通り竜を狩ることを生業とする強者達のこと。

 種族、性別、素性、あらゆる点で異なりながら、戦闘能力の高さが唯一の共通。特技を持ち、得意を持ち、仲間と合わせて竜を屠る。子供が憧れ目指す彼らは、時に勇者とも英雄とも称され讃えられる。

 対して、竜殺しは畏怖の象徴だ。

 狩ろうと思って挑んだのではなく、仕方なしに敵対して竜を殺した絶対強者。殆どの場合は個人であり、巨大な竜の亡骸を死の臭いと共に担いでくる。そしてその足で商業ギルドに直接出向き、法外な報酬を手に絶句の大衆へ冷たく一瞥。

 ――――ディルシナ魔王国防衛大臣、オルサ・ヴェス・エンディグレル・ウェルシーナは後者だ。

 鍛冶の修業を抜け出して剣の修練をしていたところ、ボルカニックドラゴンに敗北しかける竜狩り達を見つけた。種族特性で高熱耐性を持つ彼女は、熔かされる剣を振って冷やして何度も何度も斬り付け斬り裂く。残り2割まで縮んだ刀身で首を落とし、上げたのは勝鬨ではなく羞恥に満ちた大きな悲鳴。

 2mを超える大剣が熔かされて、服も鎧も無事である筈がない。

 その後、竜狩りの長を務めていたウェルシーナ家長男に見初められ、嫁いで行って先立たれて子供のいない未亡人となった。

 血統からすれば部外者なれど、竜殺しは単身で国家クラスの脅威となる。彼女の故郷グレスティースは既に廃墟。放出を回避する為に当主として担がれて、戦争続きの世界を敏腕辣腕で切り開いている。

 …………そんな相手と、これから話す。


「旦那様、お身体は大事些事ないかしら?」

「おかげさまでっ、なんとかギリギリ間に合ったよっ。治癒ポーション依存症になったらどうするつもりっ? 痛いって言っても無理矢理残党狩りに駆り出して連れ回すしっ」

「事前に多少露出した方が、民は現実を現実と受け止めてくれますから。竜殺しに新生黒王なんて幻想紛い、噂の範疇と疑われ嘗められます」

「ホワイトドラゴン打倒はレジスタンスの手柄にしたかったのに……っ。まぁ、もういいよ。それで、単眼公はいらっしゃってるの?」

「これから迎えに出向くのです。一大臣と言えど、相手はディルシナ。魔族の大国家を相手に、内戦後の簒奪国家は尻尾を振れても牙を剥けません」


 真っ白な下着姿のユルウェルに髪を梳かれ、上半身裸の自分を大鏡越しにマジマジ見つめる。

 白と金と緑に溢れた、樹王城最上階の樹王居室。

 新たな主たるユルウェルは同色、反して僕は色白に浮くほくろの如く。20人ハーレムを住まわせても余裕ある空間にあり、足りない黒がどうにもムズ痒い。群青の髪に黒の肌がアウェイを感じさせ、いつものポニーテイルに纏めてくれた彼女を抱き寄せて抱えて弄り落ち着く。

 ものすごく穢したいけどっ。

 僕の色に今すぐ染めちゃいたいけどっ。


「元気な旦那様っ」

「回復に集中して、昨日までできてなかったからねっ。あと、白の中の黒って凄く気になるっ。傷が疼いて仕方ないよっ」

「私は好きですよ? 毎日舐めて癒してあげたいくらいに……れるぅ…………」


 僕の右目の周りを熱烈に、欲情を籠めた舌が這って回る。

 彼女の頭で鏡から隠れる、縦に入った大きな斬痕。故郷を滅ぼされて捕らえられた際、抵抗して斬られた屈服の証拠だ。別に好きでも嫌いでもないのだけれども、成り上がった今だからこそ毎時毎瞬心を抉る。

 惨めな過去を、虐げられた過去を。

 どうあっても消せはしないと、瓜二つが突き付け最悪。


「慰めてくれるのは嬉しいけど、その辺にして。逆につらくなっちゃう」

「もうちょっとっ、もうちょっと味わわせてくださいっ。旦那様の傷っ、今私が独り占めしてるのっ。昂っちゃうっ。お迎えに行かないとなのに昂っちゃうっ」

「はいはい、2人共準備できてる~? できてないわねぇ~。デキ上がっちゃってはいるけどぉ~……」

「おはよ、アルマリア。みんなちゃんと寝れた?」

「ヴィナちゃんはね。デルサは逃げようとしたから簀巻きにしてある」


 下ろした髪を左右に梳き広げ、緑白のドレスを着た金髪褐色の令嬢は言葉と裏腹の笑顔を見せる。

 暗い暗い闇に染まった、嫉妬塗れの強い微笑み。

 普段の遊女感を脱ぎ捨てて、歳相応の若さを見せる恋愛初心者貴族娘感。実年齢20未満だからこそ、漂う負圧に深刻が混じる。放っておくと刺されるかもしれず、自己防衛の為に表向きの妻を引き剥がした。

 『渡せ』のジェスチャーを明確に向けられ、掴んで押して身柄引き渡し。


「あぅんっ、旦那様ぁあああっ!」

「ユルウェル様はあっちの部屋で身なり整えましょうねぇ~? オルドラちゃん、レイレインちゃん、手伝ってくれるぅ~?」

「みんな仲良くね。――――さて、着替えてご飯食べて出迎えに行って、その後は流れ次第でどうなるか」

「…………余裕そうだな」

「それほどでもないよ?」


 影からヌッと頭を出した、僕以外の黒に苦笑を向ける。

 一応あちらさんと直接のパイプとなる、巨漢の諜報員は目を閉じ静か。普段なら遠慮なしに出る皮肉嵐が鳴りを潜め、違和感から笑いを消す。何か問題があったのか、膝をついて顔を近づけた。

 一体、どうしたのだろう?


「どうかした?」

「いや…………先に言っておこう。すまない」

「この期に及んで裏切り宣言? 無手だからって簡単にはやられないよ?」

「そういう意図じゃない。前に言ったの、覚えてるか? 『勢力としては味方。お前個人の味方かは保証できない』。そういう事案だ」

「にしては元気がないよね? いつもだったらもっと喜ぶのに」

「身に染みて知っとるもんね、グロウバルンは。さてさて、竜殺し同士仲良くしよか? 性奴隷にしよ思っとったけど、具合によっては隠居もえぇかもなぁ? 精々楽しませぇよ、サムア・ディアリ?」

「ッ゛!?」


 影から出てきた『青肌』の巨腕が、転移回避より早く僕の足首を掴んで引き込む。

 真っ白だった部屋は真っ黒に染まって、色以外の景色は全て同じ。無駄に高い調度品、無駄に凝った彫刻のベッド、無駄に豪華なシャンデリアの無駄尽くしの悪趣味寝室。だが1つだけ先ほどと違うところが明確で、バスローブ姿の230cm女サイクロプスが前を開けてこちらに迫る。

 末の妹より高く鍛え、上の妹より遥かに大きい。

 戦士として女として優れるソレは、僕に息と唾液を呑ませ金縛った。腕を掴まれ肩を掴まれ、仰向けに押し倒されて未来を悟る。直近か少し後かずっと後かはわからないけれど、視界を覆い遮る銀髪の幕は僕の逃げ道を尽く遮り阻む。

 大きな瞳と、火照った頬。

 昔のように、僕は犯される。


「たまらんなぁ……っ、そんな顔されると加減できへんよ……っ」
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